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8.調理

 あてがわれた部屋は、さすがに見習い生活をしていたときに住んでいたボロ部屋と比べれば、ずいぶん豪華な場所だった。柔らかいマットが敷かれたベッドが二台並んでいて、暖炉では火がぼうぼうと燃え、さらに簡易的な調理台まで置いてある。

 しかしそれ以上に、エリアが同じ部屋に泊まるということに、少しドキドキしてしまうフィールだった。

 一方のエリアはあまり気にしてないようで、荷物からドラゴンの肉を取り出すと、とっとと調理台に向かう。鍋に水を入れ、肉を一緒に放り込んで火をつけると、ぐつぐつと煮込み始めた。すぐに肉のうまみが凝縮された匂いが部屋に充満する。変なことを気にしていたのがどこかに飛んでいってしまうほど、それは魅力的な匂いだった。


「調味料なしでこれはたまらないわね……」


 エリアもよだれをたらしそうになりながらそんなことを言う。その気持ちがフィールにもよくわかった。見習い時代は肉を食べられることすら滅多になかったのに、目の前にあるのは貴族でも食べられないような最高級肉だ。


「鑑定:料理SSS。これ以上のレベルはあたしのスキルで出たことがない。つまりは最高級の肉よ。さぁ、召し上がれ」


 十分煮込んだ肉塊を取り出すと、エリアはナイフで切り分けた。まるで温めたバターを切るかのように、ナイフがすーっと肉を分けていく。ほのかに赤みがかった上質の肉が部屋の証明を反射してきらりと光り、それと同時に豊潤な肉の香りがフィールの鼻腔をこれでもかというほどくすぐった。口の中によだれがジュルジュルと湧いてくる。


「いただきます」

「いただきます」


 一口放り込むと、それだけで肉の甘みとうまみが口の中全部に広がった。塩も胡椒もかえって邪魔になるのがわかるほどの、ジューシーで濃厚な味わい。フィールはそれだけで涙が出そうになった。


「最っ高~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!」


 エリアが叫ぶ。思わずフィールも口の中に肉を含んだままぶんぶんと頷いた。


「ほんと鑑定士でよかったって思うのはこういうときよねー!!!!最高の素材がわかる上に最適の調理法もわかるんだから!!!!!!あーおいしい~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」


 エリアは二切れ目、三切れ目とどんどん食べていく。慌ててフィールもそれを追いかけるかのように、次々とドラゴンの肉を口に運んだ。そしてすっかり二人で平らげてしまうと、エリアがまた次の塊を取り出す。


「エ、エリア……おいしいけど、もう食べられないよ……」


 フィールはおなかを撫でながらそうアピールした。エリアはそれに笑って答える。


「わかってるわよフィール、あたしももうおなかパンパン!でもドラゴンから切ってきた最高級の肉はまだまだあるから、腐らせないようにしないと」

「あ、そうだね。どうするの?」

「燻製にしたり、塩漬けにしたりかな。あたしの鑑定ならどちらについても適切な調理法を知ることができるから、大船に乗った気持ちでいるといいわ、もちろん、腐っててもわかるからそっちの心配をしないでもいいわよ」

「それじゃ、お任せしていい?」

「ええ、手が足りなくなったら何かお願いするわ」


 そう言うと、エリアは肉の処理を始めた。宿の方も用意がいいもので、ちゃんと燻製用の設備が暖炉に整えられている。塩の方もエリアに手持ちがあるようだった。鼻の奥まで香ばしい匂いが漂ってくる。それを嗅ぎながら、フィールは徐々に眠くなってくるのを感じた。様々なことがありすぎた一日である。いつの間にか彼の疲労は限界に達しており、これまで寝たこともなかったベッドの柔らさも相まって、フィールはそのまま眠りに落ちて行ったのだった。

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