異能を持つ死者
目を覚ますと液体カプセルの中に浮かんでいた。
「おお、ようやく目覚めたようだね。寝すぎは良くないねぇ」
目の前の白衣を着た老人が喋りかけてきた。
「ここは・・・?」
「君は今治療を受けていたところさ、丁度今終わったところだね。これはポセイドンという。私が、そう私が開発した医療装置さ、どうだ?凄いだろう?ちなみに君の胸に埋め込まれているハデスも私が作った物だ。ハデスもポセイドンもまだ試作段階ではあるが中々に機能しているとは思わないかね?ハデスに至ってはまぁ、副作用が強すぎたようだからなんとか調整して以前よりはマシになっているとは思う、多分ね。絶対なんてものは無いからね、仕方がない。まぁ、そのうち体が慣れてくるだろうさ」
「・・・あんた、誰だ?」
「私か?私の名前なんてどうでもいいだろう?さして重要でもない。それに教えたところで覚えられまいよ、一発で覚えられる人間なぞこの世にはおらん。分かりやすく博士と呼びたまえ。」
「・・・っ!そうだ!みんなは!?みんなは無事なのか!?」
「みんな?それは誰のことを言っているのかね?まぁ、人類というのであれば異常なしと言ったところかね。まぁ、何かあったところですべて揉み消し、消し去るから異常なしというのは当たり前なのだがね。あぁ、それとも君の家族の話かね?それも異常なしだ。何も知らず生きてるよ、君のことを忘れてね」
「・・・え?」
俺の事を忘れて?・・・一体何を言ってるんだこの爺さんは・・・
「おや?知らなかったのかね。それは可哀想に。君がこの大層な名前の組織に来た時から既に街の住民には記憶操作が行われている。君を知る人は誰もいないよ」
「・・・そんな・・・」
「そんな顔をしなくてもいいじゃないか、家に帰る必要が無くなったんだ、これからは安心してここに住めるし戦える、そうだろう?」
「ッッふざけるな!!!」
ガラスを思い切り殴りつけるが液体の抵抗に阻まれ鈍い音だけがした。
「そう暴れるな、暴れたところでどうにもならないのだからねぇ。それにしても君はどうしてそんな力を持っているのかね?あのアンデッド達を簡単に殺すことが出来る能力とは興味が尽きないね。もしや、アレのせいで能力を得たのか?それなら君の他にも適合者が・・・いや、まさかそんなことはあるまい。アレはそのような力を与える代物ではないのだから」
博士と名乗る老人はブツブツと何かを呟き初め、ウロウロと歩き始めた。だが、今はそんなことはどうでもいい。みんなが俺の事を忘れている・・・春奈のように・・・もう帰るべき場所は・・・どこにも、ない。どこにも・・・。でも俺は覚えてる、そう簡単に見捨てられない・・・みんなを・・・父さんを、母さんを・・・。守らなきゃいけない・・・俺は否が応でもこいつらに従わなきゃいけない・・・都合のいい戦闘マシーンとして・・・。その時、部屋中に警告音がなり響いた。
「アンデッド発生、直ちに実験体01を出撃させよ」
「最近はアンデッドの発生率が高いな・・・どれ、おや今回のアンデッドはたった一体のようだね!良かったじゃないか!さぁ、行ってきたまえ」
そう言うと博士は目の前のスイッチを押した。すると、液体が抜け、拘束され、俺は再び射出された。そして、空中で箱が分解し、投げ出された。
「クソッ!ハデス!!」
ハデスを装着し、今度は何とか着地に成功した。そして、博士の言う通り、目の前にはアンデッドが立っていた。でも、今まで見たことの無いアンデッドだった。
「なんだこいつ、両腕が刃になって・・・」
次の瞬間、そいつはいつの間にか俺の目の前に立ち、刃を振り下ろそうとしていた。回避が間に合わず、左腕が切断される。
「あぁあぁぁぁあああああ!!!腕が!!!腕がァァァァ!!」
切断された腕と部分はハデスに覆われ、大量出血を免れた。だが、アンデッドは次の攻撃に移っている。当たれば死ぬ。その攻撃をなんとか回避し、距離を置く。激しい痛みと吐き気が冬夜を襲う。
「(気分が悪い、吐きそうだ・・・でも、こいつを倒さないと・・・)」
銃を作り出し、乱射するが、素早い動きですべて躱される。
「クソッなんで!なんで当たらないんだよ!!」
痛みでまともな思考が出来ない。ただただ銃を乱射するだけになっていた。アンデッドは学習したのか回避しながら少しづつ距離を詰めてくる。
「クソックソックソッ!!!」
刃が届く距離まで来ると、アンデッドは刃振り下ろそうとして刃を上げる。その隙にアンデッドを押し倒し、顔面に弾丸を叩き込む。
「死ねッッ!死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!!」
何十発と撃ち込んでようやくアンデッドは土塊となった。冬夜は荒い呼吸のままその場に倒れ気を失った。その後すぐゼウスの黒服達がやって来て冬夜を回収、ポセイドンへと連れ込んだ。切断された腕はポセイドンの中でくっつけられ、治った。
「まさか特殊なアンデッドが出てくるとは思ってもみなかったな・・・それに、ハデスが切断されるとは・・・もう少し硬度を上げなくてはな」
博士はハデスの調整に取り掛かり、硬度の調整を行っていた。そんなことは知らず、冬夜はポセイドンの中で静かに眠りについていた。