17.迷宮
見習い手続きを終えた三人は、早速迷宮へと向かう。フィールは簡単なナイフを、自分の武器として携帯することにした。自身のスキルから考えると、持っていてもあまり意味はないかもしれないが……
バルイも腰に一本の剣を差し、すっかり冒険者のいでたちになっている。
「さあ、それじゃあ迷宮に入るぞ。と言っても入り口の手前の手前だけだ。そこでおめぇらの腕前を見せてもらおうじゃないか」
迷宮とは街にあるダンジョンであり、その中に入ると様々なモンスターが跋扈している。モンスターの手強さは迷宮深くに入れば入るほど強くなり、逆に第一層目ではスライムのようなものしか出てこない。
「エリア、スライム相手にも僕の『辛勝』が発動したら逆にバルイの信頼を落とすと思うんだけど、本当にいいの?」
フィールはエリアに小声で尋ねる。エリアも小声で答えた。
「大丈夫よ。すでにバルイのスキルは発動が始まっているわ。後で説明するから、今はとりあえず心配しないで、とだけ」
その言葉に、フィールも腹をくくる。
「どうした、入るぞ」
バルイに促されて、三人は迷宮の中に足を踏み入れた。
薄暗い迷宮の中であるが、第一層ともなれば整備が進んでいて、明かりもそこら中に備え付けられている。ただし出てくるモンスターも雑魚しかいないので、倒してもうまみが少なく、多くのパーティはここを無視してどんどん下の階層へと降りていく。そんな階層の、人気の少ないくぼみに三人は入る。
「ここはモンスターが湧いてくる場所だ。待っていたらスライムが出てくるから、それを倒すところを見せてもらおう」
バルイの言葉に、フィールは嫌な記憶が蘇る。あの時は雑魚スライムなんて一発で倒してパーティメンバーとして認めてもらおうと思ったのに……
暗い気持ちになりそうなのを頭を振って追い払い、フィールは集中した。また手間取ってしまうのではないかと不安になるが、エリアを今は信じるしかない。さほど時間をおかずに、頭上からポタ、ポタと目の前に垂れてくる液体があった。
露かと思わせるそれはしかし、やがてゲル状にぐねぐねと蠢き出す。紛れもないスライムだった。粘度の高い体をくねらせながら、スライムがフィールの顔目掛け襲い掛かってくる。
「わっ!」
見たことがあるとはいえ、慣れないモンスターの攻撃に、フィールは手元に持っていたナイフを横薙ぎに切り払う。そして第二の攻撃に備えようとしたところで――
――キイン
ガラスの球が割れるような音がして、スライムは雲散霧消した。
「――へ?」
ほかならぬフィール自身が、一番間抜けな声を出す。
「――ふうん、まずまずってところだな」
「ええ、あたしの言った通りでしょう?」
エリアのその言葉はどちらに向けて発したものだったか。つい先日はあんなに苦戦したスライムに対して、フィールは一発で葬ってしまった。
「ま、もう少し見てみっか。次は二匹出てるぞ」
バルイの言葉に目をやると、確かにまたスライムが二匹湧き出てきている。フィールはナイフを構え、今度は自分から切りかけた。
――キイン、キイン
これまたそれぞれ一撃でただの水にしてしまう。フィールは夢でも見ているような気分になった。
「まあ、悪くはなさそうだな。お嬢ちゃんはやらねえのか?」
「言ってなかったっけ?あたしは鑑定士なの」
「鑑定士だぁ?随分胡散臭そうな職業じゃねーか。半分くらいそれを名乗る奴はただの詐欺師だって噂だぜ。俺が信頼している鑑定士は田舎の村にいたガーズリー婆ちゃんだけだ」
「ええ、そうね。でも素材になりそうなモンスターが出てくれば、あたしも自分の力を証明できると思うわよ」
「ふん、それなら明日以降だな。俺にこの道を進めてくれたガーズリー婆ちゃんほどの鑑定士がいるとは思えねえが、まあ見せてもらおうか」
二人はそんなことをしゃべっている。フィールはまだ何が起こっているのかわからないが、どうやら今の自分はスライムくらいなら簡単に倒せるようになっているらしい。たった一日や二日で劇的に強くなるわけがないから、おそらくはこれこそがエリアの言っていたバルイのスキルと関係しているのだろう。
結局その後もスライムを何体か倒したところで、その日の冒険はお開きになった。
「フィールは見習いとしては合格レベルだな、だがエリアをどうするか考えないといけねぇし、明日はもう一層深くまで潜るか」
バルイはそうまとめて、また明日ここに集まることになった。




