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第8-7話 イオニとセーラの決意(後編)

 

「い、一体何が起こっているんだ……?」


「どうしたのフェド? あれ、風が……」


 操縦席から戸惑い気味なセーラの声が聞こえる。


 あれだけ荒れ狂っていた嵐がウソのようだ。

 鏡のように静謐さを取り戻した海。


 だが、その上に浮かぶ暗黒球は赤黒く変色し……気のせいか二回りほど巨大化したように見える。



 ドクン……ドクン



 禍々しい姿に変化した暗黒球は、ゆっくりと海面高度まで降りてくる。

 暗黒球の株が海面に接触した瞬間。



 バチンッ!


 ウオオオオオオオオオオンンッ!



「んなっ!?」


 暗黒球から直径数十メートルはありそうな紫色の腕が生えたと思ったら、暗黒球の近くに停泊していたキングアルバン1世号を殴りつける。



 バキイッ!!

 ズドオオオオオオンッ!!



 拳の一撃で砲弾が誘爆したのか、バラバラになるキングアルバン1世号。


 ズオッ……グオオオオオオンンッ


 鈍い鳴き声と共に、巨大な頭と胴体が姿を現す。

 紫色の皮膚を持ち、見た目はレッドドラゴンに似ているが……。


「な、なんて大きさなの!?」


 ヤツの全長は200mを超える。

 ボトムランドのドラゴン種では絶対にありえない大きさだ。



『うひゃっ!? 上から変なエイが飛び出てきたよっ!?』


 シュシュシュシュシュン!


 イオニの悲鳴に視線を上に動かす。

 暗黒球の最上部に開口部が開き、銀色の円板のようなものが10機ほど飛び出してきた。


 直径は10メートルほど……円板からは長い尻尾のようなものが伸び、イオニの言うようにエイの姿に見える。



 キイイイイイイイインッ……



 円板エイは鳥やドラゴン種では絶対ありえないような軌道を描いて飛行し、フレッチャー級の1隻の真上を取る。



 バシュウッ!



 円板エイの口のような部分から青白い光が放たれた瞬間。



 ズドオオオオオオンッ!



 そのフレッチャー級は大爆発を起こし、一撃で海の藻屑となる。


「な、なにアレ! あんな飛行機見たことないわよ!?」


『これは私の推測だが……もともとあの暗黒球の”接続先”はイオニ君たちの世界だった』

『それが砲撃の衝撃で暴走し、色々な世界に接続してモンスターや機械をボトムランドに引き寄せているのだろう』


「と……いうことは……」


『あのモンスターも円板も……我々の世界と隔絶したレベルを持っている可能性がある』

『もしかしたら、イオニ君たちの世界とも……』



 ギュンッ!



 帝国艦隊のフレッチャー級をまた1隻屠った円板エイの一機が、晴嵐参号機に向けて進路を変える。


「マズい! セーラ、まずは子供たちをっ!!」


「分かったわ!」


 シュンッ!


 円板エイから放たれたビームを間一髪かわすセーラ。


『みんな! セーラ君の援護を!!』


 ドドドドドドッ!


 追撃姿勢を取る円板エイの眼前に、数十発の大砲が炸裂する。

 流石に異世界の円板エイと言えども、それだけの火力を集中されては耐えきれなかったのか、煙を吹き出しながら海上に落ちる。


『5分後にはレヴィン女王の封印魔術が完成する!

 それまでなんとしても時間を稼ぐんだ!』


「「「了解っ!」」」



 ***  ***


「はあっ……はあっ……円板エイはあらかた倒したみたいだね」


「フェドくん、大丈夫!?」


 魔力の使い過ぎで片膝をついた僕を、慌てて支えてくれるイオニ。


「みんな良くやってくれた……いけるぞ!」


 レヴィン女王と通信魔法で話されていたのか、歓声を上げるイレーネ殿下。


 僕たちの中で一番速度の出るフレッチャーに助け出したハイエルフの子供たちを引き渡した後、伊402に戻った僕は全艦の火力管制を引き継ぐ。


 ありったけの武装を積んだセーラの参号機が円板エイをかく乱し、みんなの一斉射で仕留める戦法で円板エイを全機撃墜することに成功。

 異世界のドラゴンは暗黒球を守ろうとしているのか、積極的に攻撃を仕掛けてこないので助かっていた。


 僕らは封印魔術の発動まで船を守り切ったのだ。


「ふ、ふええ……わたしも限界……」


 緊張の糸が切れたのか、ぺたんと甲板に座り込むイオニ。


「さすがに……疲れたわね」


 着水した参号機から汗だくのセーラが降りてくる。

 円板エイとの死闘を繰り広げた参号機の胴体には何条もの傷が刻まれ、再整備を施さないと飛べそうになかった。


『Fuu……訓練でもこれだけ撃ったのは初めてかも~』

『ハイエルフちゃん達も無事デスよっ!』


『皆の衆……素晴らしい戦いじゃったな』


 フィルとミカさんの声にも疲労の色が濃い。


「レヴィン女王の封印魔術が発動する……これで」



 パアアアアアアアッ……カッ!!



