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誰がために僕は希う。  作者: 蓮見いち
第1幕
14/16

013 露呈する歪み

前回から投稿がかなり遅くなってしまいました。

本業他、色々と調べながら進行させていただいておりますので何卒ご容赦願います。


「軽い」


カンッ、と情けない音を響かせて、僕の振りかぶった剣は弾かれた。

「真剣を木剣で弾くってそんなのアリかよ…ッ!?」

「なんの力も乗ってねぇ剣なんざ、ただの棒とかわんねぇってことだよ」

パウルは片目を瞑りながら、ニヤリと小さく笑みを浮かべて振り抜いたばかりの木の棒を担ぎ、肩をトントンと叩いていた。ここに来る道中で、その辺りで拾ってきた“ちょっと堅い木の棒“でも切れないだけで打ち合うことは出来るとパウルは言っていたが、早速実践で証明されてしまったようだ。そんな馬鹿なと叫びたくもなるが、事実僕の剣はその役割を全く果たすことなく抑え込まれてしまっているのだから認めざるを得ない。

「まぁ、よく分かった」

「は?分かったって何が…?」

思わず眉間にしわをよせてしまう。たった一合打ち合っただけで何がわかるというのか。畏まるな、敬語を使うな、ここまで言っても使うなら稽古はつけないと言われたためにややぶっきらぼうな言い回しになっていることに加えて、ものの数秒で「分かった」などと言われてしまったことで不機嫌さが出てしまった。ふぅ、と深呼吸して気を落ち着かせ、パウルを再び見やる。

「ハハッ!!まだまだ精神面は未熟だな!でもそれを自覚して落ち着けたんならとりあえず良しとするか」

彼はそう豪快に笑いながら話を続ける。

「…」

そう指摘されてはっとする。この世界に来てからたまに感じる感情の振れ幅の大きさ。よく精神は体に引きづられるものだという話は聞くが、もしも精神年齢まで10歳に後退しているとなったら、僕は周囲の大人から見てさぞ滑稽な道化のように映るだろう。いずれにしても彼は何も悪意があってそんな言い方をしているわけではないのだ。今やるべきことは彼の稽古に全力で食らいつくこと、そしてできるだけ多くの技術を盗み取ることだけだ。僕はある意味で、今パウルからの試験を受けているようなものなのだからーー…。


時は少し遡る。


・・・


「実践を重視するとは言ったが、俺はお前さんたちのことを良く知らない。だから一旦、動きを見せてもらう」

「わかった」

 ここはイースト・エンドから少し離れた平原の一角だ。街から程近いこともあり比較的安全なこの空間で、僕たちは所謂模擬戦を行なっていた。といっても、今回は僕が打ち合うだけでウィズとディディはそんな僕を見ている役割に徹している。教えるにあたり、ぼくの動き方を見ておく必要があるとパウルが言い出した時には、実践重視の考え方とのギャップに思わず腰を抜かしそうになったものだが、それだけパウルが真剣に面倒をみてくれるだけの意思の表れだろう。


螺子燕(ボルトスワロウ)による大怪我はウィズの力によって治癒されてたものの、失った血や体力まで戻るなどという都合の良いことは流石に無く、結局3日ほどはベッドで横になる生活を送っていた。ようやく動き回ることができるようになったものの、身体は大分凝り固まっているのが分かる。そんな身体を解すという意味でも、この提案はありがたかった。

「えっと、それは私も後衛として参加するということでしょうか…?」

するとおずおずといった感じで控えめに手を挙げながらウィズが会話に入ってきた。

「いや、今回はよしておこう。嬢ちゃんは…そうだな、坊主の動きを見てその癖を掴むことをまず考えてくれ」

「アタシは?」

「チビっこも嬢ちゃんと一緒だな。今回は魔法禁止だ」

「チビ…っ!?」

パウルの言い方から、今回は純粋に僕の剣だけを見ることが目的のようだ。正しく、模擬戦と呼ぶべき訓練だろう。普段のディディであれば自分も混ぜろと暴れ出すのではないかと思ったが、そんな心配は杞憂だったようで大人しくウィズの元へ寄って行く。どうも一連の突撃蜥蜴の一件以降、ウィズとディディの距離感が縮まった気がするのだが気のせいだろうか。そんな2人の様子を微笑ましく見ていると、背後からパウルが声をかけて来る。

