11.交渉
「金貨100枚?あなた、フィールのことを馬鹿にしているのかしら?それとも本当に目利きのできない素人さん?」
その挑発的な言い方に、店主はエリアを睨みつけ、低い声で脅すように答える。
「なんだいお嬢ちゃん?俺はもう四十年もここで店をやっているんだ、その俺を言うに事欠いて素人だって?」
「素人じゃなきゃ、相当あくどいのね。これを金貨100枚だなんて、今時サルでもひっかからないわよ?」
「おい、その減らず口を今すぐ閉じろ。さもなきゃこの店からたたき出すぞ。もちろん買取もなしだ」
「使えないカードは見せるべきじゃないわよ。やれるものなら今すぐたたき出してみなさい」
一気にヒートアップした二人の様子を、フィールは呆気に取られて見ていた。もう少し小さいころだったら、こんな店主を見たらそれだけでちびってしまっていたかもしれない。しかしそんな店主相手に、エリアは一歩も引いていなかった。そして先に一歩譲ったのは、店主の方だった。不機嫌そうな顔をしながら、こう呟く。
「……いいだろう、200出す。それ以上は銅貨一枚も無理だ」
「古い手ね。それで引き下がると思っているのかしら?」
しかしエリアは追撃の手を緩めない。
「……俺はこの見習いと交渉しているつもりだったんだがな。まあいい、それならお嬢ちゃん、あんたはいくら出せって言うんだ?」
「金貨1000枚よ。決まっているでしょう?」
桁が一つ大きくなってしまって、もうフィールには想像できない額が飛び出た。
「エ、エリア、その……」
「フィール、あなたは黙ってて、この店主にぼろ儲けさせてあげる義理はなにもないんでしょう?」
「おいおい、俺とそのガキはただの他人だが、1000枚ってのはいくらなんでも横暴だぜ」
「なら800にまけてあげるわ」
「お嬢ちゃんこそ古い手を使う。800でもさすがにない額だ。250、これが最後だ」
「――700」
「……300」
「――650」
「300だっつってんだろ、いい加減にしろお嬢ちゃん」
「600が限界よ。それで買ってくれないならほかの店を探すわ」
二人はしばし睨みあう。まるでバチバチと火花が飛んでいるように見えて、フィールは二人の交渉の行く先をはらはらとしながら見守った。
やがて、エリアがふと目をそらし、そこに置いてあった皮をひょいと掴む。緑色のぎらぎらと光沢のある皮で、金貨50枚の値札がかかっていた。
「しょうがないわね。じゃあ、この素材と300ならいいわよ」
それを聞いて、店主の眼の色がきらりと光った。
「しょうがねーな、嬢ちゃんにゃかなわねーよ、それも一緒に持ってけ」
口では悔しそうにそう言いながら、金貨を追加でじゃらりとテーブルの上に乗せる。エリアはそれを丁寧に数えた。金貨がキラキラと通りから入ってくる光を反射して、その光を見つめているだけでフィールは頭がぼうっとしてしまいそうになる。しかしエリアは冷静なもので、表情一つ変えずに金貨を最後まで数え切った。
「確かに本物の金貨300枚ね」
「おいおい、いくら何でも疑いすぎだろう」
「それくらいしてもいいでしょう?最初に金貨100枚なんて吹っ掛けてくる相手には」
それを聞いて店主はやれやれと肩をすくめた。エリアはフィールに向かってにっこりと笑いかける。
「フィール、これにて交渉成立にしていいかしら?」
「あ、うん、もちろん……」
もともと金貨100枚でも信じられなかったのだ、金貨300枚におまけもついてきて、文句の出るはずもない。フィールはこの大取引を目の当たりにして、まだ心臓がドキドキドキドキと鳴っていた。
「それじゃ、出ましょうか」
「また何かあれば持ってきな」
最後にそう言ってにやりと笑う店主を後に残し、フィールとエリアは素材屋を後にした。