 イレーネ殿下の声に顔を上げると、北の方角から七色の光が立ち上るのが見えた。



 キラキラキラキラキラ……



 光の奔流は暗黒球の直上で弾けると、暗黒球を包み込むように拡がる。



 ゴゴゴゴゴゴ……ゴゴ……………ゴ



「揺れが、止まった?」


 周囲を圧していた不快な振動。

 それが止まると同時に七色の光の網は輝きを増す。



 キイイイイイイイイイインッ……バシュンッ!!



 まばゆいばかりの光が弾けた後……暗黒球の鳴動は収まり、赤黒かったその表面も最初に見た漆黒を取り戻していた。

 巨大なドラゴンの姿も消えている。


 ん? そういえば大きさがかなり縮んだような?



「ふむ……女王の話では、別の世界に繋がり高レベルのギフトを取り込んだことで暗黒球の力の大半が向こう側に流れたようだ」

「そのおかげで暗黒球は小さくなったようだな……アイツをどうやって大海の中心部に戻すのかという課題はあるが」


「ひとまず危機は去ったと言ってよいだろう」


「んんん~っ! やった~!」


 イレーネ殿下の言葉に、飛び上がって喜びを表すイオニ。


「ふたりとも、お疲れさまね!

 あ~もう、お腹ペコペコよ! はやくお汁粉にしましょう!」


 セーラも満面の笑みを浮かべている。


「ふたりとも、港に帰るまでがトランスポーターだよ?」

「それに、生き残った帝国艦隊を先導しないと……」


 もしかしたら、こちらに反抗する艦もあるかもしれない。

 ゆっくりできるのはもう少し後になりそうだ……そう思った僕が立ち上がった瞬間。



 グオオオオオオオオンッ……ズドオオオンッ!



 空中からにじみ出るように巨大なドラゴンが姿を現す。


「さっきのヤツ! まさか転移で封印魔法をかわしたのか!?」



 ドシャアアアアアアアッ!



 巨大なドラゴンの下敷きになり、帝国艦隊の一隻が真っ二つに折れる。


 グアアアアアアアアアアッ!



 魂が凍るような雄叫びが辺りを圧し、真っ赤な顎がこちらを向く。


「くっ……こちらの戦力では!」


 僕は唇をかみしめる。

 度重なる戦闘でフィルとイオニの主砲は弾切れ。

 ミカさんの主砲も一斉射分を残すのみ。


 イオニの魚雷は残っているけど、ドラゴンに飛ばれてしまえば当てる術はない。

 なにより、封印魔術の効果で辺りに満ちていた魔力も抑えられてしまった。


 この場から撤退したところで、後をつけられれば回復の間もなく殲滅されてしまうだろう。

 打つ手……無しなのか?



「まだ一つ……手があるわよ」



「セーラ?」


 セーラの声に僕は彼女に向き直る。


「まず、残った壱号機に80番 (800㎏爆弾)を積んであたしが飛ぶでしょ?」

「そして、ミカさんの主砲でアイツの頭を押さえて飛ばせないようにする」

「次にあたしが80番を叩きつけて傷をつける……そこに」


「残った酸素魚雷12本を一斉に叩き込むって寸法だよフェドくん!!」


 セーラの言葉を引き継ぎ、ドンとイオニが胸を張る。


「で、でも伊402は……」


 同時に8本しか魚雷を発射できないはず……一体どうやって。


 しかも、命中のタイミングをセーラと合わせるなんて至難の技じゃないだろうか?

 流石に無茶が過ぎる……僕はイオニを諭そうとするのだけど。


「えへへ……ちょ~っと無茶だけど、フェドくんにもらった魔力を使って信管を一斉に起爆させるの」

「艦首をあのどらごんに突っ込んでね」


「!?」


 あまりに無茶な彼女たちの提案に、思わず血の気が引いてしまう。

 そんな事をしたら、伊402の艦体は!


「う~ん……流石に耐えきれないよね」

「でも大丈夫! わたしはセーラちゃんに回収してもらうから!」


「そんなこと……!」


 身体強化の魔法を使えない彼女たちにそんな離れ業は出来ないはずだ。


「それなら……僕も行く!!」


「フェドくん……」


「フェド……」


 とっくに魔力は尽きているけど、彼女達だけを死地に行かせたくない。

 伊402のエンジンにチャージしている魔力を少し取り出せば、脱出のための身体強化魔法を使えるはず!