「よし、んじゃ細けぇことは無視してとりあえずやってみるか」

そういって、パウルは武器を取った。


ーーあらかじめ拾っていた木の棒を。


「あの、僕の木剣はどこに…?」

しかし、彼はいつもの大剣もウィズ達の近くに置いており、その他武器の類を持っているようには思えない。それはつまり、木剣が一本しかないことを示唆していた。僕は嫌な汗が頬を伝うのを感じながら、パウルの答えを促すように恐る恐る目を見る。

「坊主は持ってんだろうが」

「はい?」

「その背中の剣はお飾りか…?」

それは半ば予想された一言だった。しかしパウル自身から言われてしまったことで、直視したく無かった現実が露わになる。そう、木剣の相手に真剣で打ち込まなければならない模擬戦という形で。

「いや、でも真剣じゃ…」

「…俺はお前程度に傷つけられるほど弱くねぇよ」

街も近いのだ。もう一本の木剣を用意して戻って来るとしても大した時間はかからない。ならばここは、なんとか引き下がってもらった上で安全に訓練を行えるようにするべきだーーそう思っての説得だった。

「そうじゃないでしょう。僕は真剣であればあんたに勝てるといっているんじゃなくてーー…」

しかし、彼は問答は無用だとばかりに“威圧”をかけてきた。僕はたまらず言葉尻を引っ込めてしまう。

「ほらな、こうして威圧をかけられた時点で、剣の柄に手をかけることすらしない。それが今の坊主の現状なんだよ」

パウルはやや呆れたように僕の腰元にある剣を指さした。文字通り、お飾りと化していると暗に指摘されていよいよ僕は反論の言葉を失ってしまう。

「それに、だ。お前に()()()()()()()()()使()()()()余裕があるのか?」

そりゃ意外だ、とパウルは大袈裟に呆れた仕草を取ったのち、再び纏う空気を変えた。

「舐めてんじゃねぇぞ。重さ、長さ、握りの感触…。同じ職人が作った同じ型の剣でさえ、物によって違った感触がするもんだ。だっていうのに、殺意に対して反応すらしない戦士未満の子ども(ただのガキ)が、木剣でつけた癖のままいざって時に自らの得物を扱えんのかよ?」

「それは…」

詰まるところ、彼の思考は極めて実践的な領域にあるのだろう。当然だ。この魑魅魍魎の跋扈する世界をその身一つで歩き回りながら、まともな防具もつけずに剣一本で生き抜いている男なのだ。一連の発言には、パウルからすれば、自らの獲物を木剣としていることすら譲歩なのかもしれないと感じさせるだけの説得力があることも確かだった。

「素振りそのものに意味はねぇ。だが俺は毎回坊主に素振りをさせるつもりだ。なんでか分かるか」

「…剣に慣れるため」

「そうだ。じゃあ慣れるってどういうことだと思うよ」

「…」

慣れる、と聞けば作業をルーチン化したりするプラスの側面と楽しかったことが退屈になっていくような刺激の喪失を想像する。だが戦闘に照らし合わせればどちらもあまり適した要素ではない気がした。

「…咄嗟に動けるように?」

「…言い切れよ。それも坊主の悪い癖だが…まぁいい。考え方としちゃ今の回答で間違ってねぇ。だが本質は捉えられちゃいねぇな」

パウルのそんな反応に、少しだけほっと胸を撫で下ろした。

「いいか?殺し合いの場面で、死に物狂いで襲いかかってくる敵はなんでもする。生きるためにだ。その状況にあって、敵の行動を分析しながら剣の振り方を考えた奴は、その分初動が遅れて死ぬ。振った剣が思い通りの場所に走らなければそのズレで死ぬ。抜剣が間に合わなければそもそも死ぬ」

パウルの言葉は、なぜかずしりと身に沁みる心地がした。考えてみれば当たり前のことなのだ。自分の意思で、この口で「守りたい」と言っておきながらも、やはり僕はまだまだ甘い思考を捨てきれていないのだろう。命のやり取りに綺麗も汚いもないのだ。生きるか死ぬか、どれだけ無様な姿を見せることになってでも前者の結果を勝ち取らなければなんの意味もないのだから。

