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第2-3話 イオニとセーラと旭日の誇り

 

「両舷後進微速……船速1.5ノット……0.5ノット……」


「了解、ドンピシャね!」


 イオニの号令に合わせ、僅かに艦体が震える。

 艦の前進が止まった瞬間、セーラが波止場に何本もの係留索を持ってジャンプする。


 港の作業員と協力し、てきぱきと係留索をポラード (船を係留するためにロープを括り付ける杭)に巻きつけていく。

 その身体能力と鮮やかな手並みに、思わず見とれてしまう。


「機関停止!」

「ふう、ぶつけずに済んだぁ~」


 隣では、イオニが大きな胸に手を当て、胸をなでおろしている。


「イオニ! 帝国海軍第一潜水隊たるもの、出港と帰投はスマートに手早く!」

「しばらく訓練だからね!」


「ふぁ~い、でも日曜日はお休みだよね?」


「それはあんたの上達次第ね」


「ぎゃ~!」


 まだまだ操艦が不慣れなイオニに、セーラが熱烈指導を繰り広げている。


 その様子を興味深そうに眺めながら、渡り板を渡ったイレーネ社長 (こう呼ぶことにした)は、不敵な笑みを浮かべ両手を広げると、僕たちにこう宣言する。


「ようこそ諸君、()()ジェント王国へ! あらためて歓迎させてもらうよ」

「早速だが向こうの建物で入国審査と検疫を……」


 そう、僕たちは外国人なので (イオニとセーラは精霊?異世界人?だが……)入国審査が必要だ。


【運び屋 (トランスポーター)】として認められれば、審査は大幅に簡素化されるんだけどね。


 数本の桟橋の向こうに赤い屋根の建物が見える。


 深い入り江の奥にある港の周りは、素朴な木造の家々と、緑鮮やかな森に囲まれ、どこかホッとする空気が流れている。


「えへへ、セーラちゃん……なんか佐世保を思い出すね」


「そうね、この空気……悪くないわ!」


 イオニとセーラも港の雰囲気を気に入ったようだ。


 ぞろぞろと連れ立って歩く僕たちは、入国検査場兼検疫場の中で更なる驚きに襲われるのだが。



「レイニー共和国出身フェド」

「大日本帝国出身イオニ、セーラ」


「伊400型潜水艦伊402号、特殊攻撃機”晴嵐”3機」

「その他武装、マテリアル等積み荷1250トン」


「このイレーネ・ジェントの名において、入国を認める」


 僕たちが提出した書類に、ポンと国璽 (国の印鑑)を押すイレーネ社長。


「イレーネ・ジェントってまさか……」


「はっはっはっ! 庶子で皇位継承権は持たないが、一応私も皇族でね、入国審査の責任者も務めていると言うわけさ」


「ええええええ!? じゃあ、イレーネ”殿下”なのっ!?」


「こらイオニ、頭が高いわよっ!」


 イレーネ社長はジェント王国の皇族だった……驚いた僕たちは慌てて膝をつき、敬意を示す。


「ふふ……そんなに畏まらなくてよい……皇位は兄らに任せ、自由気ままな身だからな!」

「気にせず社長として扱ってくれ」


「は、はぁ……」


 あくまでフランクなイレーネ殿下に、困惑する僕たち。


「とりあえず……君たちの”船”は、我がジェント運輸のもとで運航するが、正式にジェント海軍の艦艇として登録させてもらった」


「トランスポーターとして動くにも、軍艦籍があった方が都合がいいだろう」


 イレーネ殿下はにやりと笑うと、僕たちに1枚の旗を渡してくれる。


 青地に白染めで、輝く月を意匠に取り入れた、ジェント王国の軍艦であることを示す旗らしい。


 これはありがたい……”軍艦”の内部はジェント王国の一部として扱われ、治外法権が適用される。

 入国手続きも簡単になるので、トランスポーターとしての活動もやりやすくなるし、存外の待遇といえた。


「ふおおおおっ、異世界でもIJN (Imperial Japan Navy/Imperial Jent Navy)を名乗れるなんて、感激だよっ!」


 IJN……王立ジェント海軍の略だ……その略語が気に入ったのか、飛び跳ねて喜びを表すイオニ。


「ふふ……敗戦で解体された帝国海軍が、一隻だけとはいえ復活か……感慨深いわね」


 そういうイオニもとても嬉しそうだ。


「イレーネ殿下、イレーネ殿下!」

「こっちの旗も掲げていいですか?」

「わたしたちが元居た国の軍艦旗で……とても大切なものなんですっ!」


 そう言ってイオニが取り出したのは、一枚の大きな旗。

 白地に鮮やかな赤色で、輝くライジングサンが描かれており……黄金比のバランスが美しい意匠だ。


 イオニが掲げた旗を見たイレーネ殿下は、優しい笑みを浮かべる。


「もちろん大丈夫だ……我が国の慣習では船首に軍艦識別旗を掲げることになっているから、船尾なら問題ないぞ!」


「ふふ、我が国の”ブルームーン”と対になる”ライジングサン”か……実に結構じゃないか!」


 そういうと愉快そうに笑うイレーネ殿下。


「やった~!」


「やったわね!」


 嬉しそうに飛びはねるイオニとセーラ。

 こうして僕たちは、ジェント王国所属の軍艦として、トランスポーターの活動を始めることになった。


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