32.満腹
「あ~食った食った」
「今度こそお腹一杯ね」
「僕ももう食べられないよ」
結局あれから追加で三頭のトロメを倒し、その心臓をみんなで焼いて食べた。あまりのおいしさに、三人ともついつい食べ過ぎてしまった。
「トロメの心臓は、どれくらい持つのかなぁ、ここだけは腐敗しないんだったら、商売にもできそうなもんだけど」
「もう一頭狩ってもらって、試してみましょうか?」
「やってみる?」
そう言うとフィールは近くにいるトロメをがつんと殴る。どこかへ飛んで行かないように上から下へ拳を落とすのは、先ほどまでで学んだやり方だ。そこにエリアがやってきて、すっかり慣れた手つきで心臓を取り出す。
「しばらくトロメ狩りだけで生活できるかもしれないわね」
栄養の問題があるかもしれないが、トロメのおいしさにすっかり心を奪われてしまったフィールはまんざらでもないと思ってしまった。
「いいや、俺は焼き立てのドラゴン肉が食いたい!!フィールの力試しが終わったらドラゴンを狩りに行くぞ!!」
しかしバルイはよほど焼きたてのドラゴン肉を食べたいようで、そんなことを言う。まるで子供のようなだだのこねかたに、フィールとエリアは笑った。
「ま、ドラゴンはともかく、ほかにも掘り出し物があるかもしれないし、もっと下の階層まで潜ってみるのはいいかもしれないわね。フィールの力試しについては……正直もう十分な気もするけど」
エリアはそんなことを言った。フィールが違和感を持ったのは、そんなときだった。
「ねえ、なんだかこのあたり臭くなってない?」
フィールの言葉にエリアとバルイもふんふんと鼻を動かすと、しかめ面をする。
「確かに、なんだこれ……」
「あ!トロメだわ、腐敗がどんどん進んでるのよ!!」
エリアの言葉に改めて周囲を見回すと、フィールが倒したトロメの死骸が何頭も転がっているわけであり、腐りやすいというその性質を併せて鑑みれば、至極当然のことだった。
「どんどん臭くなってくるぞ!!」
「たまらないわ、移動しましょう!!」
そんなわけで、三人は慌ててその場を後にし、次の階層へと降りることにした。
「やれやれ、死骸の処理をうっかりするとは、ひどいポカだぜ」
次の階層に降りて一息ついた一行はようやく悪臭から逃れてほっと溜息を吐いた。
「別のパーティに迷惑をかけないかなぁ、あんな風に放置しちゃって」
「ま、大丈夫だろ。トロメは腐るのも速ぇが腐り落ちるのも速ぇからな、あと数時間もすりゃぁ全部跡形もなくなっちまってるよ」
「へぇぇ……不思議なものだねぇ」
「不思議と言えばこの心臓も不思議よ。あれだけほかの部位は腐りやすかったのに、これだけは全然腐ってないわ」
エリアがさっき手に入れたトロメの心臓を見ながらそんなことを言う。
「今のバルイの話が本当なら、さっきの階にはトロメの心臓ばっかり転がってそうだけど……」
「そういう話は聞かねぇなあ」
バルイは首を傾げた。
「とりあえず、せっかくなのでこの階層を調べましょう。またおいしいものが何か出てくるかもしれないわ」
「おいおい、さっきあんだけ食べたのにまた食べる気かよ。それに、残念だがこの階層にゃ、そういう期待は出来ねーと思うがな……」
バルイの言葉が終わるか終わらないかのうちに、どしん、どしんという物音が聞こえてきた。