(…ーー僕はそれをあの森でちゃんと学んだはずなのに)

自身の覚悟が、パウルのような戦士からすればそのスタートラインにすら立てていなかったことに気づいて思わず歯を食いしばる。

「いいか、戦闘中に余計な思考を持ち込んだ奴から死ぬんだよ。だから戦闘外で消せる思考は事前に潰せ。全て無意識でやれ。やれなきゃ死ね」

それはきっと、元いた世界で言われていた“反射で動く”という話に近いものなのだろう。

「敵はいつ現れるかわからねぇ。明日にだってくるかもしれねぇ。そんな状況で、お前さんは()()()()()なんて悠長にしている暇があるのか?」

僕はパウルに師事する中で、その一合一合にちゃんと考えを持って打ち合わなければならない。訓練とは、慣れとは、思考を殺して最良を掴み取るための禊のようなものなのだと心に命じた。

「守るんだろ?なら教わる側が遠慮してんじゃねぇよ。必死ってのは相手に配慮してつかみ取れるもののことを指しちゃいねぇんだよ」

そうだ。僕は甘かった。「守る」ということがどれだけ難しいことなのかを自覚しなければならない。

僕は強くなりたいのだーー。

最後まで聴き終えて、ようやく僕は腰の剣を抜いた。一刻も早く、この剣をお飾りから命を預けられるだけの一本へと昇華させるために。


爛々と輝くその鋼の切先が、相対するパウルの正面からはやや逸れていることに気づくこともないまま、それでも確かに真剣な瞳でーー…。


・・・


「っらぁ!!」

ゴンッ、ガッ、ミシッと鈍くも激しい打ち合いの音がこだまする。

(隙ってなんだよ…ッ!!)

良く漫画やゲームで使われる台詞にある”隙“という言葉。そんなものが存在するのか疑わしく感じる。これはパウルが相手だから見えないのか、僕自身にそれほどの技量が無いから見えていないだけなのか…判断がつかない。だがパウルは圧倒的に格上の相手だ。どうにか考えてその”隙“とやらを作らなければ、一撃を入れることすら叶わないだろう。素人ながらにそう思わされる程に、パウルの立ち振る舞いには無駄がなかった。パウルは右手で剣を握っており、半身の体制でゆったりと立っている。相変わらずその身長は圧倒的に高く、体躯は要塞を思わせる屈強さだ。不用意に飛びかかれば叩き落とされて終わるだろう。

(それならっ!)

僕はパウルに向かって低い位置から突進をかけた。そしてあと2歩ほどで剣の刃がぶつかろうかという距離で、軸足を踏み込み左へ飛んだ。

(右から攻撃を集中して、姿勢が捻れたところで背面か反対側に回りこめばそこは”隙“になるはず…ッ!!)

しかし流石は歴戦の剣士だ。飛んだ先、これといった動揺もなくパウルの剣が上から振り下ろされる。その一合を、突進の勢いで刃の腹から払うように押し込んだ。同時に死んだ勢いを捨て、着地。視線はパウルの木剣へ。数秒の猶予もなく、膂力の差で弾き切れなかった木剣が返す刃で襲いかかってきた。僕はその木剣に、持っていた剣を滑らせるようにして、ブリッジの要領でなんとか刃の下をくぐり抜けることで回避することができた。

(あっぶな…っ!!)

転びそうな身体を、なんとか左手で支え、軽く転がりながらもすぐに立ち上がる。

「ふっ!!」

間髪入れずにそのまま強く踏み込んだ。

「…」

パウルの目線は変わらず僕を捉えているが、先程振り抜いていた右腕はまだ帰ってきてはいない。人体構造上、下手に回り込むよりも、ここを狙う方が良いと感じたままに切りかかり、ガラ空きとなったパウルの右半身に向けて横凪の一閃を放とうとした。

