第4-1話 晴嵐さん、高速輸送任務
「晴嵐で長距離高速輸送?」
「ええ、弐号機の修理が終わったでしょ?
弐号機は燃料タンクを増設して航続距離を伸ばしたから、実地でテストしておきたいのよ」
「なるほど」
台車に乗せられた晴嵐弐号機をぱんぱんと叩くセーラ。
”剥がれた大地”の探索を終えてから2週間ほど……僕たちは発見したマテリアル結晶の採掘をするかたわら、合間に晴嵐弐号機の修理を進めていたのだ。
「ねえねえセーラちゃん、3機の晴嵐さんはそれぞれ違うコンセプトで修理するんだよね?」
修理が完了した弐号機と、倉庫の端で修理中の参号機を見比べながら興味津々な表情をするイオニ。
「そうねっ!
壱号機は”大型もんすたー”向けに攻撃機としての能力を強化した強攻型でしょ……」
晴嵐について語れるのが嬉しいのか、ふふん!と薄い胸を張るセーラ。
「この弐号機は積載量と航続距離を重視した長距離型……」
「そして参号機は空戦性能を重視した戦闘機型にする予定よっ!!」
ばばばん、得意げにポーズを取るセーラが微笑ましい。
専門的な事はよく分からないけど、弐号機は燃料タンクを増設することで壱号機に比べて2倍の距離を飛べるらしい。
また、爆弾を吊るす器具を改造して大型コンテナをぶら下げられるようにした。
これだけで2トン……標準的な馬車2台分の荷物を空路で運ぶことができる。
「ふふっ……それなら、うってつけの仕事があるぞ?」
僕とセーラが荷物コンテナの取り付け位置を最終調整していると、格納庫にスーツ姿のイレーネ社長がやって来た。
「レイニー共和国政府からの依頼でね、魔の谷から溢れたモンスターに対処するため、”結晶マテリアル”の緊急輸送をして欲しいとのことだ」
「結晶マテリアルですか?」
「ああ。 粘土タイプのマテリアルに比べ、結晶タイプはコンバージョンの効率……歩留まりが優れているからな」
「手っ取り早く高威力の砲弾などを準備したいという事だろう」
「1週間以内に10トン、料金は言い値で払うとのことだ……まあ、政府からのオーダーだ。 吹っ掛けるつもりはないがね」
10トンか……晴嵐弐号機で5往復すればいい計算だ。
弐号機の航続距離は約3000㎞。
ここからレイニー共和国まで往復2400㎞だから、無給油で行って帰ってこれる。
問題は往復6時間以上が見込まれる飛行時間だが……。
「承知しました、殿下」
「イオニも操縦できますし……単座機でラバウル~ガダルカナル間を往復することを考えたらどうってことありません!」
「えへへ……セーラちゃん、晴嵐を飛ばしたいだけでしょ?」
「……うるさいわね」
「ははは! 流石はセーラ君、イオニ君だ」
「それではフェド君、行ってくれるかな?」
「はいっ、お任せください!」
セーラとイオニが大丈夫というなら安心だろう。
こうして僕たちは、故郷レイニー共和国への緊急輸送任務に従事することになった。
*** ***
「ひゅお~っ、いい眺め! やっぱり自分の席があるっていいな~!」
「……敵に襲われた時はアンタの旋回機銃が頼りなんだから、ちゃんと見張りなさいよ?」
「らじゃ~っ」
翌日、”結晶マテリアルを機体の下に吊り下げたコンテナに満載した晴嵐は、一路レイニー共和国を目指していた。
魔の海の上空に差し掛かるが、天気は快晴……絶好の飛行日和?と言えた。
……そういえば、伊402に乗ってジェント王国を目指していた時も、晴れていたような気がする。
1年のほとんどが嵐に覆われる魔の海において、とても珍しい気象条件だ。
トランスポーターとしてはありがたい事なんだけど、リトルアイランド (第2章参照)に今回のレイニー共和国でも。
凶悪モンスターたちがちょくちょく”領域”の外に出てきていることが気になる……輸送任務が落ち着いたらイレーネ社長に聞いてみるべきかもしれない……。
気持ちの良い晴天とは裏腹に、不安を感じていた僕の思考は、いたずらっぽいセーラの声にさえぎられる。
「にしても、燃料満載に荷物付き……どうしても速度は出ないわね~」
「イオニ、アンタ無駄に重いわよね……投棄していい?」
「!? なんてことを!」
「あーやっぱセーラちゃんペタペタなせいで同身長の子と比べて5㎏も体重が軽い……」
ぐいっ!
「……対G訓練三法、行くわよ?」
「ぬはっ!?」
クルリと背面姿勢になった晴嵐が、急上昇と急降下を繰り返す。
「ぎえええっ!? セーラ、ギブギブっ!!」
セーラとイオニの口げんかのとばっちりを受け、上空4000メートルでシェイクされる僕なのだった。