超越死者
冬夜は同じ日々を繰り返していた。アンデッドが出現すれば滅し、ゼウスに帰還、ポセイドンに入る。出現、戦う、傷を癒す・・・これの繰り返し。戦闘には慣れ始めたが、虚無の日々を送っていた。そんな日々に終止符を打つ時が来た。それは突然出現した。喋るアンデッドは数多く居たけれどこいつは違った。
「お前、顔は見えないけどつまんなそうだな」
会話を試みようとするアンデッド。不敵な笑みを浮かべて無言を貫く冬夜に話しかける。
「なぁ、そんなんで人生楽しいか?もっと楽しく生きようぜ?」
「・・・死人が喋るな」
いつもと同じように鎌を振る。しかし、そいつは軽く躱し、鎌を奪い取り、冬夜を切りつけた。肩を軽く斬られたが、ハデスは自動修復し復元した。
「硬いなぁ・・・真っ二つにしてやろうと思ったのに」
違う、今まで戦ってきたアンデッドと何もかもが違う。接近戦は不利だと考えた冬夜は二丁拳銃を作り出し、円を描くように動きながら発砲した。しかし、それも奪い取った鎌で軽く弾かれてしまう。
「お前、撃てない方角があるだろ?」
撃てない方角、それはゼウスがある場所を意味する。反逆出来ないようにプログラムされたこのハデスの唯一の弱点だ、それを簡単に看破した。
「何かを気にしてんのか?それとも守ろうとしてんのか?どっちにしろ気に入らないな、つまらないし面白くない。安心しろよ、俺が今すぐにでも無くしてやる」
そう言ってアンデッドは高く跳躍すると、街の方へと向かっていった。
「しまった!!」
街には父さんや母さん、みんながいる。俺が守らなきゃ・・・俺が守らないと・・・そんな思いが余計に気持ちを焦らせる。だが、走って向かう頃にはもう既に爆発や炎上が起こっていた。辿り着くとそこには街とは呼べない地獄が待っていた。そして、炎の中から奴は姿を現した。
「大層な鎧を身に着けておきながら随分と遅かったじゃないか。もう終わっちまったよ、本当なら終わる瞬間を見せたかったんだけどな。でもこれでお前が守るものは何も無くなった。これでお前は弱い振りをしなくてもいいだぜ?本気でこいよ」
「・・・うわぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
冬夜は叫ぶほど激昂し、拳銃を乱射して近付き、鎌を生成、大振りで振り回した。だが、そんな攻撃がこのアンデッド相手に通じるわけがない。冬夜の攻撃を軽々と避けて見せ、少し距離を取った。
「ありゃま、これは少し時間が必要か?本当にしょうがないやつだな」
アンデッドは再び高く跳躍すると何処かへと去っていった。
「待て!逃げるなぁぁ!殺してやるッッ!殺してやるッッッ!!!」
冬夜の叫びは虚空へと消えた。ただただアンデッドが遠ざかっていくのを見ているしかなかった。しばらくして回収班がやって来て冬夜をゼウスへと連れ帰った。
「・・・もういいだろ、あんたらが人質に取ってた俺の家族も・・・みんなもいなくなった!!もう俺が戦う理由なんて何処にもないだろ!!」
「確かにその通りだ。あのアンデッドは我々の想像を遥かに超える強さを持っていたがそう簡単に諦めるわけにはいかないのだよ。君が戦わないと言うのであれば強制的に君を戦わせるしかない。文字通りマシーンになってもらう。つまりだ、君には死んでもらう。選びたまえ、死か、復讐か」
・・・選択肢などないようなものだった。死にたいという気持ちは大きかった、すべてを失った喪失感はそれほどまでに大きかった。だが、死してなおアンデッドのように動き続け、奴を殺すのだとしたらそれは考えられない選択だった。
「・・・・・・俺が殺る、俺が奴を殺す・・・お前らのような奴らに仇を任せるなんて俺には出来ない。」
「なら戦いたまえ、思う存分殺し合いたまえ。もう君には何も失うものはないのだから」
冬夜は拳を固く握り締め、あのアンデッドへの復讐を誓った。・・・一方で、例のアンデッドは逃亡する振りをして冬夜をつけてきていた。ビルの屋上からゼウスの本拠地である施設を見下ろしていた。
「へぇ、まだ帰る場所があったのか・・・邪魔だなぁ」
アンデッドは口角を上げ、見つめていた。