2.鑑定士エリア
フィールはとぼとぼと街道を歩いていた。ベルルのパーティからは早速放り出され、わずかな持ち物を持って出身の村へ帰るところだった。村を出たときの自分はとても幼く、そして冒険者になるぞという希望に満ち溢れていたのにと思うと、今の自分は心底情けなかった。かといって今更、また新しいパーティに入って見習いをしようという気概もない。フィールにできることは、うじうじとうつむきながら一歩一歩田舎への歩みを進めることだけだった。
そんな歩き方をしていたので、なかなか歩みの先に人がいることに気が付かなかった。この街道は治安のいいことで有名で、明かりさえあれば女性が一人で夜歩くことすらできると言われるほどだったが、それでも周囲を全く気にしないのは決して褒められた行為ではない。だがそれほどまでに、彼は自暴自棄になっていた。
「あなた、そんな風にうつむいて歩いてたら危ないよ」
正面から声をかけられて慌ててフィールは顔を上げた。目の前にいるのは、自分よりも少し年上の女性だった。こんな街道で出会うとは思えないくらいの驚くような美人で、思わずフィールは心臓がどくりと鳴るほどだった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「大丈夫?今にも死んじゃいそうな顔をしてるけど。あたしはエリア。あなたのお名前は?」
「フィール……」
「フィール、いい名前ね」
エリアと名乗った美女はそう言って笑った。太陽のような笑みに、凍てついたフィールの心も少し溶けそうな気になった。
「ありがとう、町でひどい目に遭って、気分が最悪だったんだ」
フィールのその言葉に、エリアは眉を顰める。
「町って、この先にあるガダチャの町よね?あたし、今日の目的地がガダチャなんだけど、治安でも悪いの?」
「ううん、治安自体は普通の町だと思う。個人的なことだよ。僕は冒険者見習いだったんだけど、所属していたパーティにひどい形で切られたんだ」
なぜ初対面の彼女にこんなことを話してしまうんだろう、とフィールは疑問に思った。しかし、エリアにはそんなことでも話してしまえるような魅力があった。そして彼女は、フィールに寄り添う様に悲しそうな顔をした。
「それは災難だったね……」
「ううん、僕の実力もなかったんだよ」
「本当にそうなの?ちょっとあたしに鑑定させてみてよ」
「鑑定……?」
鑑定士、とは非常に限られたスキルであり、他人の能力を調べることができる。将来設計や秘められた才能の発見などに非常に重要な力であり、当然のことながら鑑定を受けることは多くの人々が希望するものだった。しかし残念ながらその絶対数は非常に少なく、こんなところで出会えるとも思えないし、まして無料で鑑定してくれるなどちょっと虫が良すぎる。疑いたくはないものの、フィールは少し疑念を覚えた。なんといっても適当にそれっぽいことを言って鑑定したと主張することもできるのである。エリアが詐欺師じゃなくても、落ち込んだフィールを励ますために嘘をついてあげようと思ったということも十分考えられるのだ。
「もう、その眼は信用してないなぁ。そりゃあ、あたしだって普段はお金取るけどさ、こんな街道のど真ん中で、死んだ魚みたいな目をして歩いてる若者がいたら、ちょっとくらい人助けをしたい気分になったっておかしくはないでしょうに。やれやれ、いいよ、勝手に鑑定するから」
エリアは苦笑すると、フィールの顔に手をかざす。そのまま今度は難しい顔になり何やらぶつぶつと唱え始めた。
「んー、これは、何?戦闘系の……見たことないような……」
よく見ないと気付かないが、エリアの手からは、ほのかに光の粒子のようなものが漂ってくる。鑑定のスキルかどうかはともかくとして、エリアは何かの力を持っているのは確かなようだった。
そして鑑定を終え、エリアは口を開こうとする。
「フィール、あなたは――」
まさにその時、突然巨大な咆哮が二人の耳を切り裂いた。
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!