51.晩餐
上階への方陣に辿り着いたフィール達は、そこで階層担当のパーティに出くわし、事情を説明した。そちらのパーティにいたのはベルルのようなあくどい人間ではなく、レラーナたちを地上まで連れ出すのを手伝ってくれた。八十三層以下へ任務終了を知らせるチームも結成され、王女救出作戦は終了したのだった。
そして数日後、フィール達三人は王宮の一室に招待されていた。国王陛下じきじきに今回のお礼がしたいということだった。
三人は立派なテーブルを前に間隔を空けて座っていた。やたらめったら皿やらフォークやらナイフやらグラスやらが置かれており、テーブルマナーの心得のないフィールにとっては晩餐が始まったらどんな恥をさらすことになるかと気が気ではなかった。
隣に座っているバルイも緊張しているようで、フィールとエリアに声をかける。
「ひぃ、喉がカラカラだぜぇ、飲み物は勝手に飲んどいていいって案内してくれた奴が言ってたし、ちょっといただくとするわ」
そう言って近くにあったボトルを手に取り、グラスに入れて一息にあおる。
「ええ、そうね――って、バルイ!それすごい強いお酒!!」
エリアが何の気なしに鑑定して気づいたときには既にバルイはグラスを空にしてしまっていた。彼の目がとろんと据わり、フィールとエリアは猛烈に嫌な予感がする。
「……だいたいよぉ、いくら国王だろうが王女だろうが、このバルイ様を待たせるなんてちょっとおかしかねーか?こちとら命の恩人だぞぉ?それをちんたらいつまで経っても出てこないなんて、いったいどういう了見でい!!」
「あわわわわわわわわっ、どうしようエリア」
「おおおおおおお落ち着いてフィール、水、水よ!バルイに水を飲ませましょう!!」
酒が回って態度が悪くなったバルイを何とかしようとするフィールとエリアだったが、タイミング悪くそこで国王が登場した。
向かいの扉から、威風堂々としたたたずまいで、金貨の裏の肖像画で見たことのある顔の人がゆっくりと歩いてくる。その後ろには、冒険者の恰好ではなく王族のドレスを身にまとったレラーナと、彼女のパーティのリーダーであるガルスも歩いてきた。フィールとエリアは慌てて立ち上がるが、バルイは立ち上がろうともしない。
「ちょっ、バルイ、陛下だよ――」
「おい遅ぇぞ!娘の命の恩人様を待たせるなんざぁ、いい度胸をしてるじゃねーか国王様はよぉ!!」
酔っぱらったバルイがそんな不敬なことを叫び、フィールは終わりを悟って、どうやったらエリアとバルイを守りながら王宮から脱出できるかを真剣に検討し始めた。
しかし、国王にとってはそんなバルイの態度がなぜか豪胆に映ったらしく、笑いながら手を叩いた。
「はっはっは、余を前にしてもその豪気な態度、さすがは我が娘を救い出したパーティのリーダーじゃわい、国防のためのどうしても外せぬ会議があったのじゃ、どうかこちらの非礼を許されよ」
そう言って国王はフィール達の向かい側にどっかと座る。その隣でレラーナとガルスも椅子に腰かけた。あまりにも以外な国王の反応に、思わずフィールとエリアは顔を見合わせる。
「だいたい最近の冒険者というのはどうも小物っぽくていかん、生真面目なのは役人だけで十分じゃ、冒険者というのは豪放磊落、天衣無縫なくらいがちょうどいいものよ。あのベルルとかいうのも何度か会ったことがあったが、どうにも口先ばかりうまくて気に食わなかったものじゃ。今は実力を偽り不十分な装備で任務に当たったかどで捕らえておるが、まぁ資格の剥奪は避けられんじゃろう」
いきなり知った名前が出てきたことに驚いたフィールは、その話を聞いても全く彼らに同情する気にはなれなかった。かつて見習いをしていたとはいえ、自分を使い捨てた挙句に最後は手柄を横取りしようとしてきたベルルたちだ、行いの報いだとしか思えない。
「あの似非上級パーティのせいであわや命を落とすところだった娘を救ってくれたこと、改めて父親として礼を言わせてもらう」
そう言って国王と、隣で座っていたレラーナとガルスは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「ははっ、わかりゃいいんだ――ぁごぶじっ!?」
傲岸な態度を崩さないバルイをとりあえずエリアが殴って黙らせる。酔いもあってか、バルイはそのまま椅子で気絶してしまった。
「恐れ多いです、どうか頭を上げてください」
フィールは突然のことに混乱しながらも、何とかそれだけ言った。三人がゆっくりと頭を上げる。国王は穏やかな表情で口を開いた。
