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第8-2話 アルバンの野望

 

 時間は僅かにさかのぼる。


 ーーー帝国艦隊旗艦、キングアルバン1世号艦橋。


「出航してから3時間……そろそろ頃合いか」


 ぱちん!


 お気に入りのギフトの一つである懐中時計の蓋を閉じると、艦橋内にしつらえた玉座から立ち上がるアルバン。


「キユー、アレを発動させるぞ。

 準備は良いか?」


「はっ! ”F”各艦の魔導調整は完了しております」

「あまり陸地から離れすぎると魔力を取り出しにくくなりますから、この辺りで良いでしょう」


「うむ! オペレーション・バキューム、第一段階発動!」


「御意っ!」


 アルバンの指示を受け、各フレッチャー級に乗り込んだ魔法使いと通信魔法を繋ぐ。


 殿下のネーミングセンスだけはもう少しどうにかして欲しいがな……。

 長年夢見てきた野望の実現を目の前にして、案外自分に余裕があることに可笑しくなるキユー。


「F2からF7は所定の位置へ」

「F8からF13は内輪、F14からF22は外輪の位置につけ」



 ズズズズズ……



 キユーの指示に従い、21隻のフレッチャー級が陣形を変えてゆく。


 総旗艦であるキングアルバン1世号を中心に、6隻のフレッチャー級が六芒星の頂点の位置に移動する。

 その外側を残りの艦が2重の輪形陣で囲む形だ。


「各艦所定の位置まであと30秒……」

「……5,4,3,2,1……殿下、準備完了です」


「素晴らしいぞキユー」


「さあ女王よ、世界よ見るがよい!

 これが我の力だ!」


 ババッ!


「”グランバキューム”!!」


 アルバンが右腕を振り上げ、魔法を発動させる。



 ブアン!



 その瞬間、各フレッチャー級が紫色に輝き、魔力の光が左右に伸びてゆく。



 ヴィイイイイイイイン



 その光は互いに接続し、海上に直径数㎞の巨大な魔法陣を出現させる。


「魔力抽出器官の動作正常……海底および大陸からの魔力供給も想定通りです」

「グランバキューム術式完成まであと3……2……1……アビスホール出現します!」



 ズッ……ブオオオオオオオオオオオオオッ!



 巨大な魔法陣がひときわ輝く。

 その瞬間、上空に漆黒の密雲が出現し、その中から巨大な暗黒球が出現するのが艦橋からも見えた。


「……成功です」

「作戦は第2フェーズへ移行」


「はははははははは!

 見たかねイレーネ姫!

 これが帝国の力だ!!」


 アルバンの高笑いが、魔法通信に乗り周囲に響き渡る。



 ***  ***


「か、合戦準備昼戦に備え!」

「ミカさん!」


『承知じゃ! あれが”あびすほーる”とやらの中心核か』


 突然の会敵に、慌てて戦闘準備を進めるイオニとセーラ。

 両艦ともに、フェドが事前にチャージした分とイレーネの供給分しか魔力がないため、戦闘出力をどれだけ維持できるかは分からない。


「アルバン皇太子!

