18.『育成』
「いったい何が起こっているのさ?僕のスキルは『辛勝』じゃなかったの?」
バルイと別れるとすぐに、フィールはエリアに聞いた。
「ふふふっ、そこがあの人のスキルなのよ」
それに対してエリアは、愉快そうに答える。
「――『育成』。それがバルイのスキル。内容は、『自分のパーティメンバーのスキルを強化することができる』というもの。その効果によって、あなたのスキルは『辛勝+』に変化して、雑魚を相手にする場合に限り、ギリギリじゃなく勝つことができるようになっていたってわけ。ちなみに、探索をしている間にスキルは更に伸びて、『辛勝++』になってるわよ。だから明日の二層探索も大丈夫じゃないかしら」
「――それって……かなりすごいスキルなんじゃ……」
「ええ、あなたと同じ大当たりね。本人はこれまでちゃんとした鑑定士に当たったことがなかったんでしょうけど。それに、スキルがスキルだけに、まだあの人に伝えていいのかちょっと迷ってるわ。悪い人ではないと思うけど……それに、いつかはばれちゃうでしょうからね」
「えー、とそれはどういう……?」
「バルイの元パーティメンバー、バルイのスキルによって強化されたのを自分たちの実力だと勘違いして出て行ったんだろうから、遠からずまた元の力に戻っちゃうわよ。そうなったらまたバルイに泣きつくんじゃないかしらね」
エリアのその言葉を聞いて、フィールは自業自得とはいえ、少しバルイの元パーティメンバーを憐れんだ。
「ま、ここ数日で、バルイがあたしたちを見極めるのと同じように、あたしたちもバルイがどういう人かを見極めましょう。もしもスキルを伝えたら危なそうだったら、何も言わずに逃げてしまえばいいわ。もちろん、あたしとしてはバルイと組めると一番嬉しいけど。スキルの相性が抜群だし」
「うん、わかった」
エリアの考えに、フィールも同意した。
「今日はもう一層深くまで潜るぞ」
翌日集合したら、バルイはそんなことを言った。
「昨日の様子だと、フィールもそこまでへっぽこじゃなさそうだからな。二層のモンスターが出てきても、俺もいるから事故にはならんだろう。第二層なら、素材になりそうなモンスターも出てくるから、エリアの鑑定力をそこで見せてもらう」
「あたしは構わないわ。鑑定士の力、見せてあげる」
「僕も問題ないよ」
「オーケー、それじゃあ行くぞ」
二人の同意を確認して、バルイは迷宮の入口に体を向けた。
第二層の探索はフィールも初めてだ。階段でもあるのかと思ったら、そこにあったのは転送用の方陣だった。黄色い五芒星が、第一層の床のある一角に描かれている。
「黄色い五芒星は下層への転送方陣だ。知ってるかもしれねぇが、覚えておくんだぞ。上層への転送方陣は青色の三角形。赤いのはランダム方陣だから踏まないように注意しろ。第二層まではランダム方陣なんてないから大丈夫だと思うけどな」
バルイはそんな風に説明してくれる。フィールとしては教えてもらったことのない知識だったので勉強になった。
三人そろって転送方陣の中に入ると魔法が発動して、すぐに景色が変わる。大小さまざまな岩が並んでいる風景は、鍾乳洞の中のようだった。
「ほら、さっそくおいでなすった」
バルイの言う方向を見ると、暗闇の中に赤く光る眼がいくつも見える。その中の一対が、フィール達のところへ飛び込んできた。
「わっ!!」
暗闇から現れたのは、蜥蜴とネズミの間のようなモンスター。灰色の体、鋭い牙と長い胴体はフィールの肘から先一本分くらいだろうか。
「そいつはガジラジクだ。噛まれたら痛ぇから気をつけろよ!」
バルイにそう言われて、慎重にモンスターの牙の動きをフィールは観察する。不思議なことに、素早い小動物の動きであるにも関わらず、フィールには次にこのモンスターがどう動くか、手に取るようにわかるようだった。
これが強化されたスキルの力か。フィールは昨日と同じようにナイフを振り上げると、慎重に、かつ勢いよくガジラジクの体に振り下ろした。
ギャァァッ!!
苦しそうな声を上げて、ガジラジクが息絶える。遠巻きにフィール達を囲うほかのガジラジクたちの視線が揺らぎ、どうやら先駆けがあっさり負けて動揺しているようだった。
「一発で仕留めたのは偉いぞ、見てみな、奴らすっかり逃げ腰だ。全部狩るんは骨が折れるって前提ができたところで――さて、あのガジラジクだが、10匹に一匹くらい、皮の中に金色の毛が束になって生えている奴がいてな。小遣い稼ぎになるが外れも多いから、たまたまやっつけた奴が金毛のとき以外は普通は狩らねえんだが、もし事前にどれが当たりかわかりゃ話は別だ。エリア、腕前見せてもらうぞ」
バルイはそう言ってエリアに話を向ける。エリアはバルイの視線を受けて不敵にほほ笑んだ。
「ええ、それじゃあ、フィール、まずは一番右の奴から、追いかけてってくれるかしら」