「バルイ殿、フィール殿、エリア殿、早速だが、酔いが回らない前にしておきたい話がある、余は娘の救出に成功したパーティには望みのままの報酬を与えると任務の前に約束しておった、貴殿らの望みを尋ねたい」
その言葉に、フィールとエリアは目を合わせる。国王の配慮むなしく、バルイは既に酔いが回ってしまっていたのだが、この件に関しては事前に三人で打ち合わせをして決めていた。
フィールとエリアは、声をそろえて言った。
「「それでは、大変恐れ多いことなのですが……レラーナ殿下に、我々のパーティに入っていただくことはできませんでしょうか?」」
「えっ?私ですか!?」
いきなり自分の名前を挙げられて、レラーナは少し驚いたようだった。エリアが言葉を続ける。
「はい、既にご承知のこととは思いますがこのフィールは、どんな相手にも勝てるという特技を持っております、しかしあくまで本人だけのことであるため、仲間である私やリーダーを守ることは必ずしもできません。ですが殿下のスキルをお貸しいただければ、鬼に金棒なのです。もしも殿下が我々に力を貸してくださるのであれば、東西南北天上地下、攻略できない迷宮も魔物も、一つたりともなくなることでございましょう」
そこでエリアはちらりとガルスの方を見た。
「もちろん殿下にも所属するパーティがおありになることはよく存じております、あくまでサブの所属としてでも構いませんから、我々に力をお貸しいただければ――」
そこでガルスはエリアの言葉を遮った。
「いやお嬢ちゃん、俺たちに気を遣うことはねぇよ、今回の冒険でみんな心身共にやられちまったからな、幸い死者は出なかったが、もう冒険者をやめたいって奴もいるくらいだ。全員の回復や人員の補充を考えたら、殿下をそれまでずっと待たせるわけにもいかねぇからな」
「そうなんですか……?」
「ああ、残念だが、仕方がねえ。俺たちのタイマン姫をよろしく頼むぜ」
ガルスはそう言ってにやりと笑った。
「もう、せっかくそのあだ名を知らない人たちと仲間になれそうだったのに、余計なことを言わないでください」
レラーナはそう言ってぷくっと頬を膨らませる。そしてフィールとエリアに顔を向けた。
「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「あ、は、はい!!こちらこそどうぞよろしくお願いいたします!」
「望みを聞き届けていただき、感謝いたします殿下」
「はっはっは、貴殿らが娘の仲間になってくれるなら余としても心強いことこの上ない、たっぷり娘を鍛えてやってくれよ!!」
国王も笑って手を叩く。
「他に欲しい物はないのか?」
「ええ、既に最高の褒美をいただきましたのに、これ以上望んでは罰があたりますわ」
エリアは澄ましてそう答える。随分物分かりのいい発言だと思ったら、続きがあった。
「ただ……もしよろしければ……ぜひ陛下の所有物などを『鑑定』させていただければと……いったい国王陛下の所有物なら、どんな鑑定結果が出るのかあたし気になって気になって……」
じゅるりとよだれが垂れそうな顔でそう言うエリア。その顔を見て国王はまた大きく笑った。
「はっはっは、エリア殿は凄腕の鑑定士ということだったな、よかろう、食事が終わったら王宮を案内するから、心ゆくまで『鑑定』するといい。気に入ったものがあれば何でも持って行って構わんから、あまり酔いすぎないようにな」
国王の寛大な言葉に二人は深々と頭を下げ、そして料理が運ばれてきた。あのドラゴンの肉に勝るとも思えるような贅を極めた料理の数々に舌鼓を打ち、バルイの酔いを何とか醒ましたりしながら、晩餐は進んでいった。そして三人は王宮内を案内してもらい、エリアはおおいにはしゃぎ、新しい仲間であるレラーナとも打ち解けていった。
こうしてバルイ率いる『牛鍋のセロリ』は、スキル『決闘者』の使い手たる王女レラーナを引き入れ、新たな冒険までの束の間の休息を楽しんだのだった。
これにて第一部終了です。作者多忙ということもありいったん完結とさせていただきます。状況が許せば、第二部から執筆再開ということもあろうかとは存じますが、何はともあれ、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
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