45.ミノレ蓑
フィールとエリアが素材屋に入ったとき、丁々発止のやり取りの末に、おまけとして手に入れた緑色の皮。エリアが言うことには、道具屋の主人はその価値をまるで理解していないということだった。そんなことを思い出しながら、フィールはエリアに尋ねる。
「エリア、それは……?」
フィールの疑問に、エリアはちょっといたずらっぽく笑った。
「実は夜にこっそり加工してたの。機会を見てびっくりさせようと思ったんだけど、そうする前にお披露目することになっちゃったわね」
そしてエリアはその皮を掴むと、皮が何層にも別れ、風呂敷のように広がった。それをエリアはひょいと被る。そこからしばらくすると驚くべきことに、背景が透けて見えるようになり、エリアの体が見えなくなった。
「ミノレオンの皮よ。適切に加工すれば魔道具『ミノレ蓑』を作れるわ。あのパーティも気配を消すマントを持ってたけど、それよりもさらに上位の魔道具よ――もっとも、気配は消せないから相手によっては向こうのマントの方がいいでしょうけど」
姿が見えず声だけが聞こえるエリアに、バルイはあんぐりと口を開けた。
「驚いたなぁ……こんなもん、冒険者人生で見たことねぇぞ……ミノレオンは何度も見たことがあるってのによぉ……」
「薄い皮をさらに何層にもスライスできないといけないからね、あたしは『鑑定』でやり方が分かってたからなんとかできたけど、普通にやろうとしたらまず皮をダメにしちゃうわ」
表情も見えないが、エリアが得意がっている表情が伝わってくるような気がして、フィールはちょっとおかしくなってしまった。
「それで、エリアはどうしようと思っているの?」
「この『ミノレ蓑』なら、なんとか三人隠すことが出来るわ。だからフィールを先頭にこれを被って、八十二階層まで駆け降りるってのが、あたしの考えよ」
「なるほど、でもそれなら僕一人でも……」
フィールは二人と一緒に行くことに不安を覚えた。自分一人だけならなんとでもなりそうだが、二人の安全を保障できるほど、三人での探索に慣れているわけではない。そもそもこの大規模作戦の初めに実力をアピールしなかったのも、そういう理由があったからだ。
「駄目よ、この蓑は使い方がちょっとややこしいの。ただ被るだけなら透明になってくれないわ。それに、バルイとどれくらい離れても『育成』の効果が継続するかもわかっていないでしょう?あたしたち二人も、フィールといっしょに行くしかないわ」
「フィール、さっき俺が言ったろう?冒険者は慎重にやるのと、危険にチャレンジするののバランスだって。状況がもう違ってるんだ。王女様は、俺たちが助けに行かなきゃ助からねぇかもしれねぇ、こうお膳立てが整っちまったら、俺はもう危険に飛び込むんでも仕方ねえと思うがねぇ」
二人にそう言われて、フィールもようやく決心がつく。
「――わかった、僕たち三人で、第八十二層にいるレラーナ殿下を助けに行こう!!」




