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素晴らしいこの世界の片隅で。

優しい風

作者: ニチニチ

優しい風が吹く。

それは、誰かの優しさを乗せて流れていく。



僕の住んでいる場所の近所に、お弁当屋さんがあった。

土日になると、たまに買いに行っていた。


ボリューム満点で、手作りだから美味しかった。


そこは、いつも結構忙しそうだった。

店の人は、全員がおじいさんとおばあさんだけだった。

だから、出来上がりがすごく遅い。


予約をしないと待たされる。

それは分かっているのだけれど。

店内には、いつも優しい空気が流れていた。


何だかとても心地よい感じがしてて。

物心が付くぐらい昭和を生きてはいないけど。


そこには、確かに過去が存在していた。

少しでも昔に触れていたくて。

いつもいつも、予約をせずに、ただただ待っていた。





そんなステキな居場所。

でも、未曾有のウイルスが世界を覆う。





久しぶりに、お弁当屋さんに足を向けてみた。

そうしたら、いつもの看板が見当たらない。

入り口のガラスに、空き店舗という看板が貼ってあった。





僕は、しばらくその場に佇んだ。

ただただ、待っていた。





けれど、やっぱり店内は空っぽで、誰もいなかった。

たまたま、店の人に遭遇することはなかった。

偶然、常連さんに会うこともなかった。





あの、優しい空気はどこへ行ってしまったのだろう。





それ以来、近くを通るとき、必ず立ち寄ってみる。

ひょっとしたら何かの間違いで、いつも通りになっているんじゃないか。




僕は、待っている。

何も出来ることはないから、ただただ待っている。

限りある時間を垂れ流しながら。




今日も、小さな町に優しい風が吹き抜けていく。

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