12.一息
素材屋から外に出て、一歩息を吐く。日の光がさんさんとフィールに降り注ぎ、周囲にはいつも見かけるように冒険者たちが歩いていて、何ら普段と違わない景色のようだったが、フィールにとってはまるで世界が違ってしまったかのようだった。これまで見たことのないようなエリアと店主の息詰まる攻防と、手にした金貨300枚という大金。改めてそのことを意識すると、フィールはすっかり興奮して、のぼせ上ってしまった。
「エリア、すごいね!金貨300枚だなんて!!」
叫ぶようにそう言うフィールに、数人の通行人が思わず振り返る。そしてエリアは呆れたように首を振って、人差し指を口に当てた。
「フィール、大声でそんなこと言わないの。変な奴に目をつけられたらどうするの。こういうところは、いい人ばっかりいるわけじゃないんだから」
そう言われてフィールは慌てて口を両手で抑えた。急にすれ違う人すれ違う人が自分の財布を狙っているように見えて、怖くなってくる。いったいさっきの自分の失言で、何人の人に大金を持っていることがばれてしまっただろう。
「ご、ごめん……」
「ま、いいわ。ここはまだ安全みたいだし。でもちゃんと肝に銘じておいてよね」
「う、うん……まさか金貨300枚なんて想像すらしてなくて……思わず」
今度はフィールもちゃんと声を潜めて、金額の話を口にする。しかしエリアはまた、呆れたように肩をすくめた。
「何を言ってるの。どう低く見積もっても400では売れる代物よ、あれは」
「えっ、そんなに……」
「フィールは冒険者としての経験が少なすぎるわ。高額な取引にも慣れていかないと、いくらでも相手にぼられてしまうわよ」
「でも、それならなんで……?」
エリアは300枚とおまけの素材で手を打った。取引に合意した理由を問うと、エリアはいたずらっぽく笑ってフィールに先ほどおまけでもらった素材を見せた。緑色の光沢のある皮はじっくりと見てもフィールには見覚えのないようなもので、金貨50枚と言われてもさっぱりわからない。しかしエリアは更に衝撃的なことを言った。
「これ、あの店主は金貨50枚くらいで売ってたみたいだけど、そんなものじゃないの。金貨100枚でもおつりがたらふく出る素晴らしい素材。間抜けな店主はそれに気づかなかったから、うまいこと頂戴したってわけ。ドラゴンの取引を終えてから買い取ることも考えたけど、こっちだけ丸儲けするのもちょっと可哀想かなとわいそうかなと思ってね、お互い得した気分で終わるようにしてあげたの」
「な、なるほど……」
エリアは抜け目なく店内の品を鑑定していたのだろう。その手腕にフィールは感心した。
「それじゃあ、次はどこに行こうかしら。あの店主くらい間抜けな店主がほかにもいるなら、店を回るだけで一儲けできるかもしれないわよ」
「それもいいけど、お腹空かない?二人の交渉を見てたらそれだけでお腹が減ったよ。今のお金で何か食べない?」
「これはフィールの取り分だから、フィールがいいならそうしましょう」
「……さっきの交渉力見せつけられたあとだと、何か素直に受け取るのも怖いな……」
「ま、フィールは命の恩人だしね。それに、この先はちゃんと分け前をもらうわ。これは仲間になってくれるお礼」
「……そううまくいくといいけど。ま、エリアがそう言ってくれるなら、ありがたく。もちろん昼食はおごるよ」
「ありがとっ!」
そんなことを言いながら、二人は酒場へと向かった。




