13.酒場
素材屋から歩いて五分ほどの位置に、冒険者御用達の酒場がある。昼だというのに、今日の仕事がない冒険者や、一山当ててきた冒険者ばかりで賑わっていた。
「わかってると思うけど、金貨はあんまり見せちゃだめよ。変なのに目をつけられたら困るから。支払いのときは私が銀貨や銅貨に両替してあげるからね」
エリアに囁かれ、こくりと頷く。今までも入ったことのある酒場だったが、なまじ大金を手にすると急に怖い場所のように思えてきた。
「らっしゃい、お、見習いのフィールじゃねぇか、今日はお使いの帰りか?」
「ま、まあそんなところ……」
酒場のマスターは頭の禿げあがった陽気な男だ。彼もまだ、フィールがクビになったことは知らないらしい。
「しかも別嬪さんと一緒とは、お前もなかなか隅に置けねーな」
「ははっ……」
フィールは笑ってごまかし、空いている席に座った。隣にエリアが腰掛ける。
「何かおいしいもの作ってよ。今日はちょっとお小遣いが多いんだ」
「ほいよ、そいじゃちょっと待ってな」
マスターは慣れた手つきで、手元にあった肉を切り刻んでいく。野菜とスパイスを一緒に入れて煮込むと、すぐに鍋の方からおいしそうな匂いが漂ってきた。
ドラゴンの肉は素材そのものだけで勝負できるおいしさであるが、酒場の料理はマスターの腕前が全て込められる料理である。そしてフィールがよく知っていることは、このマスターは場末の町の酒場にいるにはもったいないほどの腕前の持ち主であるということだった。
「!?なにこれ美味しい!? ドラゴンの肉にも引けを取らないくらい!」
「なんだお嬢ちゃん、ドラゴンの肉なんて高級品を食べたことがあるのかい?」
「え、ええ……そうよ、昔、商人だった祖父のおかげで、一度だけね」
煮込み料理を一口食べたエリアがそんなことを叫んでしまう。フィールに余計なことを言うなと注意していた手前、少しバツが悪そうだったが、とはいえ失言のフォローも慣れたものだった。
「そうかい、そんな思い出の料理と比べてもらえるなら料理人冥利に尽きるってもんだな。ま、俺はずっとここにいるから、まだこの町にいるならいつでも食べに来ればいい」
「ええ、そうさせてもらうわ。しかし、まさかこんな店がこんな町にあるなんて……」
エリアは信じられないような表情で、出された料理を一心に食べる。この店に連れてきたのは正解だったと思いながら、フィールもまたマスターの絶品料理を楽しんだ。
「マスター、何か別のもの作って、今度はさっぱりしたものがいいわ」
「マスター、僕もよろしく。あとアルコールの入ってない飲み物も」
「おいおい、ちゃんと金はあるんだろうな」
「先に払ってもいいわよ、いくらかしら」
「ちょ、エリア金貨は見せちゃだめってさっき……」
「この料理に銀貨や銅貨を出すことこそ失礼だわ」
「なんだお嬢ちゃんお金持ちか?銀貨一枚ありゃ十分だ。疑って悪かったな」
「銀貨一枚!?!?!?!?フィールおかしいんじゃないのこのお店!?」
「僕はあまりほかの町の酒場とか知らないからなんとも言えないんだけど……やっぱりここのマスターの料理って他と比べてもいいものなの?」
「いいってもんじゃないわよ、マスター、あなたいったい何者なのかしら」
「ただの酒場の店主だよ。ほれ、できたぞ、サラダにジュースだ」
「これもおいしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!!!!!」
そんなことを言いながら食事をしていたら、すっかりフィールもエリアも腹が膨らんでしまった。
「うう……苦しい……もうだめだわ……」
「僕も、食べすぎたかも……でもおいしかった……」
二人して、机の上に突っ伏しながら腹をさする。
近くに座っていた男が急に叫びだしたのは、まさにそんなときだった。




