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第8-6話 イオニとセーラの決意(前編)

 

『恐らく、中途半端な刺激を与えたから暴走しているんだ』

『だが、吸い込む力の強さにムラがある。 右上方が少し弱いようだ……そこから突入したまえ!』


「承知しましたっ!」


 イレーネ殿下の冷静な指示に従い、参号機を操るセーラ。


『レヴィン女王は何か策があるとおっしゃっていた。

 まずは子供たちの救助をっ!』


「はい! お任せください!

 セーラ、一番暗黒球に近い場所にいる17番艦から行こう」


「分かったわ!」


 セーラは参号機のエンジンを全開にすると、暗黒球の右上方で操縦桿を右に倒す。

 彼女の得意技、木の葉落としだ。

 参号機は暗黒球に吸い込まれる海水の奔流を上手く避け、帝国艦隊の17番艦に肉薄する。


「フェド、機関室の右側面に着けるわ!」


「了解っ!!」


 セーラは海面ギリギリで参号機の姿勢を水平に戻すと、フレッチャー級に並走しエンジンルームがある辺りで機体を安定させる。

 相変わらず凄い操縦テクニックだ。


「よしっ……ハイ・プレス!」


 ドンッ!


 土木工事用の衝撃魔法を極限まで収束して放つ。

 普通ならフレッチャー級の装甲に穴を空けることはできないけれど、魔力が辺りに満ちている今なら想定以上の威力が出せる。


 バンッ!


 装甲表面に、直径数メートルの穴が開く。


「たあっ!」


 僕は後部座席のキャノピーを開けると、穴に向けて体を躍らせる。


「飛んだっ!?」


 セーラの驚く声を背後に聞きながら、エンジンルームの床に降り立つ。


「……あった!」


 フィルの姉妹艦だからか、エンジンルームの構造は全く一緒である。

 ほどなく僕は、ハイエルフの子供が囚われているであろう金属カプセルを発見する。


「ニュートラ!」


 解除魔法でカプセルを開封する。

 中で眠っていたのは、5歳くらいのハイエルフの男の子だ。


「よし、仕上げっ!」


 僕は男の子を抱き上げると、エンジンに向けてたっぷり魔力を込め、

 先ほどの穴からジャンプして参号機に戻る。


「よしセーラ、次は左後方の14番艦だ!」


「お、おう……フェドあんた、前世は伊賀忍者なの?」


「ニンジャ? 身体強化系の魔法を駆使すればこれくらい訳ないよ!」


 僕の魔力は過去最強に充実している。


 微妙に引き気味のセーラに次の目標を指示しながら、開けたままのキャノピーから甲板上に座り込む人影に向けて叫ぶ。

 このフレッチャー級の操作を担当していた魔法使いだ。


「エンジンにありったけの魔力を込めました! 5時方向の渦が弱いですから、全速で後退を!」


 こくこくと頷く魔法使い。

 17番艦が回頭したのを確認すると、正面に向き直る。


「ふふっ……流石フェド、優しいわね」


「一番悪いのはアルバン皇太子とキユーさんだと思うからね」


「ま、罪を償う機会があるだけ幸せよね」


 二人を吸い込んだ暗黒球をちらりと一瞥するセーラ。


「晴嵐の操縦はあたしに任せて!」


 何かの前触れなのか、暗黒球の吸引が少し弱くなったようだ。


「行こう! 今のうちだよ!」


 僕たちは帝国艦隊の間を縫うように飛び、囚われたハイエルフの子供たちを救出するのだった。



 ***  ***


「凄い! 流石フェドくんとセーラちゃんだよ!!」


 晴嵐参号機とフェドの離れ業を見て、歓声を上げるイオニ。


(急いでくれ……あまり猶予は無い)


 顔の前で両手を組み、祈るイレーネ。

 レヴィン女王から聞いた31年前の惨劇。

 女王の言う通りなら、暴走を始めて5分後に破局が訪れる。


 女王の策は間に合うだろうか……ちらりと北の空を見るイレーネ。

 どちらにしろ、私に出来ることはもうない……イレーネは女神に祈り続けるのだった。


「はぁ、はぁ……これで最後っ!」


 主を失ったキングアルバン1世号からハイエルフの少女を助け出した僕は、彼女をコンテナの中に寝かすと後部座席に這い上がる。


「フェドお疲れ様! 大丈夫なの?」


「さ、流石にキツイかな」


 座席に身体を沈めた僕は、大きく深呼吸をする。

 さっきからずっと身体強化魔法と解呪魔法のニュートラを使いっぱなし。

 ついでに帝国艦隊の退避を助けるため、エンジンに大量の魔力を込めているのである。

 いくら僕の魔力が大きく増大していて、周りから魔力を補充できるとはいえ……流石に体力の方が限界に近づいていた。


「ふふっ……伊402に戻ったらお汁粉作ったげるからね」


「やった!」


 セーラたちの故郷におけるスペシャルスイーツ、シルコである。

 疲れた身体にあの甘味が効くんだよな……。


「ふぅ……」


 後部座席からは全速で後退する帝国艦隊が見える。


 伊402達だけではなく、彼らも安全圏に逃げられそうだ。

 イレーネ殿下はレヴィン女王に策があるとおっしゃっていた。


 31年前の大崩壊を防いだレヴィン皇国である。

 女王に任せればあとは大丈夫だろう……僕はそう安心していたのだけれど。


「な……帝国艦隊の旗艦が暗黒球に向かうわ!」


「えっ!?」


 セーラの言葉に後ろを振り返る。

 確かに、帝国艦隊の旗艦であるキングアルバン一世号は後退せずに暗黒球に向けて舵を切っている。


「駄目です! ソイツを刺激しては……逃げてくださいっ!!」


『おのれ、よくも殿下をっ……帝国軍人として絶対に許さんっ!』


 慌てて通信魔法を繋ぐけれど、まったく聞き耳を持ってもらえない。

 そうか、旗艦にはアルバンの側近も乗っていた。

 目の前で主君を奪われ激昂する気持ちも分かるのだけれど……。


「くっ……セーラ、何とかアイツを止められない!?」


「駄目! 今の参号機は非武装なのっ!」


 そうだった、大勢の子供たちを救うため燃料は最小限に、弾薬もすべて降ろしているのだ。

 キングアルバン1世号を止める術は……僕たちの手にはなかった。


『全門発射あああああっ!!』


 願いも空しく、主砲を斉射するキングアルバン1世号。


 五条の閃光が暗黒球に突き刺さった瞬間……事態はさらなる急変を見せる。



 ***  ***


「……来た! あの光は!」


 パアアアアアアアッ!!


 北の空に立ち上った白銀の光を見て歓声を上げるイレーネ。

 レヴィン女王から聞かされていた”切り札”。


 31年前の大崩壊を止め、それ以上のアビスホールの拡大を防いだレヴィン皇国の究極魔術。

 レヴィンセントラルを中核とし、大地から湧き出る魔力を集約して放つ超強力な封印魔法である。


 間に合った!

 イレーネは思わず胸をなでおろすのだが……。


「で、殿下! 暗黒球がっ!!」


「なにっ!?」


 イオニの悲鳴に背後を振り返るイレーネ。


「な……なんだアレは」


 驚きのあまり、うまくろれつが回らない。


 先ほどまで周囲のもの全てを吸い込んでいた暗黒球。

 それがいつの間にか禍々しい赤黒に染まり……どくん、どくんとまるで生き物のように鳴動していたのだ。


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