14.酔っ払い
「チックショー!バガーニンの野郎も、グエリーもケリーケも、みんなみんな迷宮のモンスターに食われちまえばいいんだ!」
一つ席を開けた隣でぐだを巻いていた一人の男が、急に大きな声を上げてフィールは思わずそちらを振り返った。酒が回っている中年の冒険者のとろんとした目と、フィールの目が合ってしまう。
「おい、そこのガキンチョ、ちょっと聞いてくれよぉ!俺、俺、おげええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
酒を飲みすぎたのか、フィールの肩に腕を回しながらそのまま吐きそうになる男の手から慌ててフィールは逃れる。吐しゃ物が散らばるが、フィールは間一髪避けることが出来た。しかしフィールのその態度が男は気に食わなかったようで、怒りの籠った目でフィールの方を睨みつけてくる。
「おげっ、げっ、おいガキンチョ!俺から逃げるとはどういう了見でぃぃ!!」
「いや、ちょっと落ち着いてください。飲みすぎですよ」
フィールはそうたしなめるが、男の耳には届かない。
「チクショー!あいつらだってそうだ!お前だってそうだ!みんなみんな俺から逃げていくんだ俺なんてなんのとりえもないと思ってるんだチクショー!!!!コノヤロー!!!腐ったトロメみてーな面しやがって!!!ゲルゲロ島の下峠野郎!!!!」
わけのわからないことをそんな風に叫びながら、男はつかみかかってくる。正面から来られ交わすこともできず、フィールは咄嗟に男の手を掴んだ。
「ニャロー!やろうってんだなガキの癖しやがって!!見てろよこのバルイ、オポッサムボポッサムのハイエナと呼ばれた男の力を見せてやるぜ!!」
そう言いながら男――バルイが名前だろうか――は両腕に力を込めると、フィールの体を強引に押し倒そうとする。しかしフィールは圧力を感じるものの、それ以上のことはなかった。
「コノヤロッ、生意気に抵抗しやがって!!ならこれでどうだ!」
酔っているとはいえ、それなりの年季の入った冒険者ということか、最初の攻撃が不発と分かると、すぐさま今度は足を払いにくる。泥臭くなんでもやってくるあたりが場慣れを感じさせる攻撃だ。フィールはそれに足を取られるものの、残り一本で何とか耐え、払われた足をすぐさま床に下し事なきを得る。
「なんだ、てめぇ……?体幹もてんでぐらぐらなのに、なんで今ので倒れねーんだ……?」
ここに至って、バルイもようやくフィールの奇妙さに気づいたようである。不思議なものを見るような目でフィールのことを舐めるように睨んだ。
「まあいい、なんにせよ、冒険者パーティ、『牛鍋のセロリ』のリーダーたるこのバルイ様を舐めた報いは受けてもらうからなああああああっ!!!」
バルイはそう叫ぶと再びフィールの体を引っ張って、強引に引きずり倒そうとする。フィールはもんどりうちながら、なんとか逆にバルイの体を引っ張ると、バルイも一緒になって倒れた。
「畜生っ!この間抜けカカシ野郎っ!おとなしくしやがれっ!」
「それはこっちの台詞ですっ、店の中ですよいい加減にしてくださいっ!」
フィールとバルイはそんなことを叫びながらお互いの体を組み伏せようとぐるぐると店内を転がる。マスターはといえば、酒場の小競り合いなどよくあることなのか、呆れたように肩をすくめながらその顛末を見守っていた。
「クソっ!なにしやがるっ!どきやがれっ!」
「そっちこそいい加減にしてくださいっ!」
そして最後に相手を抑え込んだのはフィールだった。バルイはフィールのしたでじたばたともがくが、フィールは全身を使って何とかバルイの動きを封じることができた。そして、
「フィール、さすがね。お疲れさま」
成り行きを見守っていたエリアはここぞとばかりに、コップにたぷたぷと溜めた水をバルイの頭にぶちまけた。




