終結
アンデッド反応を検知し、冬夜は現場へと急ぐ。しかし、そこにはあのアンデッドの姿はなく、代わりにアンデッドの死骸が大量に転がっていた。
「なんだこれ・・・ッ!まさか・・・」
冬夜は踵を返し、ゼウスへと走り出した。嫌な予感がする。そして、その嫌な予感は的中していた。ゼウスがあった場所は既に破壊されており、残骸の中からあのアンデッドが姿を現した。
「よぉ、まさかまだお前の帰る場所があるなんて思ってもみなかったからさ、壊しといたよ。良かったな、これで正真正銘何も無くなった。何かを気にする必要もなく殺り合える。さぁ、本気でかかってこいよ」
空中に槍を生成し、アンデッドに投擲しながら二丁拳銃でアンデッドを撃つが、軽快なステップですべて躱していく。
「無駄無駄、そんなんじゃかすりもしねぇよ」
冬夜は舌打ちしながら鎌を生成、近接攻撃を仕掛ける。昨日までなら簡単に避けられていた、しかし、今は昨日の戦闘データによってハデスが進化している。躱すであろう方向を予測し、攻撃の途中で方向を切り替え斬り裂いた。たが、それでもアンデッドの腹の部分を少し掠めた程度だった。アンデッドは距離を取りつつ、口笛を吹いた。
「やるじゃん、失ったかいがあったなぁ!」
アンデッドは攻撃を仕掛けて来た。拳を素早く連続で突き出し、冬夜を追い詰める。
「ッ何故こんなことをした!?そんなに生きている人間が憎いか!?」
「ハッ!何を言うかと思えば・・・人間なんてどうでもいい!俺は強そうなやつと戦えればそれでいいんだよ!」
「どうして・・・どうして俺なんだ!」
「お前が一番強そうだったからだよ!」
攻撃をさばききれず、顔面にモロに拳を受けてしまう。冬夜は吹き飛ばされ、地面を転がる。いくらハデスを身に着けていてダメージが軽減されているとは言ってもダメージがないわけではない。少しではあるが鼻血が出て、頭を強く打ってしまった。視界が歪む。垂れてきた血が口の中に入ってきて不愉快極まりない。だが、アンデッドは待ってくれない。トドメをさそうとアンデッドは拳を振り下ろす。それを転がって回避し、すぐさま立ち上がる。が、足がふらついてまともに立てない。さっきの衝撃で脳が揺らされてしまったのだ。頭を軽く左右に振ってアンデッドの方を見る。アンデッドは既に次の攻撃に移っていた。すんでのところで突き出された拳を躱し、カウンターを胸にいれる。
「いいねぇ、でも腰が入ってないぜ?」
冬夜の腕を掴み、高く放り投げた。受け身を取れず落下する。
「ガハッ」
背中に痛みが走る。だが、寝転がったままではいられない。ふらふらしながらゆっくり立ち上がり、アンデッドの方を見る。アンデッドの連撃が冬夜を襲う。避けることも倒れることも出来ず殴られ続ける。
「これで終わりだ!」
最後の一撃にボディブローが決まる。冬夜はその場に膝をつき、大量の血を吐き出した。冬夜は拳銃を作り出し、震える手でアンデッドに向けるが、トリガーを引く前に奪われてしまう。
「最期は自分の武器で死ぬってのも中々おつじゃないか?じゃあな、ちょっぴり楽しかったぜ?」
アンデッドはトリガーに指をかけ、冬夜の頭に銃口を突きつける。そして、次の瞬間、銃声が鳴り響く。
「ガッ・・・!?な、なんだ?何が起きて・・・」
確かにアンデッドは引き金を引いた。しかし、風穴が空いたのはアンデッドの胸の方だった。冬夜がいつの間にか持っていた拳銃から煙が出ている。
「・・・このハデスにはな、万が一、自分の武器で自殺しないように自分に対してはロックがかかるようになってるんだよ」
「ははっ、なんだそりゃ・・・罠に嵌められたわけか、俺は・・・」
冬夜は更にアンデッドの胸に2発撃ち込み、最後に額に1発撃ち込んだ。アンデッドは嬉しそうにしながら土塊に還っていった。冬夜の息は荒々しく、肩は大きく揺れている。ハデスは修復機能で無傷だが、冬夜は違う。冬夜はその場に倒れ、二度と起き上がることはなかった。それからアンデッドが発生することはなく、謎の壊滅事件として世間に知れ渡ることとなった。冬夜の死後、ハデスは元のチップに戻っていた為、誰にも知られることなく冬夜の遺体と共に焼却されこの世から消え去った。誰もこの事件の英雄を知らない。誰も消えたこの街の真実に辿り着くことはない。