 何をされたのかご説明を!」


 アルバンの乗る旗艦を中心に魔法陣が展開した途端、あの暗黒球が出現した。

 恐らく彼が何かをしたのだ。

 そう推測したイレーネはアルバンに通信魔法を繋ぐのだが。


『……知っているかね?』

『魔の海とは何なのか……なぜ我々の世界に”ギフト”と呼ばれる異世界の異物が落ちてくるのかを』


「な、なにを……?」


 イレーネの質問には答えず、アルバンの独演が始まる。

 アルバンはうっとりとした声で語りだした。


『”アビスホール”の中心をなすこの暗黒球は、異世界同士をつなぐ特異点なのだ』

『神々が作った世界のバランス調整弁……我々は調査の結果そう結論付けたがね』


『水が高い所から低い所に流れるように……機械的な技術レベルの低いボトムランドには、”上の世界”からギフトが落ちてくる』


『その対価としてこちらの魔力が上の世界に流れている事が分かったのだ』

『ここからが大事な所なのだが、分かるかね?』


 一度勿体ぶって言葉を切るアルバン。


『我々帝国はカイザーファーマとの共同研究により、特定の魔力をアビスホールに向けて流すことで望んだギフトを手に入れることが出来るようになった!』

『詳細は企業秘密なので明かせないが……』


『我々の世界の技術レベルをはるかに超えた様々なギフト……それらは我々の世界に福音をもたらしてくれるはずだ』


『つまり、アビスホールを守護する小賢しいモンスター共を全滅させ、アビスホールそのものであるあの暗黒球を手に入れることが出来れば、我々はどこでもいつでも望むギフトを手に入れることが出来るというわけだ!』


『どうだ、イレーネ姫! 素晴らしいだろう!?』


 頬を紅潮させたアルバンは芝居が掛かったポーズでイレーネたちが乗る伊402に向かって両手を広げる。


『ということで、我々は優秀なブリーダーを欲している』


『君の会社に所属するフェドとか言うブリーダーはなかなかに見込みがある』

『イレーネ姫、彼を我々に譲る気はないかね?』


『もちろん十分な対価を支払うし、弟君の事も善処しよう』



 ***  ***


「え、えええええっ!?」


「フェドくんかんちょーの引き抜き!? そんなのダメだよっ!

 ありえないですよね、殿下!」


 アルバンの妄言に、ぶんぶん手を振って抗議の意思を示すイオニ。


「もちろんだ、イオニ君。

 善処するなど、白々しい言葉を吐いてくれる!」


 忌々し気に吐き捨てるイレーネ。

 彼女の両目は、数隻のフレッチャー級の主砲がこちらを向いたことに気付いていた。


「皇太子は交渉などするつもりはない。

 武力で恫喝するつもりだ」


 恐らくフェドの魔力を使って、より強力なギフトを手に入れるつもりだろう。

 その戦力を背景に世界を支配する。

 権力欲の強いアルバンが考えそうなことだった。


『まあすぐにとは言わん、良い返事を待っているよイレーネ姫』

『それより……』


 イレーネたちが拒否反応を示すことを予想していたのだろう。

 馬鹿にしたように鼻を鳴らし、居住まいを正すアルバン。


『我々は今から作戦のフェーズ2に移る』

『帝国艦隊は動かせないから、()()を頼むよ?』


「……なにを?」



 ヴイイイイイイイインッ!



 得体のしれない魔力が高まった瞬間、宙に浮かぶ巨大な暗黒球が僅かにブレる。

 その瞬間、イオニが悲痛な叫びを上げる。


「で、殿下! 電探とソナーに感!

 モンスターの大群ですっ!!」


「な、なんだとっ!?」



 ブアアアアッ!



 暗黒球の中から数十体のドラゴン種が出現する。



 ザバアッ!



 それだけではなく、10体を超えるシーサーペントが海中から鎌首をもたげる。

 暗黒球を転移させたアルバンの魔法は、モンスターも呼び寄せてしまったようだ。


『コイツを”ブリーディング”するためには莫大な魔力が必要でね』

『我々に対処する余裕はない』


『……ああ、連中を放置するとレヴィンを襲うかもしれないぞ?』



 キイインッ!



 アルバンの言葉と共に帝国艦隊を防御魔法の障壁が覆う。

 自分たちの安全を確保したうえで、暗黒球を手に入れるつもりだろう。


「あ、アルバン皇太子!! 貴方という人はっ!!」


「殿下! 艦内に入ってくださいっ!

 海中の敵は伊402でしか対処できません!」


 身勝手なアルバンに歯がみするイレーネだが、まずはモンスター達への対処が先だ。

 イオニの声に答え、艦内に身を躍らせるしかないイレーネなのだった。


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