31.トロメの心臓焼き
「おー、一撃で死んでるな……こりゃすげぇ……」
なんとも困った表情を浮かべて、バルイがそう言った。
「えっと、そんなに……?」
恐る恐る尋ねるフィールに、バルイは苦笑いで答える。
「前に俺がこいつを狩ろうとしたときには、剣で切り付けてもすぐに回復してなかなか死んでくれなかったもんだ」
その話を聞いて、急に自分が何か恐ろしい存在になってしまったような気がして、フィールは少し背筋が寒くなった。
「ん……これはすごいわね……」
トロメの死骸を見ていたエリアも、そんなことを言う。
「もう全身が腐敗し始めてしまっているわ、バルイの言った通り……」
「そっちの話かよ!ま、だから言った通りだろう?こいつを食べるのは、諦めるこったなぁ」
「そうね……いや、待って!一か所だけ、腐っていない部位があるみたい!!」
エリアはそう叫ぶと、持っていたナイフでトロメの腹を切り裂く。そして迷いない動きで腹の中をまさぐると、一つの臓器を取り出した。
「トロメの心臓よ!ここだけまだ腐っていないみたい」
「ほぉ……よくまぁ、そんなことに気付けるもんだなぁ……」
エリアが持っていたのは、握りこぶしくらいの大きさの肉の塊だった。エリアに言われてみなければ、心臓なのかどうかもよくわからない。
「早速調理してみましょう」
エリアは楽しそうにそう言うと、ダンジョンの中で火おこしを始めた。
「まったく……俺にはドラゴンの肉もくれよ」
バルイもやれやれと肩を竦めると、その場によっこらしょと腰を下ろす。フィールも二人に従った。
「えっと……二人とも怖くないの?僕はちょっと、あんなに簡単にトロメをやっつけちゃって怖くなっちゃったんだけど……」
恐る恐る、フィールはそう尋ねるが、エリアとバルイはそれが予想外のようだった。
「何言ってるのフィール、仲間がそんなに強いならむしろ頼りになることじゃない!おいしい素材もたくさん手に入れることができるだろうしね」
「そうだぜフィール、冒険者なんだから、自分が強いことに引け目や不安を感じるのはよくねぇよ。仮にそれが、訓練の賜物じゃなくて生まれ持ったよくわからんスキルだったとしてもな、使えるもんはなんでも使うってのが冒険者だぜぇ」
二人にそう言われて、ようやくフィールも胸の中にあるもやもやとした不安が晴れるようだった。
「うん、そうだよね……ありがとう二人とも」
「いいから、それよりさっさと食べちゃいましょう!」
見ればエリアは手際よく、火を起こした上に鉄板を敷いて油まで引いていた。あとは手に持ったトロメの心臓を適当に切り分けて、まとめて鉄板に乗せる。ジュワーっという音とともに、油が肉片から染み出ていき、香ばしい香りが周囲を漂った。
「いい匂い!これは味も期待できるわね」
「まさかトロメを食べることが出来る日がくるとはな、俺もさんざん冒険者をやってきたが、想像すらしてなかったよ。あとドラゴンの肉もくれ」
「はいはい、ここにあるわ」
燻製にされたドラゴンの肉を渡されたバルイは待ちきれんとばかりに頬張る。
「ん!?!?うんめぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!防腐処理してこんなにうめぇってことは、焼きたてとかどんだけだったんだ畜生うらやましいなおい!!!俺も食べたい!!ドラゴン狩り行くぞドラゴン狩り!!!!」
「落ち着いてバルイ。ドラゴンなんてそうそう狩れる相手じゃないんだから」
目の色が変わってしまったバルイをフィールはなんとかなだめる。そうこうするうちにトロメの心臓が焼きあがった。
「多分これでも十分おいしいと思うわよ。SS++だから」
エリアはそう言ってトロメの肉を取り分けてくれる。三人はそれをガブリと頬張った。
「おおおおおおお!!!!これはこれでうめえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
「コリコリして歯ごたえがあって、そしておいしい!!!!!!!!!!!」
「これもこれでちょっと癖になりそう!!!」
三者三様に、トロメの心臓肉に舌鼓を打つ。さっき手に入れた肉は、あっと言う間に鉄板の上から姿を消した。
「ん……ちょっとまだものたんねぇかなぁ……」
「これは、おかわりが欲しいわね……」
バルイとエリアはそう言って、フィールを期待の籠った眼差しで見つめる。
「わかったよ二人とも、ちょっと待ってて」
フィールはそう言うと、周囲にいるトロメを狩りに向かった。




