第7-5話 大艦隊出港す
「征くぞ諸君! 征服するは我にあり!」
ドン!
ドドドン!
三国連合艦隊の旗艦となったフレッチャー級の艦上から、景気づけの花火が打ち上げられる。
ジャララララララッ!
得意絶頂なアルバンの号令に合わせ、一斉に錨を上げるフレッチャー級たち。
わああああああああっ!
「…………っ」
何も知らされていない群衆が無邪気な歓声を上げるなか、レヴィン女王は硬く唇を結び、オーベル帝国艦隊から離れた海上に視線を移す。
「前進強速、黒二十! 伊402、出港します!」
ドドドドドドッ
『晴嵐弐号機、セーラ……偵察に出ます!』
バシュン!
「戦艦三笠、いざ参る!」
ブオーーーッ!
港を見下ろす塔の中二階に設けられた女王の観覧席。
そこまで聞こえてくる力強い伊402号のディーゼルエンジン駆動音。
その心地よいリズムに、晴嵐の爆音と戦艦三笠の汽笛の音が重なる。
帝国艦隊の支援を主任務とした、ジェント王国とレヴィン皇国の勇士たちである。
(頼みましたよ、イレーネ姫)
伊402の甲板上で最敬礼の姿勢を取るイレーネに、両手を組んで祈りを捧げる女王なのだった。
*** ***
同時刻、晴嵐弐号機操縦席……
「進路南南西25度、高度3000へ……ヨーソロー!」
事前に打ち合わせていた空域へ向けて晴嵐弐号機を操るセーラ。
彼女は懐中時計に目をやりながら、その時を待つ。
アルバン達を欺くには、太陽が中天に位置する正午を待つ必要があった。
「そろそろね……」
飛行コースは完璧だ。
タイムスケジュールに寸分の遅れもない。
かぽっ
セーラは操縦席足元の蓋を外すと、その中へ向けて声を掛ける。
「作戦開始30秒前!」
「……了解!」
返事をしたのは、伊402に乗っているはずのフェドだった。
*** ***
「よいしょっと……」
セーラの号令に合わせ、僕はゆっくりと体を起こす。
「狭そうだけど、大丈夫?」
頭上からセーラの心配そうな声が聞こえる。
「ん……問題ないよ」
僕はセーラに返事をすると、コンテナの奥から今回の作戦で使う機材を取り出す。
いくつかのマテリアルに特殊な魔法器具、それに護身用の拳銃など。
僕が隠れていたのは、晴嵐弐号機にぶら下げられた荷物箱だ。
対外的には長距離偵察を行うための燃料タンクという事になっている。
「心配なさそうね……作戦開始まで20秒!」
「オッケー、”リモートコントロール”接続!」
セーラのタイムキープに頷くと、魔法を発動させる。
パアアッ!
僕の脳内に、緑の巨鳥のイメージが浮かぶ。
艦隊が出航する前にひそかに飛ばしていた晴嵐壱号機。
「……見えたわ! 四時の方向、高度差1500!」
「了解!」
セーラの指示に合わせ、晴嵐壱号機を慎重に操る。
僕たちの乗る弐号機の真上に重なるように。
海上から見ると僕たちは太陽の中に入っており、二機の晴嵐が飛んでいることを見分けるのは至難の業のはずだ。
それに……。
『レヴィン女王に……捧げ筒!!』
ズドオンッ!!
はるか下の海上に巨大な爆炎が湧きたつ。
事前に打ち合わせていたミカさんの礼砲である。
『おお……素晴らしい』
世界で彼女しか持たない巨大な大砲の姿に、人々の視線はそちらを向いたはずだ。
「セーラ、今だよ!」
「わかったわ! 弐号機、隠密任務に就きます!」
リモートコントロールで操作した壱号機が弐号機の上に重なった瞬間、ひらりと機体をひるがえす弐号機。
壱号機には燃料を満載したうえ、弐号機と同一のコンテナをぶら下げてある。
アルバン皇太子たちに細かな機体の違いを見抜くことは不可能だろう。
壱号機を使って、僕たちがそのまま偵察を続けているかのように偽装するのだ。
ズドオンッ!!
ズドオンッ!!
21発の礼砲が撃ち上げられる中、僕とセーラが乗った弐号機は大きく旋回し、元来た方角へ飛び始める。
目指すのは皇都郊外にあるレヴィン湖だ。
「さて……ここからが正念場だね」
「ふふっ! 呉のS特 (海軍の特殊部隊)みたいで燃えるわね!!」
今朝イレーネ殿下から告げられた作戦はプランA……赤い封筒から取り出した指令書に改めて目を通しながら、僕たちは一路目的地に向かって飛ぶのだった。