ーーが、予想よりも勢いの乗っていない一撃は、あっさりとパウルに弾かれてしまった。ガキッ、と鈍い音なのか衝撃なのかわからない振動が、両腕から頭蓋骨の内側へと伝播するのを感じた。そして同時に、身体が嘘みたいに後ろに吹っ飛んでいく。

「う…っ!!?」

「カツキ君!!」

「カツキ!!」

ウィズとディディの悲鳴が聴こえるが、なす術なく地面に叩きつけられ、そのまま何メートルか転がる羽目になった。

「がふっ、げほ…っっ!!?」

目が回り、どちらが上か分からなくなる。揺さぶられた脳が視界をチカチカとホワイトアウトさせるため、手足で地面の感触を探りながらなんとか身体の50%ほどを地面から引き剥がすことに成功した。

(早く、起き上がらないと…っ)

この1秒か2秒があれば、強者は一瞬で距離を詰めてきて終わりだろう。そしてこの世の中にいるほぼ全ての存在は、間違いなく強者なのだ。倒れたままではいられない。ぐぐぐ、となんとか起き上がり、剣を構えてパウルを鋭く見据えた。

しかしーー…


「やめだ」


「…っ!?」

必死に食いしばって立ち上がった僕の意思をへし折るかのようにな唐突の終了宣言に、思わず身体がびくりと震える。何か彼を怒らせるようなことをしてしまっただろうか。そう思い、改めてパウルの顔を恐る恐る伺うと、そこには地面の方へ視線を投げながら、何か思案に耽るパウルの姿があった。

あの、と声をかけようとしたが、一瞬早くハウルが口を開いたことでその呼びかけは喉の奥へと引っ込んでしまう。

「坊主」

「はい、なんでしょうか」

無意識に敬語に戻してしまった。下手なことで彼は怒っているのだろうか。それさえも分からず必死で頭を回転させるも、妙案は浮かびそうにない。

「お前さんから見て、俺の腕はどうだったよ」

「え?」

「打ち合った感想だよ」

「…隙がなかった。自分なりに考えて組み立てていたつもりだけど、全部防がれて、挙句こうして吹っ飛ばされた」

「あぁ、狙いは良かったかもな」

彼の賞賛は特に裏表のない素直な感想に感じられた。しかし彼は虚空を見上げながら、思案するそぶりを見せている。それがなんとも居心地が悪い。

「なぁ、何か改善すべきポイントがあるならそれをーー…」

たまらず聞いて見ようとするが、彼は片腕をすっと持ち上げ、その掌をこちらに向けた。静止しろと促されれば僕はもう黙るしかない。しかし、待ち望んだ彼の回答は言葉ではなく所作で持って示される。

ーー彼は木剣を捨て、代わりに愛用の剣を構えて見せたのだ。

「…は?」

「こいよ」

唐突な挑発に、混乱した思考で反応が遅れた。しかし、彼は剣を持ち替えた上でいきなり襲いかかって来るようなことはしなかった。つまりこれは荒療治の類ではないのだろう。

(訓練の延長ってことでいいのかーー…?)

なお混乱はしていたものの、意識して深く呼吸をすることで、散り散りになっていた思考を再びパウルへと収束させる。今度は木剣ではない。真剣だ。しかも片手剣ではなく、彼の愛用する大剣である。加えていうのであれば、彼の手に馴染んだこれ以上ない最上の武器ーー…。普通に考えれば、パウルが一振りする間に僕の剣が数太刀その身体を食い破る方が早いだろう。

(でも、なんだ…?不思議とさっきまでよりも安定して見えるのはなんでだ…?)

それは呼吸なのか、彼が愛用の剣に寄せている信頼感なのか。全くもってよくわからなかったが“今のパウルなら何をしても大丈夫”という奇妙な安心感が胸の中を席巻していた。そんな纏う空気の安定感がそこにはあった。

「…スゥーー」

僕は自分の肌を覆う空気がピリリと刺激を持ったものに変わったことを感じながら、一息にパウルとの距離を詰めたーー!!!

ギャリィィ!と刃が触れ合う音がすると同時、僕はパウルの大剣と自らの片手剣の接点を中心点として、勢いに任せて身体を浮かせた。同時に身体の正面を常に大剣に向けるように捻り、パウルと大剣の間に入り込まんとする。しかしそれを察したパウルは大剣の刃を上空へと向け、思い切り振り上げた。

(馬鹿力すぎるーー…ッッ!!?)

