48.ベルル
「さぁて、これでみぃんな通り過ぎてくれたな、これで仕事は終わったようなもんや」
階下へ向かうすべてのパーティが、自分たちのいる八十二階層を通り過ぎたことを確認したベルルは、そう言ってにやりと笑う。仲間のメンバー達も、下品な笑いを浮かべた。
「あとはここで適当に隠れて時間をやり過ごすんですよね、それで大量の報酬がもらえるから安いもんです」
「ちゃうちゃう、『必死に殿下を捜索したけど、力及ばず見つけられんかった』っちゅうわけや、そこんとこ間違えんといてや、ほな探索するでぇ、あー殿下―、殿下―、あかんなぁ、全然見つからへんわ」
二、三歩だけその場を歩いて、ベルルはそんなことを言った。
「いやぁ、こんなに探索したのに見つからないのは、きっとこの階層にはいらっしゃらないんでしょうねぇ」
「そやなぁ、ほな後はモンスターに見つからんようにゆっくりしとこか」
そう言ってパーティメンバーと一緒に、ベルルはガハハと笑った。
第八十二階層は無数の部屋がつながった構成になっている。部屋と部屋は扉で区切られ、モンスターが扉で隔てられた別の部屋に入ることはない。また、上階層から転送されてきた部屋と、転送陣のある部屋はすぐ近くにあり、その間はあまりモンスターも出ないということが知られていた。つまり、次の階層への通り道として使うだけなら、さして大変なことはない一方で、脇に逸れて部屋をいくつも進んでいくと自分の位置がわからなくなってくるし、出てくるモンスターもどんどん強くなるという階層だった。
「ま、念には念を入れて、安全対策はしっかりしとこか」
ベルルの掛け声に、パーティメンバーたちが荷物からいくつか道具を取り出す。気配を消してモンスターから見つかりにくくなるテントや、不意の攻撃にも一度は耐えられるシールド、接近者を察知して鳴る笛など、どれも防御に徹したアイテムが次々と設置されていった。
「いやぁ、これなら何が来ても安心ですね、ベルルさん」
「せえやなぁ、ほな後は持ってきた食いもんでも食べながら、のんびり時間が経つのを待ちましょか」
二次被害が発生するのを防ぐため、今回の任務では事前に作戦に要する日数が十日間と決められていた。その日数を過ぎれば、王女発見に成功しなくても各パーティは帰還することになっていた。未攻略領域をも攻めないといけないことを考えると決して余裕のある日程ではないが、各パーティに十分な食料などを渡らせることを考えると、これが限界だった。
だからこそ、仮にこの階層に王女がいても、いくらでもごまかしはきく。今回の報酬のことを考えて、ベルルがにたりと笑ったまさにそのとき、彼らのいる部屋に転がり込んできた三人がいた。
「この部屋!?」
「違う、まだもっと先!」
ところどころ傷を負いながらも、しっかりとした足取りで部屋の扉から逆側の扉へ駆け抜けていった三人に見覚えがあり、ベルルはぽかんとしたままその名を呟いた。
「フィール……?あいつ、なんでこんなとこにおるんや」
気配を消していた効果があったのか、三人はベルルたちの姿には気づかなかったようだ。あまりにも想定外の乱入者に虚を突かれたベルルだったが、いったい彼が何をしにここまで下りてきたのか興味が湧いてきた。
「計画変更や、あのアホが何しに来たんか、ちょっと様子を見に行くで、もちろん、安全確認は怠らんようにな」




