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5.決着

 ドラゴンと互角に殴り合う。

 一流の冒険者でもなかなか素手でできないことを、フィールは成し遂げていた。

 本当に前のスライムと戦ったときとまるで同じ、決して相手を一撃で仕留められるようなことはないが、かといって相手に殺されるような気もしない、そんな戦いが続いていた。一つ一つが牛や馬でも屠れるようなドラゴンの攻撃を、しかしフィールは自分のか細い腕で受け流す。そうして隙ができたところに踏み込むと、ドラゴンの腹に一発ストレート。それだけで勝てるわけではないが、ドラゴンが一歩後退して確実に効いていることがわかる。まるで酔っ払い同士の喧嘩のように、ぐだぐだしているしスマートでも何でもない戦いであるが、それでも戦況は徐々にフィールに好転してきていた。

 今までずっと生きてきて、これほどまでに奇妙な相手と戦ったことのないドラゴンは、経験に裏打ちされているからこそ、現実に起こっていることを受け止められない。かたやフィールは戦闘経験など皆無に近い。だからこそ、かえって今起こっていることをありのままに受け止められる。

 そしてそれは経験という知識として、彼の血となり、肉となり、技となっていく。


 ぐるるるるるるるるるるるるるぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!!!!


 フィールの拳がまた、ドラゴンの腹に入りドラゴンは苛立ったような声を上げる。そして苛立ち紛れに腕を振り下ろすが、フィールはそれを右手で払いのけた。ちょっとした痛みは走るが、それもまた、戦いが始まったころよりははるかにましになっている。フィールの両手には既に数多の切り傷や擦り傷がついていたが、それはほとんど戦いの初めについたものだった。フィールは今や、完全に自分の力を支配下におさめようとしていた。

 英雄のような派手な力ではない。一発ですべてが終わるような便利さはない。それでも、一歩一歩着実にドラゴンを追い詰めることができ、そして自分の方は絶対に死ぬことはない。泥臭くても、恰好悪くても、根気さえあれば負けることはない、そんな力を自らが持っていることを、フィールは体全体で感じ取っていた。


「フィール!!あと2500!!」


 そして錯乱からかなり回復したエリアがサポートしてくれるのも大きい。彼女はフィールの後ろ、かなり距離を取った場所から、ドラゴンの体力を『鑑定』し、それを数値化してフィールに伝えてくれていた。最初は10000を超えていたドラゴンの体力も、もはや四分の一以下に下がっているということがわかる。そして遅々とした勝負でも、残りがどれくらいかわかればモチベーションを保つことができる。フィールはドラゴンがエリアの方に行かないよう、ねちっこくドラゴンにまとわりつきながら、一歩一歩ドラゴンの体力を削っていった。


 また一つ、フィールの拳がドラゴンに当たる。


「あと2000!!」


 ドラゴンが尾をフィールに振るっても、フィールはそれを足で蹴飛ばして相殺する。


「あと1500!!」


 今度はフィールがドラゴンに回し蹴りを食らわす。心なしか、ドラゴンの表情が苦しさを増す。


「あと1000!!」


 ついにドラゴンは自らの危険を悟ったか、翼を広げ空に逃げようとする。だがその巨体を宙に浮かすことはすぐにはできない。そしてその間もフィールが翼につかみかかると、ドラゴンは更にバランスを崩した。


「あと500!!」


 懸命にドラゴンはもがき、なんとか翼を再び広げ、息も絶え絶えになりながら宙に浮いた。だが、まだ人の頭ほどでしかない。そこにフィールはアッパー気味に拳を入れる。


「あと250!!」


 何とか離陸しようとしたドラゴンは、しかしふらりふらりとまるで酔っぱらっているかのように頼りない上下運動を繰り返す。そして再びバランスを崩し、フィールの目の前にまた落ちてきた。そこをフィールは、渾身の力を振り絞って拳を打ち込む。


 ぐ、が、ぐがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 もう一度、空を目指したドラゴンは――そんな断末魔の叫びを上げて、フィールの目の前にどしん、と落下した。

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