突進方向に向いていた勢いのベクトルが、無理矢理中空へと向けられる浮遊感にゾクリとしたのも束の間。彼の大剣はまるで何かで接着しているかのように、支点としていた接触箇所をぴたりとくっつけたまま、僕の身体を片手剣ごと地面に叩きつけようと円を描く。

「っラァ!!」

「あああああ!!!」

パウルの裂帛の叫びにあてられたかのように、僕も咆哮を上げて抵抗せんと動くーー!!咄嗟に大剣の腹を蹴り飛ばし、横に滑り飛ぶような形で距離をとったのだ。ギャリィッ、と擦れ合う刃が火花を散らし、束の間の攻防に刹那の間隙が生まれた。

(ここッ!!)

それを唯一の隙と見た僕は、躊躇なく突進をかける。その刃先をガラ空きとなったパウルの脇腹に向けながら。

(取ったーー…!!)

弾かれた大剣、ガラ空きの脇腹。確実に入るその“隙”に滑り込む片手の刃。集中力は限界に達し、もはや己の全力でもって一撃を入れることのみが僕の脳の中を支配していた。一瞬の攻防で身体は熱くなり、頭だけがどこまでも冷たく隙を狙うその状態は、いつも頭を駆け巡る取り止めのない思考の全てを追いやって、どこまでも澄み渡っている。しかし、それは全てが自分にとって都合のいい状況であるがゆえの愉悦に過ぎないことを直後に痛感する。

「は?」

パウルは振り抜いた大剣を引き戻せないと判断するや否や、()()()()()()()()()()()のだ。

(何を考えてーー…ッッ!)

全力で切りかかっている自分という相手がいながら、唯一の獲物である大剣を放棄するその自殺行為としかとれない状況に思考は一瞬で停止してしまった。

「ふんっ!!」

「!!?」

しかし、その心地良さと混乱の乱高下は、まるごと一瞬のうちに遮られてしまった。勢いを乗せた刃が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。急制動した刃を軸に、身体がふわりと浮き上がる。だが目の前で起こったその在りうべからざる状況を前に絶句してしまい、剣を手放してしまった。当然、僕はそのまま身体を放り出されてしまう。

(あーー…)

これはまずい、と本能的に悟った。まともな受け身が取れそうにない。しかもこのままでは首から落ちる…。汗腺が一気に開き、脂汗が吹き出した。なす術なくギュッと硬く目を瞑り衝撃に備え、そしてーー…


「目を開けろ、馬鹿が」


備えた衝撃は一向に来ず、代わりに片足をパウルにがっしりと掴まれた状態で宙ぶらりんになっていることに気づいた。その姿勢のまま視線を動かせば、尋常じゃなく心配した顔でディディとウィズが駆け寄ってくるのが見えた。

「あ、ありがとう…」

「はぁ…。お前さん、俺が獲物を大剣に持ち替えたことで、自分にどんな変化があったか自覚はあるか?」

「…?」

変化?変化などあっただろうか。確かに甘かったかもしれないが、それでも都度全力で立ち合いに臨んでいたことは確かだ。

「いや…?」

「…重症だな、こりゃ」

ぼりぼりとパウルは後頭部を掻きながら、ぽいと僕を話して捨て置いた。

「いってぇ!?」

「坊主」

突然地面に放られた痛みに耐えながら起き上がると、パウルは後ろ目に僕に告げた。

「お前さんは、しばらく自分自身と向き合え。それまで実戦はなしだ」

「…え」

手をひらひらとさせて、彼は荷物をまとめにかかる。僕たちはこのまま西を目指して旅をするのだ。当然化け物から動物までいくらでも湧く。しかし今日の打ち合いでもって、僕は実戦に参加するなと言われてしまった。その理由が分からず、動悸のような粗く不自然な呼吸になってしまう。

(僕は、役立たずってことかーー…?)


光明の見えないパウルからの課題に、僕の両足は急速に重たくなっていった。まるでぬかるんだ泥の中を進んでいるかのようにーー。

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