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35.ソラノサカナ

 次の階層に降りると、いきなりフィールの目の前を猛スピードで動く影があった。


「わっ、なにこれっ!!」


 思わずそんな風に叫ぶフィールを、バルイは愉快そうに眺めた。


「それはソラノサカナと言ってな、高速で飛ぶ魚みたいなモンスターだ。正面衝突すると結構いてぇぞ」


 よくよく目を凝らすと、迷宮の中には何匹ものソラノサカナが飛び交っているようだった。しかし全体が分かるわけではない。動いている間はあまりにも速いので、何匹のソラノサカナが飛び回っているのか、まるでわからないのだ。ただ、宙で少し動きを止めるようなわずかな期間だけ、その存在を認識することが出来る。


「こんな生き物がいるなんて、想像もしていなかったよ」

「迷宮の中は奇妙奇天烈なことだらけだからなぁ、フィールも冒険者を続けるなら、もっと変なものもいくらでも見るようになると思うぞ」

「ま、先のことはいいとして、とりあえずフィールがあのモンスターを狩れるかどうか試してみましょ」


 エリアにそう言われて、改めてフィールは周囲を見渡す。ぶんぶんと音が鳴り、ソラノサカナが飛び回っていることはわかるのだが、捕まえたり倒したりできるのかフィールには皆目見当がつかなかった。とはいえ何もしないままいるわけにもいかないので、適当に腕を振り回してみる。

 するとぐわん、と音が鳴り、フィールの足元に一匹のソラノサカナがぽとん、と落ちた。


「おおっ、やるじゃねーかフィール」


 さらに腕を振り回すと二匹、三匹と落ちてきて、地面の上でバタバタと跳ね回る。どういう仕組みなのかはわからないが、フィールが攻撃することで勝手に相手の方からフィールの攻撃圏内に入って来てくれたようだった。


「フィール、さすがよ……ってきゃぁっ!!!痛ぁっ!!」


 エリアはフィールを称賛しようとしたところで、そんな悲鳴を上げる。何があったのかと彼女の方を見ると、胸のところにソラノサカナが突き刺さっていた。


「エリア!?大丈夫!?」

「だい、じょうぶ、よ……こきゅう、は、できるわ……自分を、『鑑定』、したら、軽傷、って……」


 服と胸に衝撃を吸収されたのだろう、肋骨を折ったり肺にダメージを負ったりはしていなさそうでよかったが、それでもあの速さで胸に突っ込んでこられているわけであり、エリアの様子は見ていて痛々しいものだった。


「エリア、しばらく寝ころんどけ。そいつはとても軽いからあの速さでぶつかってこられても致命傷にはならん。だがまぁ、それでも運が悪かったな。ソラノサカナだって馬鹿じゃないんだから、そんなにぶつかることはないんだが」


 年季の入った冒険者らしく、バルイは落ち着いていた。


「ええ、そうね……だいぶ、落ち着いてきたわ……それに、しても……」


 エリアはそこで、一度大きく息を吸った。


「フィールがいても、横を抜けて、攻撃される、可能性は、あるって、わかった、わね……」


 まだ痛みはあるようで、エリアの言葉が細切れになる。それでもその指摘の意味の重さはフィールにも伝わった。


「あ、そうだね……これじゃあ、敵に囲まれたりしたら二人を守れないかもしれない……」

「確かにそうだな。これからの冒険に課題がでてきやがった」


「それじゃあ、わかったところで、この階層、一度抜けたいんだけど、いいかしら?」

「いいけど、もう動けるのかエリア?」

「しんどいけど、またぶつかられるんじゃないかって、気が気じゃないのよ、さっきから。あ、それから、落ちたソラノサカナは、回収して、おいてね」


 ソラノサカナの利用法をエリアに詳しく聞きたかったが、まだ喋るのもしんどそうなのでそれは後に回しフィールは落ちた三匹を手に取る。

 転送陣まではエリアをフィールとバルイで両側からガードしながら、歩いていった。

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