30.トロメ
石畳の灰色の床が広がるなか、ところどころにスライムの姿が見える。
「一層は歯ごたえがなさすぎるな。二層……いや三層までまずは行ってみっか」
「バルイの考えに従うわ」
スライムなどは無視して、バルイの先導に従い一行は階下へ降りる転送陣の元へ足を運ぶ。二層に降りたと思ったらすぐ隣に三層への転送陣があり、あっという間に目的の階層へとたどり着いた。
「これもある意味罠っぽいわね……二層目指しててうっかりこっちまで落ちちゃう人もいるんじゃない?」
「かもな、だが三層の相手はあいつらだから、まず死ぬことはねぇよ」
バルイがそう言って指さしたのは、ずんぐりむっくりとした足の長い豚のような生き物だった。
「トロメだな。移動速度が圧倒的に遅くて、攻撃力も低い。ただ体力が高くて回復力もあるから、狩るのは難しいっていうモンスターだ」
「初めて見たわね――っ!?このモンスター、肉がおいしいらしいわよ!!」
「いや、おいしいって言ってもこいつら、すぐ腐ることで有名だからな……確かにうまそうに見えなくもないが、チャレンジした奴は全員お腹を壊したぞ」
「あたしに任せなさい!ちゃんと腐敗しているかどうかも鑑定したらわかるから!」
「いやわかるわかんねぇの問題じゃなくて、すぐ腐るから意味ねぇって話をしてんだが……」
「でもエリアがおいしいって言ったものは確かだよ。この前食べたドラゴンの肉も本当に最高だったんだから」
「ドラゴン!?!?おめぇらそんな高級食材を……俺も食べたかった……」
「まだ保存処理して残してあるわよ。昨日あげるつもりだったんだけど、あなた酔って寝ちゃったじゃない」
「なんだよそれなら今早速食わしてくれよ!!俺もう気になって仕方ねぇよ!!」
「こんなところで食べるの?ちょっと気味悪くない?」
「冒険者にとっちゃダンジョンの中の食事なんて日常みてーなもんだ」
フィール達がそんな話をしている間にも、トロメはまったく動こうとしない。我関せずといった風で、カタツムリよりも遅いのではという速度でゆっくりゆっくり移動していた。
「ま、落ち着いてバルイ。あとでドラゴンの肉を食べる時間はいくらでもあるから」
「しょうがねぇ……それなら、先にフィール、トロメと戦ってみてくれ」
「オッケー、それじゃあ、ちょっと試してみる」
このスピードだし、危険も少ないということなので、フィールはそのままトロメに近づいていった。とりあえず剣も使わず、拳で一発殴ってどれくらい効果があるか試してみることにする。長い足のおかげで体高が結構高く、少し威圧感があったがそれでも顔の位置はフィールの胸の高さくらいだ。そのトロメの右頬を、フィールは横から殴りつけた。
グワアアアアアアアアアアンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!
すごい音を立てて、トロメが迷宮の床を転がっていく。その様子を、フィール達三人は茫然と見つめた。
「え……?今の、何?」
「ぼ、僕ただ殴っただけなんだけど……」
「おいおい、アイツら大人の男より重いはずなんだが……」
三人ともそのあとしばらく言葉が続かなかった。やがて、我に返ったバルイが言う。
「お、おいとりあえず様子を見に行くぞ!!」
その言葉に、ほかの二人も呆気に取られていたのがようやく、行動を開始する。三人そろって、倒れているトロメの方へ行くと、開けたところになっていてほかにも数頭のトロメがいたが、このトロメたちも周囲の状況にはてんで無関心なようで、三人は労せずに倒れているトロメのところへ辿り着いた。