「えへへ……やっぱりわたしたちのフェドくんかんちょ~だね!」


「まったく……格好つけちゃって!」


「そっちもでしょ?」


「へへっ!」


 屈託なく笑うセーラ。


「という事で……僕たちは行きます、殿下」

「この子をお願いします」


 最初に助けたハイエルフの少女を殿下に託す。


「フェド君……」


 巨大な異世界のドラゴン。

 アレを止める術は人類に存在しない。

 ここで食い止めないと、レヴィン皇国だけでなく、世界に甚大な被害が出るだろう。


 その事が分かっているから、僕たちを止めることはしない殿下。

 だけど、その大きな双眸には涙が溜まっている。


「ちゃんと帰ってこないと……今月の給料は無しだぞ?」


「「「はいっ!」」」


 ハイエルフの少女を抱いたイレーネ殿下を内火艇に乗せる。

 フィルに拾ってもらうのだ。


「よ~しっ! ちゃっちゃとやっちゃいますか!

 ……うーんと、そのまえに」


 大きく伸びをしたイオニは、セーラと目配せを交わす。


「んっ……」


 ちゅっ


「もう、あたしまた2番目なの?」


 ちゅっ


「え、ええええっ!?」


 持ち場に走ろうとした二人が、不意に僕の唇を奪う。

 その柔らかな感触に混乱する暇もなく。



 とんっ



「……は?」


 イオニの両手が、優しく僕を突き飛ばす。

 甲板から離れた僕の身体は、速度を上げようとしていた内火艇の上にゆっくりと落ちる。


「いっくよ~~っ! 全速前進!」


「しくじるんじゃないわよ、イオニ!」


「もっちろん!!」


 ディーゼルエンジンの鼓動が増し、一気に加速する伊402。


「イオニ!!」

「セーラ!!」


 ありったけの声を出し、右手を伸ばすが届かない。

 僕の目の前で、伊402の艦体はみるみる小さくなっていった。



 ***  ***


「いや~、やっちゃったねセーラちゃん」


 ヘッドセットに向かって語り掛けるイオニ。


『まったく……フェドは嘘がヘタなのよ』


「だね~っ」


 ずっと戦い続けていたフェドの魔力が空っぽなのは明らかだった。

 いっしょに戦ってきた彼女たちには分かってしまったのだ。


 優しいフェドは、エンジンに残った魔力や……もしかしたら自分の命すら差し出してわたしたちを助けようとするかもしれない。

 だけどそれではあの敵を倒す事は出来ない。


 全ての魚雷と火薬を一斉起爆させるには、伊402に残されたすべての魔力が必要になる。

 海の戦士である彼女たちは、冷静にそう判断していた。


『だけど……最後まで足掻くわよ?』


「もちろん!」


 九死一生……もしかしたら万死一生かもしれない。

 彼女達は生還をまだ諦めていなかった。


『タイミングが命……行くわよっ!』



 ズドオオオオオンンッ!



 こちらの覚悟を正確に汲んでくれたのだろう。

 戦艦三笠の砲撃が、飛び上がろうと翼を広げた巨大ドラゴンの右の翼を吹き飛ばす。


 グオオオオオオンッ!?


 バランスを崩したドラゴンの左腹があらわになる。


『!! あそこにキズをつけるわ!!』


「了解っ!」



 キイイイイイインッ!

 ガキイッ!



 ドラゴンの直上から急降下した晴嵐壱号機から、800㎏徹甲弾が切り離される。

 帝国海軍最強の航空爆弾は、願いたがわず巨大ドラゴンの左腹に突き刺さる。



 ズドオオオオオンッ!


 ギャオオオオオオンッ!



 爆発が起き、小さな傷がドラゴンの腹に開く。


「行けるっ!」


 思ったより頑丈な装甲だが、相手も生物である。

 あの傷を通して酸素魚雷12本分の爆発力を叩きつければ必ず倒せるはずだ。


「耐衝撃防御っ!」



 ガイイイイイイイインッ!



 伊402の艦首が、ドラゴンに体当たりする。



「起爆っ!!」


 キイイイイイインッ!



 残った魔力で魚雷の信管を起爆する。

 イオニの視界は甲高い爆音と白に染まった。



「フェドくん……ありがとう」



 ***  ***


「あ、ああああ…………」


 ”ありがとう”……イオニの声が聞こえたと思った瞬間、まばゆい光が巨大なドラゴンを包む。



 ゴオオオオオオオオオオッ



 その光は、伊402の艦体と宙を舞う晴嵐壱号機すら飲み込んでいき……。



 カッッッ!!

 ズドオオオオオオオオオンンンンッ!!



 巨大な閃光と爆発が辺りを揺らす。



「イオニィィィィィィィ!!」

「セーラァァァァァァァ!!」



 声の限りに叫びを上げる。


 何とかしなきゃ!!

 防御魔法、回復魔法……あらゆる魔法が頭の中に浮かぶけれど、

 魔力の切れた僕には何もすることが出来ない。

 僅かに残った魔力の搾りかすが、僅かに伸ばした右手から放出されただけ。



 シュウウウウウウウウウッ…………



 まばゆい光が消えた時……海の上には何も残っていなかった。


「そんな……」


 ぽたり……今さらながらに溢れてきた涙が、僕の右手に空しく落ちた。


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