彼女ガチャ
『ガチャで彼女を作ろう!』
薄暗い路地裏が近道だったので、いつものよう歩いているといつ置かれたのかは分からないが、俺の目の前に所謂ガチャガチャと呼ばれるカプセルの出てくる筐体が置かれていた。
その筐体に書かれた宣伝文句がそれだった。可愛らしい女の子絵が筐体一面に描かれている。
この手のガチャは、引けば筐体に描かれている女の子のフィギィアかなんか出てくるんだろう。
俺の好みの黒髪ロングでクールな美少女もその筐体に描かれているのが目に入る。
あの子のフィギュアが当たればラッキーだな。
1回500円か。まあ、妥当なとこだろう。バイト代が入ったばかりだし、500円なら引いてみるか。
ということで俺はガチャガチャの筐体に500円を入れ、ハンドルを回す。カコンという音ともにカプセルが現れる。
そのカプセルを開くと1枚がカードが入っており、そのカードには俺好みの女の子の絵が描かれ『彼女カード。ユイ、SSR』と書かれている。
ユイちゃんだ! SSRラッキー!! じゃねぇ!なんだよ! ただのカードかよ。このカードでどうしろと? 彼女同士でカードバトルでもさせるのか?
筐体には彼女を作ろうとしか書かれておらず、遊び方もクソもない。
なんだよこれ……なにがSSRだよ。遊び方もわかんねーのに。
500円を損した気分でそのままカードを乱暴にポケットに突っ込むと俺は家に戻る。
そのままカードのことは忘れ、自分の部屋で寝っ転がって、スマホを弄ったり、漫画を読んだりしているとポケットに違和感があり手を突っ込む。
1枚500円のカードか……たけぇよな……
そのカードを取り出すと俺好みの黒髪ロングの女の子が写っている。
そのカードの裏面をみるとQRコードのような物が印字されていることに気がつく。
「これって……」
スマホのカメラを起動してQRコードをスキャンしてみる。
するとガチャ彼女のアプリをインストールしますか?
という表示がされる。
あーなるほど新しいソシャゲかこれ……まあいいやSSRだし。初めてみるか……
このアプリはGPS機能を使用しますという注意書きがでる。
それが終わると名前を入力して下さいと表示がされる。
これ女の子が俺の名前を呼んでくれるやつだろ? めっちゃ卑猥なやつにすれば女の子がめっちゃ卑猥な事を言ってくれるんだよな。フフフ
お○んぽミルクにしよう……おち○ぽミルクっと……
『お○んぽミルクさんですね』という表示とともに選択肢が現れる。
通るんだ……普通この手のゲームはNGワードが設定されてんのに、脇が甘いな。この子に卑猥な名前を呼ばせて楽しもうぜ
ということでYESを選択する。
『お○んぽミルクさんの彼女はユイさんです。ユイさんとの思い出をたくさん作って楽しい彼女生活を送りましょう!』
という表示があらわれるとスマホの画面には俺がガチャで引いたリアルな黒髪ロングの女の子の一枚絵が表示されている。
それでどうしろと……俺はこの子をずっと眺めていればいいのか?
すると『彼女と話すにはカードが必要です。お○んぽミルクさんは現在、通話カード(5分)SNSカード(5返信)を所持しています』という表示が現れる。
電話のマークのカードと緑色のアイコンをしたSNSのマークしたカードが表示されている。
通話って電話とか掛けてきてくれたりするわけ? そんな筈ねーよな。どうせ画面に吹き出しがでてきて会話しました的なやつだろう。
通話カードををポチッとおした瞬間、非通知から電話が掛かってきた。
ま、まさか……ユイちゃんから電話?……なかなか凝ってるな。まあどうせ録音されてるやつ5分間流すだけだろうけど。
そう思って電話に出てみる。
「もしもし! 俺、お○んぽミルクよろしくな!!」
先手必勝とばかりに挨拶をかます。
「……」
あれ録音のはずなのに何にも言わないんだけど……
「……もしもし……私、ユイです……」
恥ずかしそうに話す声とても録音のようには思えない。そして
「お……ミルクさんですよね……」
その電話口の彼女は……卑猥な部分を聞こえないように俺のことを呼んだ。
!! これ録音じゃねぇぇぇ!! お、俺はなんてことを……
顔が燃えるように熱くなって、胸がドキドキして手のひらから変な汗がブワッと出てくる。
どうしようどうしよう……女の子だぞ……本物の女の子だぞ……
「「……」」
二人とも何も言わず時間だけが流れていく。
ど、どうしよう……
「お……ミルクさん?」
沈黙を破るように彼女がそう言った。
!! な、名前は俺の名前を教えたほうがいいよな……
「ご、ごめん!! 変な名前つけて……俺てっきりゲームだと思って……実物の女の子が出るなんて……思ってなくて……」
「大丈夫ですよ。気にしてませんから……でもなんて呼べばいいですか?」
「俺の名前は苗場ヒロシって言います。俺のことはヒロって呼んで下さい」
俺がそう言うと電話口の声は明るくなる。
「ありごとうございます! ヒロさん!」
「う、うん」
その電話口の声は黒髪ロングのすました顔をした彼女の声そのものに感じた。