01
「……疲れた…」
まぶたが重力に屈すると同時にナナホは眠りの淵に落ちる。
揺れる輸送車両のシート、寝付きのいいイチカとハルノは既に寝息を立てている。
キリカもチームリーダーのチカモもウトウト揺られる。
ミハネは静かに目を閉じているが、起きているのかもしれない。
「ヴァイキン」の殲滅作戦が終わり、撤収する時の車内はいつもこうだ。少しの移動時間であっても休養したい。またいつ戦闘になるか分からないのだから。
「すまない、みんな起きてくれ。緊急の仕事が入った」
運転席の男の声がスピーカーから響く。
感染防止のため前列の運転席と助手席は6人のナースたちが乗る後部の搭乗スペースと強化ガラスで間仕切られている。
「またか」
うんざりとした空気が流れ皆が目を開く。すぐにリーダーのチカモがそれをかき消して引き締めるように鋭く答える。「了解です!」
「ふわぁ~~残業はもぉお腹いっぱいだよ~~」
大あくびを混ぜながらイチカ伸びる。
「チッ、キリがない」
ナナホの機嫌が悪いのは、決して急な任務で眠りを妨げられたからではない。
「どこからの依頼ですか?」
キリカがマイク越しに問う。
「ネット通報だ。」
答えたスピーカーの若い声は助手席の男だ。
「個人か…ポイント低いな。保健所とか地方公共団体の依頼じゃなきゃ残業の割に合わないな」
キリカが眉をひそめる。
「規模は?」
表情を変えずにミハネが問う。
「確認されてるのは1体らしいけど、一般人の書き込み通報だからあてにはならないなぁ」
申し訳なさそうに助手席の男が答えた。
「1体でも複数だとしても、ネット通報を本部が拾い上げたという事はクラスターになる恐れがあると判断したはず。締まっていきましょう!」
真面目なリーダーチカモが鼓舞する。
「ナナホ、バッテリーは?」
「まだ大丈夫」
チカモの確認にナナホが答える。ナナホが使用する武器は強力な分、電力消費が大きい。
「ハルノも消毒剤の残量に注意してね」
まだ眠そうなハルノにチカモが声を掛ける。
無口なハルノは黙って小さく頷き答える。
ナースたちが準備を進める中、輸送車両は目的地の繁華街へ進む。
現在21時。
「…ねぇ、ミハネ」
ナナホが急に思い立ったように声を掛けた。
ミハネは視線だけ向ける。
何かを警戒したのか、まだ残量は十分だと答えたバックパックのバッテリーカートリッジを急にスペアと入れ替えだしたナナホ。
「これって…もしかして第二波が来てる?」