6.解体
はぁ、はぁと荒い息をして、フィールのことを恨みに満ちた目で見つめるドラゴン。しかし、その肉体はもはや限界を超えて動かすことはできず、そうこうするうちにドラゴンの瞳はどんどん命の輝きを失ってゆく。やがてフィールとエリアが見ている前で、ドラゴンは静かに息絶えた。
「勝った……?僕が、ドラゴンに……?」
フィールもフィールで、相当な息切れをしていた。しかしドラゴンとは違い、命に別条があるようなことはない。それよりも心の中の方が混乱していて、フィールはまだ、自分が何をやったのか信じられないでいた。スライムにすらなかなか勝てず冒険者パーティを追い出された自分が、まさかドラゴンを一人で殺すなど、まったくもって彼の理解を追い抜いていた。
だが、その隣には自らのスキルをもって、フィール自身よりも彼の力のことを知ることになったエリアがいる。
「そう、それがあなたの能力。例えスライムと戦っても苦戦するけれど、相手がドラゴンであったとしても戦い続ければ必ず勝てるチカラ――“辛勝”。あたしの鑑定では、そんな結果が出たわ」
「しん、しょう……」
もう一度、改めて自分に与えられた力の名前を唱える。全く恰好よくはないが、それでもほかのどんなスキルにも代えがたいような力であることは、今の戦いでフィールもよく理解していた。
「ありがとう、エリア。そしてさっきはごめん、嫌な言い方をしてしまって」
ドラゴンが来たときにしてしまった自嘲を思い出しながら、フィールはそう言う。エリアは軽く頭を振った。
「いえ、あたしこそちゃんと説明しなくてごめんなさい。ドラゴンには嫌な思い出があって、パニックになっちゃったの」
それが何なのかはわからないが、彼女の怯えようからして命に関わるようなものだったのだろう。フィールはそれ以上尋ねようとは思わなかった。
「さぁ、とりあえずこのドラゴンを解体しましょう。鑑定士の腕を見せてあげるわ。ばっちり高価なところだけ取って、残りは焼肉にでもしてしまいましょう」
エリアは嫌な記憶を振り払うかのように、笑顔を作ってそんなことを言う。フィールはそれに従った。
巨大なドラゴンを解体するのは随分時間がかかるのではないかと思ったが、エリアの指示に従いながら二人で解体すると思ったよりもはるかにスムーズに仕事が進み、二時間もかからずにドラゴンを捌くことができた。翼や鱗のうち、エリアが価値があると言う部分を順番にナイフで切り抜き、それ以外はごっそり捨てさってしまう。肉にしても同様で、エリアが一番おいしい場所だというところだけ切って血を抜き簡単に防腐処理すると、残りはすべて置き去りにしてしまうことにした。
「一見ほとんどそのままのドラゴンが残ってるから、最初にここを通りかかる人はぬか喜びするでしょうね」
エリアがいたずらっ子のように笑いながらそんなことを言う。
「それで、僕たちはこれからどうしようか。ぼやぼやしていると日が暮れてしまいそうだけど」
夜でも歩けると評判とはいえ、街道をわざわざ夜歩く必要はない。それに真昼間からドラゴンが現れてしまうようでは、その評判も疑わざるを得なかった。
「そうね、安全な街道って聞いてたけど、これじゃああんまり油断はできないわね……」
エリアもドラゴンを見ながら同意する。
「フィール、もし嫌じゃなかったらガダチャの街に行きたいんだけど。ここからならあっちの方が近いし」
「僕は構わないよ。冒険者になれないと思って街を出たけど、こんなスキルがあるんじゃ話が違ってきそうだ。田舎に帰るのは後回しにしようと思う」
「それじゃあ、話は決まりね。あ、このドラゴンを売った利益は、全部フィールのものにしてくれていいわよ。その代わりといっちゃなんだけど、これも何かの縁だし、ガダチャの街であたしと組んで探索してくれないかしら。あなたがいれば絶対にモンスターに倒されることはないし安心だわ」
「うーん、でも、群れとかに襲われたらどうしたらいいんだろう?僕が守り切れなくて、エリアに危害が加えられる危険もあるんじゃないかな?」
「あー、確かにちょっと先走りすぎたかもしれないわね。でもこのままあなたと別れるのは惜しい気がするわ。取り合えずゆっくりできるところで話し合いましょう」
「うん、僕としても鑑定士のエリアが味方になってくれるなら願ったり叶ったりだ。いったん街に行こう。案内もできるし」
「それじゃあ、エスコートをよろしく頼むわ」
そういうことで、二人はドラゴンの一級部位を担ぎ、ガダチャの街へと向かったのだった。
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