第3-2話 フェド、晴嵐を修理する
「今度こそ……”コンバージョン”!」
頭に叩き込んだ”設計図”を思い浮かべながら、物質変換の魔法を使う。
成功のカギは、どれだけ鮮明に完成後の姿を思い浮かべられるか……ワンオペ・トランスポーター時代に鍛えられた僕の妄想力を発揮するときっ!
なぜかすごく悲しくなってきたが、数十回の失敗を経て、修正点は分かっている……!
パアアアアアッ
”マテリアル”の組成を組み替える、物質変換魔法の光が粘土色のブロックを包み…・・・。
カッ!
光が消えると共に、マテリアルは精緻な工作が施された、1本の棒へと姿を変える。
「すごっ! このできばえ、今度こそ完璧じゃないっ?」
僕の隣で、セーラが飛び上がって歓声を上げる。
ぴょんっ!と上下に揺れるツインテールはとてもかわいいが、胸元はその動きに追従してくれるはずもなく……。
神様って残酷だよね。
伊402の整備を手伝っていて、ここにいないイオニのそれと比較して世の中の無常を思う僕。
セーラに幸あれ。
僕はどっちも好きだから。
「……フェド~? アンタ何か失礼なことを考えてない?」
ぎくっ!
物質変換魔法の会心の出来に、調子に乗ってヨコシマなことを考えていたら、セーラにジト目で睨まれてしまった。
「え、えっと……さっそく晴嵐に付けてみようよ!」
「ミスリル銀を配合したから、強度も軽さも抜群だよ!」
「……しかたないわね、追求は今度にしてあげる」
「急ぐわよ、フェド!」
そういうセーラも待ちきれないのだろう。
出来上がった”プロペラシャフト”を片手に持つと、僕の手を引いて外へと駆け出す。
工房代わりに借りている倉庫の外には、伊402の格納庫から取り出された晴嵐が緑の翼を休めている。
超々ジュラルミンという、ミスリル銀をしのぐ強度を持った合金で作られた滑らかな機体が、柔らかな日差しにきらりと輝く。
何度見ても綺麗なギフトだよなぁ……晴嵐の向こうには、伊402の巨体が気持ちよさそうに浮かび、外壁に取り付いたイオニがはげた塗装を塗りなおしているのが見える。
「よし、シャフトを取り付けるわよ……」
晴嵐の傍らには、取り外された”エンジン”が台に置かれている。
複雑に絡み合ったシリンダーやケーブルは、芸術作品のように細かいつくりだ。
……壊れたときには僕が修理するんだよな……せめて外装だけでもコンバージョンできるように、姿形を記憶する。
「……ごくっ」
かちん
思わず息をのんだセーラの前で、完璧に成型されたプロペラシャフトがエンジンに開いた穴にぴったりと納まる。
「……ふむふむ、シャフト本体のたわみもなし、遊びも完璧ね……凄い!」
プロペラシャフトの先端に、動作確認用の小さなプロペラを取り付けたセーラは、そっとプロペラに手を触れる。
カラカラカラ……
何の抵抗もないかのように、回り続けるシャフトとプロペラ。
「完璧よっ!」
「空技廠 (先端航空技術を研究していた軍の部署)の試作品以上ね!」
「さすがフェド、本当にありがとう!!」
よほどうれしいのか、いつもは強気なまなざしも柔らかく弧を描き、目じりには涙すら浮かんでいる。
……やっぱりセーラもかわいいなぁ、彼女たちの幸せのために、もっともっとがんばるぞ!
改めてそう心に誓っていると、ダークスーツの上に白衣というアンバランスかつやけにお似合いな格好をした女性が僕たちの工房にやってきた。
イレーネ社長だ。
「素晴らしいな……V型12気筒レシプロエンジン……しかも水冷か」
「一般的なギフトの30年先を行っているね」
「おっとすまん、思わず見とれてしまった」
「君達に面白い話を持ってきたぞ……イオニ君も呼んで、こいつを読んでくれたまえ」
そういってイレーネ社長が取り出したのは一通の封筒。
なんだろう?
思わずセーラと僕は顔を見合わせるのだった。