第5-2話 大航海の始まり
「ハァ~イ! こないだぶりね、フェド、イオニ、セーラ!
今回はアナタたちとFleetを組んで大航海……YES! 楽しみですねっ!」
10日後、遠征準備を終えた僕たちとフィルは、出港地点となるジェント王国の港へ集合していた。
赤と青のストライプが入ったセーラー服の上着に白いショートパンツ、星がデコレーションされた茶色いロングブーツという相変わらず派手な格好をしたフィルの長身が朝日に映える。
フィルの背後には数十人の集団が見える。
彼らが帝国の使節団のようだ。
イレーネ殿下とあいさつを交わしているのは、いつの間にかカイザーファーマのCGOなる地位に就いていた元秘書のキユー氏。
帝国の全権大使として皇帝の孫が同行することからも、帝国の本気度が伺える。
「今回は競争じゃないんだから、張り切りすぎない事ね。 ま、直掩は任せなさい」
「OH! これこそジャパニーズTSUNDERE! かわいいデスっ!」
だきっ!
「わぷっ!? ”つんでれ”ってなにそれ、意味わかんない!」
「フフフ、なんかソラから降りてきました~」
「まったく、あのふたりは相変わらずだな。 イオニ、燃料とか積み荷は大丈夫?」
スタイル抜群で長身のフィルにぬいぐるみのように抱きしめられるセーラの様子を微笑ましく眺めながら、積み荷の最終チェックをしていたイオニに話しかける。
「ばっちり! 重油は予備タンクまで満載したし、燃料にこんばーじょん可能なまてりあるが1000トンでしょ……半年分の食料も積んだし、フィルちんに給油する分を考えても2往復はゆうに出来るよ!」
「まあ……おかげで艦内の倉庫とか通路がみっちみちなんだけどね……」
フィルの言葉に、ハッチから艦内をのぞき込む。
普段利用しない兵員室や廊下にも食糧や弾薬、マテリアルの結晶がうずたかく積まれている。
艦体後部には荷物の上を這って移動しなくてはならないほどだ。
50人ほどの使節団を組んでいる帝国に比べ、こちらはイレーネ殿下の従者や政府高官を含めても10人足らず。
同行者には王宮の料理人さんもいるし、伊402には保冷庫という新鮮な食材を長期間保存可能な凄い設備が付いているので、なかなか優雅な食生活が送れそうだった。
「あっ!! 艦内がみっちりで重量オーバー気味と言っても、私の体重が増えたわけじゃないんだからね、本当だよ!」
大量の荷物の積み込み、喫水を下げた伊402と同じように、上着とショートパンツの僅かな隙間から覗くぷにっとしたお腹を押さえてイオニが赤面する。
どうやら彼女、最近王国や遠征先でレストラン巡りにハマっているらしく、いささか増加した排水量 (体重)にお悩みらしい。
「ぷっ……ぷにぷにしてるイオニもかわいいよ」
「”そんなことないよ”って言葉を期待してたのに!?」
「ふふっ……君たち、そろそろ出港しようか」
僕がイオニとじゃれ合っていると、もろもろの外交儀礼を終えたのか、ジェント王国のナショナルカラーである深紺に染め上げられた儀礼用スーツに身を固めたイレーネ殿下がやってくる。
そろそろ出港時刻のようだ。
「わわわっ……機関始動、錨上げ!」
殿下の言葉に我に返ったイオニが艦内に飛び込み、僕の魔力を使ってエンジンを始動させる。
伊402の巨体がわずかに振動すると同時に、不協和音を響かせながら錨が巻き上げられ、艦は水面を滑るように動き出す。
「ととっ……使節団の皆様は甲板に整列ください」
「フェド、あたしたちはここね」
セーラの案内に従い、イレーネ殿下を先頭にして甲板に整列する。
「イレーネ殿下に、捧刀!」
ザザッ!
ジェント王国の国歌が演奏される中、正装した王国軍の兵士たちが儀礼刀を垂直に掲げ、イレーネ殿下に最敬礼を捧げる。
「乗組員総員、帽ふれっ!」
セーラの号令に従い、僕たちをはじめ随行員は大きく帽子を振り、岸壁に見送りに来てくれた王国の人たちに挨拶を返す。
「前進強速黒二十! 伊402、出港します!」
一段とエンジン音が高くなり、伊402は加速する。
その隣をフィルの乗った駆逐艦フレッチャーがさっそうと追い抜いていくと、事前の打ち合わせ通り前方500メートルほどに遷位し、巡航体制に移行する。
こうして、西部諸国の悲願であるレヴィン皇国への大遠征が始まった。




