7.町に戻る
二人は日が暮れる少し前にガダチャの街に辿り着くことができた。先ほど顔を合わせたばかりの門番と再び会話するのはなんだか気恥ずかしかったが、門番たちにとっては別によくある話のようで、取り立てて注目されているようではなかった。
門番たちの態度が変わったのは、エリアがドラゴンの話をしたときである。
「街道でドラゴンに襲われたわ。なんとか倒すことができたけど、ほかにも出てくるかもしれないし周辺警備を強化してくださらないかしら」
「ドラゴン!?それをあんたら二人で倒したって?」
「これを見ても信じられないかしら?」
そう言って剥いだばかりのドラゴンの皮をエリアは門番に見せる。たった今剥がれたものかどうかの判断ができるほどまだ生気に溢れている皮を見せると、門番たちの表情にも真剣さが増した。
「今ならまだ街道に死体も残ってるはずよ。まだ疑うなら確認に行って来たら?」
門番たちは顔を見合わせると、やがて一人の門番が詰所の奥へと向かい、数名の仲間とともに街道を馬で駆けて行った。
門番のリーダー格と思われる男性が二人に言う。
「悪いけどしばらくここに残ってくれたまえ。善意の通報者だとは信じているが、話が話なものでね」
「じゃあ、そうさせてもらおうかしら。やましいところは何もないし」
「僕も構いませんよ」
さすがに馬で向かっただけあり、さほど待たずして一人が帰ってきた。
「報告します。その二人が言ったように、確かにドラゴンの死体がありました。ほかの者は状況を記録し、ドラゴンの死骸の回収作業をしているところです」
「ふむ、ご苦労。現場に戻って作業を手伝ってやってくれ」
リーダーは報告を聞くとフィールとエリアに顔を向ける。
「どうもお待ちいただいてすまなかった。そして貴重な報告をありがとう。これから街道の警備についてはこちらで対応させてもらう。君たちはもう街へ入ってくれて構わん」
「それじゃあ、ありがたくそうさせてもらうとするわ」
「私の名前はガイヒコだ。もし何か困ったことがあれば言ってくれ。今日のお詫びとお礼くらいはさせてもらおう」
「ありがとうございます。何かあれば頼らせてもらいます」
そして二人は門番に通行許可をもらい、ようやくガダチャの街に入ることができた。いつの間にか日はすっかり暮れており、辺りは夜の闇に包まれている。
「やれやれ、ドラゴンの換金は明日になりそうね。どこかいい宿はあるかしら?できれば持ち寄った肉をそのまま焼ける感じの」
「それなら心当たりがなくはないよ。けれど、ちょっと高くて……」
「宿代くらいおごるわ。これでも鑑定士よ」
「ありがとう。ドラゴンがお金になったら今度はおごり返させてもらうよ」
「期待してるわ」
そんな会話をして、フィールとエリアは一軒の宿へと向かった。見習い生活をしていたとはいえ、街に住んでいれば宿の情報なども知らず知らずのうちに入ってくる。フィールが案内したのは、旅の冒険者の中でも評判の宿だった。
「二人、泊まれるかしら。とりあえず一泊」
「へいらっしゃい!あいにく部屋は一部屋しか空いてないけど、同じ部屋ってことでいいかい?」
「構わないわ」
「え、エリア!?う、うん、僕も構わないけど……」
「何慌ててるのよ。一緒に組んだら二人で野宿とかすることだってあるんだから、これくらいでドギマギしないで」
「あ、う、うん……」
「話はそれでいいかい?それなら、これがカギだ。部屋の場所は……」
宿の主人に鍵を渡されて、二人は宿の二回にある一室に向かった。