最終話 最強トランスポーター君臨す
「伊402号完全ふっか~つ!!」
「あいたた……コンバージョンの使い過ぎで腰が……」
ピカピカの甲板に立ち、嬉しそうにポーズを取るイオニ。
「あはは……ありがとうフェドくん!
後でたっぷり按摩(甲)したげるからね!」
「す、スペシャルマッサージ……(ごくっ)」
イオニのスペシャルマッサージはその……凄いのだ。
オクテな僕が勇気を出して彼女と恋仲になってしばらく経った……どういうふうに凄いかはご想像にお任せします。
「……ちょっとイオニ、抜け駆けは無しよ?
今日はあたしの番なんだから!」
たんっ!
修復なった晴嵐参号機から甲板に飛び降りたセーラが眉を吊り上げながら僕に抱きついてくる。
だきっ!
「……フェドはあたしの特級ヘル談付きマウスの方がいいのよね?」
つつ~っ……
「ふおっ!?」
セーラのしなやかな指が僕の首筋を優しく撫でる。
ヘル談とマウスが何の隠語なのか、調べない事をお勧めしますぅぅぅ!?
「ぷっ……あまりフェドくんをいじめちゃかわいそうだよ~っ」
頭を沸騰させる僕の様子があまりに可笑しかったのか、思わず吹き出すイオニ。
二人が奇跡の帰還を果たしてから1か月ほど……すっかり僕たちはこんな様子である。
お淑やかな”やまとなでしこ”はどこへ~!?
「くくっ……海軍はシモもスマートに、じゃぞ?」
「しかも待ちに待った半舷上陸……羽目を外すのは当然じゃの!」
「Yes! フェドカワイイですっ!」
だきっ!
「わぷっ!?」
彼女達を諫めるどころか、焚きつけてくるミカさん。
我慢できなくなったのか、満面の笑みを浮かべて抱きついてくるフィル。
「……まったく」
「睦み合うのは良いが、あと1時間で式典が始まるぞ?」
「そろそろ正装に着替えてくれないか」
青を基調とした皇族服に身を固めたイレーネ殿下が、やれやれと言う苦笑を浮かべながら伊402の艦内から甲板に登ってくる。
「わわっ!? そうでした殿下! 今すぐ着替えますっ!」
「え、もうそんな時間ですか!?」
殿下の言葉に慌てた二人は、僕の身体から離れ艦内に飛び込む。
「やれやれ……だが、こうやって騒がしい日常が戻って来たのは嬉しい事だな」
いつも通りなイオニ達の様子に優しい笑みを浮かべるイレーネ殿下。
「同感です」
万感の想いを込めて頷く僕。
そう……彼女たちは僕の元に戻って来てくれたのだ。
最後の瞬間……なにが起こったのかは詳しく分かっていない。
暗黒球の干渉なのか、異世界のドラゴンを倒したときの衝撃なのか……気が付いたらイオニ達は世界と世界の”狭間”のような場所に転移していたらしい。
混乱する彼女たちのもとに、最後に放った僕の魔力 (セーラいわく『最後っ屁』)が届く。
その魔力を使う事で、僕がいるボトムランドとイオニ達の元居た世界に繋がることが分かった二人は、僕の魔力をちょろまかしながら元の世界から少しずつ資材を召喚し、ボロボロに破損した伊402の艦体を修理したとのことだ。
どうりで一時期妙に身体に疲れが残ると思ったよ……。
もちろん内部の機械類を完全には直せなかったので、僕のコンバージョンで本格修理したんだけどね。
「西部諸国とレヴィン皇国の通商路が正式に復活した事を祝す式典だ」
「主役の君たちがいないとな!」
嬉しそうに僕の肩を叩くイレーネ殿下。
視線の先には港に面した式典会場が見える。
檀上に座り言葉を交わしているのはレヴィン女王と柔和な雰囲気を持った一人の男性。
レヴィン皇国から提供された秘術により健康を取り戻されたイレーネ殿下の弟君……つまりジェント王国の次期国王陛下だ。
「私も面倒な仕事から解放されそうだし……いよいよ君たちと世界一のトランスポーターギルドを目指す時が来たようだ」
晴れ晴れとした表情で青空を見上げるイレーネ殿下。
「はいっ! 全力でお手伝いさせていただきます……フェドと一緒に」
ぐいっ!
いつの間に着替え終えたのか、純白の軍装に身を包んだセーラが僕の左腕に抱きついてくる。
「えへへ! わたしも全身全霊で……フェドくんと一緒に」
ぐいっ!
同じく純白の軍装を身に着けたイオニが僕の右腕に飛びついてくる。
「はいっ! 僕たちが世界最強のトランスポーターですっ!」
確かなぬくもりと柔らかな唇の感触を両の頬に感じながら、僕は青空を見上げる。
二機の晴嵐が黄金のスモークを焚き空に両国の紋章を描く。
僕は愛する二人と共に、これからも世界を巡っていくだろう。
読んで頂きありがとうございます!
これにて完結となります。
面白かったと思って頂けましたら、評価して頂けますと次回作の励みになります!




