10.素材屋
顔に複数の傷がある威圧感の塊のような男がいれば、年端もいかない少年が重そうに荷物を抱えてよっこらせっこら歩いている。そんな通りを、フィールとエリアは歩いていた。
「あそこにあるのは武器屋、あっちが薬草屋だよ。あれは酒場」
「このあたりに全部そろってるのね。あとで覗いてみましょう。もしかしたらあたしの鑑定
で、何か掘り出し物を見つけることができるかもしれないわ」
二人が歩いているのはガダチャの町の冒険者御用達の通りである。フィールはエリアにそれぞれ何の店かを紹介しながら、素材屋へと向かった。
ガダチャの町の素材屋は、何度かお使いで行かされていたこともあってフィールにとっては比較的なじみのある場所だった。薄暗い中に奇妙なモンスターの皮だの牙だの尻尾だの、ネバっとした変な光沢のある木の葉だのと置いてある店はあまり気分のいいところではないが、そうも言ってられないのでエリアと二人で店に入る。エリアはエリアで、興味深そうに置いてある素材を眺めていた。店の中のテーブルの前に座っている店主は――このあたりの店の店主はだいたいそうなのだが――気難しい顔をした初老の男であり、フィールはこの店主と話すたびに圧迫感を覚えていた。
「すみません、これ、買い取ってもらっていいですか?」
フィールが持ってきたドラゴンの一部をテーブルに置きながら声をかけると、店主は年季の入った眼鏡をくいっと上げてフィールの顔をじろりと眺めた。
「おめぇさんは確か……ベルルのパーティの見習いか。今日は何を……」
言いかけて、フィールがテーブルに置いたものを見て目の色が少し変わる。
「……ドラゴンの死骸から、一番いいとこだけ剥いできましたって感じの品ぞろえだな。しかもこいつは迷宮の中に出る奴じゃねぇ、人里離れた山の中や、モンスターの多い平地なんかで出るドラゴンじゃねぇか、ベルルたちの獲物には入ってこねぇはずだが、あいつら旅人の護衛でも始めたのか?それとも……そもそもお前、そろそろお払い箱になる年齢じゃ……」
そこまで言って、店主は少しばつの悪そうな顔をする。どうやらこの店主もベルルの悪いところは知っていたようで、それでいてフィールには何も教えてはくれていなかった。
「パーティはクビになりましたよ。だけど運よくこれを手に入れましてね、それにあなたにとっちゃ誰がこれを持ってきたかなんてあまり関係ないでしょう?そんなことはいいから、査定してくださいよ」
少し思うところはあるが、その件に関しては付き合いもあるだろうし、フィールは店主を追及するのはやめておく。あまりこちらの事情を喋りたくもないし、とっとと用だけ済ませてこんなところはおさらばしたかった。
店主はフィールを見て、エリアを見て、もう一度フィールを見て鼻をふん、と鳴らす。そして店の奥に引っ込むと、金貨の束を持って来てフィールの前にどん、と置いた。
「金貨100枚だ。それでなら買い取ってやってもいいぞ」
「金貨100枚!?」
今まで金貨とは縁がなかったフィールにとって100枚とは聞いたこともないような大金である。ベルルのパーティも、それほど高価なものを扱うときにはフィールを使いにやることなどなかったので、文字通り生まれて初めて見るような大金だ。心臓が早鐘を打ち、思わず興奮して二つ返事で承諾しようとした、まさにそのとき、フィールの手をエリアが優しく抑えた。彼女はそのまま店主に向き合うと、挑発的にほほ笑む。
「金貨100枚?あなた、フィールのことを馬鹿にしているのかしら?それとも本当に目利きのできない素人さん?」




