第6-4話 フェドの進化と戦艦三笠(前編)
「こ……これがフェドくんかんちょー?」
「なんなの? フェド……アンタ光ってんの!?」
素っ頓狂な二人の叫び声が工房の中に響き渡る。
戦艦三笠の件で話をしようと、港に隣接した魔法 (?)工廠らしき建物に足を運んだ二人が目撃したのは衝撃の光景であった。
「おおっ……”ギフトの精霊”のお二方ですな。
ご覧ください……永きレヴィン皇国魔法技術工房の歴史の中でも、最高の仕上がりですぞ?」
シュワアアアアアッ
フェドと思わしき人影を覆っていた紫色の霧 (身体に悪そうだとイオニは思った)が晴れてゆく。
それに従い、人影から放たれる光は強くなり……。
カッッ!
「うわっ!? 眩しっ!」
トッ……
光が消えるとともに、静かに一人の覇王が地上に舞い降りた……。
*** ***
……はい、トランスポーターのフェドです。
先ほどから副工房長さんがノリノリで厨二臭満載なナレーションを付けてくるので物凄い恥ずかしいんですが……!
ハイエルフの技術者さんたちに拉致……もとい魔法力強化のお誘いを受け、魔法技術工房の奥にある特別室に連れ込まれた僕。
そこには、巨大なクリスタルが接続された石造りの魔法装置が鎮座していた。
装置の表面には古代レヴィン文字と思わしき複雑な紋様が描かれ、わずかに薄緑色の光を放っている。
クリスタルの上部には、ドラゴンを模した石像が見える。
”上の世界”から落ちてくるギフトや、近代の魔法装置とは一線を画す古めかしい作り。
太古の昔から受け継がれてきたレヴィン皇国秘伝の魔法装置であることが見て取れた。
工房長さんの話では、被験者(意味深)に秘められた力を解放する効果を持つとのことだが、
ちょっとした代償があるらしい。
その代償とやらが非常に気になるところであったが、興奮した技術者の群れに抗えるはずもなく……。
魔法装置の正面に描かれた複雑な魔法陣の中心に立たされ、ずしりと重い漆黒のローブをかぶらされた僕。
「全員! 退避!!」
「……えっ?」
その瞬間、必死の形相で工房長さんが叫び、技術者全員が一斉に逃げ出す。
ぽちっ!
や、ヤバい!
逃げる暇もなく、どこからかスイッチが押された音がし……。
グオオオオオオンンッ!
「はあ!?」
ぱくっ!
突如巨大化したドラゴンの石像に一飲みされ……今に至る。
飲み込まれた後、なにかとんでもない目に遭った気がするがよく思い出せない。
ひとつ確かなのは、身体じゅうを巡る魔力がいままでとは比べ物にならないほど増大しているという事。
「おお……本当に成功したぞ。 奇跡だ……」
聞き捨てならないことを呟いた技術者さんは後できっちり問い詰めるとして、僕はじっくりと鏡で自分の姿を確認する。
長期航海中あまり切っていなかった僕の栗色の頭髪は輝きを増し、新たに前髪やもみあげに白銀のメッシュが入っている。
頬や両腕には赤い紋様が浮かび、魔力を込めるとゆっくりと明滅する。
気のせいか、一回り腕も太くなった気がする。
これは……これは……!
「やばい! 超カッコいい!!」
僕はこぶしを握り締めると、感動に打ち震えた。
「えぇ……中学に上がった途端勘違いしてバンカラ風を吹かせてしまった田舎坊やみたいよ」
「なに言ってるのセーラちゃん、めちゃめちゃカッコいいよ!」
「お、おぅ……センスが同じ奴がここにもいたわね」
なぜだかセーラには評判がいまいちのようだが、増大した僕の魔力を試してみるべきだろう。
「イオニ、セーラ! 伊402と晴嵐の所に行こう!」
僕たちは意気揚々と工房の外に向かうのだった。
*** ***
「よ、よしっ! 新しくなったコンバージョンを試してみるぞ」
僕は拳を握ると伊402の後部甲板に立つ。
目の前に広がる甲板はざっくりと断ち割られ、そこにあったはずの14㎝単装砲の姿は無い。
アビスホール中心部で行われた死闘の際にレッドドラゴンのブレスが直撃……装填していた弾薬が誘爆して吹き飛んだのだ。
浸水を防ぐためとっさに全力コンバージョンで傷口をふさいだのだけれど、航海中に修理することは出来ず。
魚雷の数に限りがある中で、14㎝砲は貴重な打撃戦力である。
なんとしても修理したかったのだけど、外形は記憶していても中の構造まではよく分からないのでどうやって修理すればいいか悩んでいたのだ。
「だけど、大幅に強化された僕の魔力ならばっ!」
僕はゆっくりと両眼を閉じ、頭の中に14㎝単装砲のイメージを思い浮かべる。
コンバージョンの魔法を使う時のいつもの手順で、今までならこのイメージに魔力を込め、マテリアルから外形だけを再現するのだけれど。
「【コンバージョン・グロースマイスター】!!」
パアアアアッ!
理論だけは完成していた究極の物質変換魔法……!
頭の中に描いた14㎝単装砲のイメージが精緻な設計図に置き換えられてゆく。
外観だけではなく、大砲の可動部や電気回路に至るまで……14㎝単装砲のすべてが見えるっ!
「はああああああっ!!」
僕は大きく目を見開くと、気合と共に魔法を発動させる。
「うおおおおっ、カッコいいっ!」
「……なんで独逸語? 翻訳魔法とやらの不具合かしら?」
カッッッ!!
まばゆい光が伊402の後甲板を覆い……。
「ふぅ……変換完了だよ」
光が消えた後には、完璧に修復された14㎝単装砲が鎮座していた。
「うおおおおおおっ!? 単装砲ちゃんが新品同様の姿にっ!?」
「……マジか」
僕の隣でイオニとセーラがあんぐりと口を開けているが、魔法を成功させた僕も正直信じられない。
「わわわっ、完璧に直ってるよ!」
わたわたと14㎝単装砲を操作するイオニ。
良かった。
動作に問題はないみたいだ。
「もしかしてフェド、酷使しすぎて発動機 (エンジン)がイカレちゃった晴嵐参号機も?」
「うん、任せて!」
「やった♪」
調子に乗った僕はその後も破損個所をコンバージョンで修理しまくり……感動したイオニとセーラに抱きつかれ、ありがとうのキスまでされるという役得を味わうのでした。