20.ランダム転送
周囲の風景ががらりと変わる。薄暗い光の中に浮かぶのは、血のような不気味な色をした赤い床だった。
「クソっ!!!!まさかイワミタイの下にあんな罠が仕掛けてあるなんて!!!」
バルイが激しく後悔と怒りにまみれた声を上げる。
「誰も知らなかったの?あなた、第二層にはランダム方陣は出ないって」
「ああ!おそらく何十年もあのイワミタイはじっと待ってたんだろうな!まぁ他のイワミタイの下にランダム方陣があったなんて話は聞いたことねーから、ただの偶然かもしれねーが、最悪なのは変わりねえ、畜生!!」
バルイはそう叫ぶと、頭を両腕で抱えて固まった。よく見ると、その手が小刻みに震えている。
「それより、ここはどこなの……?」
バルイの狼狽ぶりに、フィールは恐る恐る尋ねる。灰色の顔をしたバルイが、ゆっくりとフィールの方に顔を向けた。その瞳には生気がまるで宿っていない。
「――床一面、真っ赤だろう?こんなところに、さっきみたいなランダム方陣があったら困っちまうよな、うっかり踏んでしまうかもしれねえ」
バルイは答えを言いたくないかのように、そんなまだるっこしい言い方をした。
「だけどな、聞いたらランダム方陣がないことを呪いたくなってくると思うぜ。なんたってここはほぼ間違いなく――」
そしてバルイは、恐怖に唇を震わせながらも息を吸って、次の言葉をつなげた。
「――この迷宮の第一のボス部屋。腕利きの冒険者が十人は徒党を組まねえと、決して生きては出られねえ部屋だよ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、三人の目の前の床に、真っ黒な文様が描き出された。そこから、まずその魔物の足が、続いて膝、腰、胴体が、順にどこからか転送されて現れてくる。やがて頭のてっぺんまで現れたそれは、フィールが倒したドラゴンよりも一回りも二回りも大きい、ヤギと熊を混ぜ合わせたうえでぐちゃぐちゃにしたような、二足歩行の異形の怪物だった。
迷宮には何階層かに一つ、ボス部屋と呼ばれる階層がある。そこに冒険者が入るとボスと呼ばれる超強力なモンスターが現れ、そのモンスターを殺せば次の階層への転送方陣と地上への転送方陣が現れるが、それ以外にボス部屋を出る方法はないという。
フィールがボスについて知ってる知識は、そのようなものだった。
「クソっ、とにかくお前ら下がってろ!!」
「バルイ!?!?」
バルイがボスの攻撃からフィール達を守るように一歩前に出る。
「バルイ!勝算があるの!?」
「ンなもんあるわけねぇ!だけどな、俺はパーティリーダーで、お前らを見習いとして預かってるんだ!だったらここは、俺があいつを何とかするしかないだろうがぁっ!!」
二人に背中を見せたまま、バルイは誇り高くそう叫ぶ。居酒屋でぐだを巻いていた彼の姿からは信じられないような雄姿だった。
そしてそれを聞いて、エリアは安心したようににっこりと笑い――
――無防備になっているバルイの膝を、後ろから蹴飛ばした。
「がああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!なにしやがんでえっ!!!!!」
まさかのエリアの攻撃に、意味が分からないとバルイは叫ぶ。
「ごめんね手荒なことをして。でもこうでもしないとあなた、そのまま死んじゃいそうだったから。説明の時間もなさそうだったし」
「は!?はぁ!??!???」
「フィール、出番よ。一対一なら――あなたの勝ち」
エリアにそう言われる前に、フィールは既に一歩踏み出していた。二歩、三歩と駆け、エリアとあっけに取られているバルイの前に出る。その瞬間、ボスモンスターはその巨体から鋭利な爪の生えた拳を振り下ろし――それをフィールは、真っ向から受け止めた。




