11.得意錬金はパン作りです
最終話です!
なんとか全ての納品分の作業を終えることができました。
実質一日で二週間分を作ったんですからさすがに疲れましたね。
あとはお渡しするだけなんですけどいつになるんでしょう?
マリンが帰ってくるのは四日後ですからまだ余裕はありますけど。
師匠は今日も一日中どこかへお出かけしてたようです。
相当歩いたようで帰ってくるなりソファに寝転がってしまいました。
結局どこへ引っ越すのかはまだ聞いていません。
師匠も急なことで悩んでいるのかもしれませんし。
「あ、そうだカトレア、いい機会だから卒業の証に渡しておくものがあるわ。はいこれ」
そういえば私、弟子を卒業したことになってるんでしたね……。
「……これは師匠が昔から持ってる袋ですよね?」
「そうよ。あなたとマリン以外はこの袋の存在を知らないわ。といっても今ではあなたが作る袋のほうが数段性能はいいんだけどね」
おかしいと思ってたんです。
なんで私が作った袋の販売権利が師匠じゃなくて私だったのか。
その袋の存在を公にしていないのは知っていましたが、作らないだけで権利だけはとっくに師匠が持ってるものと思ってましたからね。
「もしかして師匠にとって大事なものなんじゃないですか?」
「そうね。でもこの袋はあなたに持っていてほしいから。あなたが私の元を離れるときにはこれを渡そうとずっと決めてたの。離れるわけじゃないけどまぁ今でいいでしょ」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「……これを作ったのはあなたの母親だからね」
「えっ!? そうなんですか!?」
「えぇ。だからあなたにとっては形見みたいなものなのよ」
お母さんがこの袋を……。
でも師匠にとっても大事なものを本当に私がいただいてもいいのでしょうか。
……いえ、私が持っておくべきですよね。
「ありがとうございます。一生大事にします。お返しに師匠にはこれを受け取ってほしいです」
「……いいの? あなたが作った最初の袋なんでしょ? しかも一番出来のいいやつなんでしょ?」
「もちろんです。私は師匠に認めてもらいたくてこの袋を作ったんですから。それに実は二番目に作った袋のほうが少しだけ性能がいいんですよ……」
「ふふっ、じゃあ遠慮なくもらっておくわね。私も一生大事にするからね」
師匠に使ってもらえることが素直に嬉しいです。
今度マリンにも……いえ、マリンには自分で作れるようになってもらいましょう。
「そういえばマリンの入学は取り消せたんですか?」
「うん。かなり渋ってたけどね。せめてマリンさんだけでもここに残ることはできないのですか? 私の家に住んでもいいんですよ? だってさ」
ミランダ先生のマネです。
「でもマリンには聞かなくてよかったんでしょうか?」
「あの子が専門学校に行きたいって言うと思う?」
「いえ。お友達と離れるのがツラいと言うとは思いますが」
「そうかしら? あの子、結構ドライよ? 好奇心旺盛だし、私とあなたがいるならどこへだって行くって言うわよ」
そんなものなんですかね。
私とは違ってマリンは友達も多いでしょうから寂しがると思うんですけど。
「いつここを出ますか?」
「明日よ」
「明日ですか!?」
「えぇ。昼一番に出ましょう」
引っ越すことを決めたのはまだ昨日なんですよ?
納品もまだしてないですし。
引っ越し準備もしないといけません。
「でもマリンはどうするんですか?」
「え? マリンのことがあるから明日なのよ」
ん?
どういうことでしょうか?
マリンから明日帰ってくるって連絡があったんですかね?
最近ピピちゃんはお見かけしてませんが……。
それになんでこんなに急いで引っ越しする必要があるんでしょうか。
錬金術師ギルドとも円満にお別れできるのなら焦る必要もないと思うんですけど。
まぁ師匠は思い立ったらすぐ実行する性格だから仕方ないですよね。
一応ロイス君たちにも知らせておきましょうか。
マリンが帰ってくるときにはきっとピピちゃんがいっしょに来てくれるはずです。
そのときにお手紙をお渡ししましょう。
……でもよく考えると明日ってまだ3月31日ですよ?
地下四階オープンはてっきり4月1日と思ってましたけど違うんですか?
マリンが予定より早く帰ってくるということはもうオープンしたってことですよね?
それならララちゃんたちはかなりギリギリのタイミングで王都の魔工ダンジョンを討伐しにきてたことになりますよ?
そこまでしなきゃいけないほど魔力に余裕がなかったんでしょうか……。
「カトレア!」
「え……はい?」
「またあなたは……。会話の途中に考え事されるとこっちはどうしていいかわからないじゃないの」
「あ、すみません」
「はぁ~。マリンが帰ってくるのを待つわけにはいかないでしょ」
ん?
マリンは帰ってこないんですか?
ならさっき私が考えたことはなかったことになりますね……。
「ではマリンを待たずに先に私たちだけで引っ越しをするんですか? そして四日後にまた迎えにくるんですか?」
「あなた、いったいどこに引っ越すと思ってるのよ……」
「どこって……他の国ですよね? 船に乗ってこの大陸から離れるんですよね? これからはのんびりスローライフを送るんですよね? 野菜を育てたりしますか?」
「なんでそうなるのよ……。凄い想像力ね……いえ、そこまでいくと妄想だわ」
違うんですか?
ならこの大陸からは出ないということですよね?
となるとマリンの故郷のノースルアンの町に行く可能性もありますね。
「とにかく明日の朝に取引先のみんなが来ることになってるから納品対応頼むわよ? これだけ袋があれば家の中の物は全部入るわよね? 今からやりましょうか。昼一番の馬車に乗らないと明後日の夜に着けないからね。そうなるとマリンと行き違いになってしまう可能性が出てくるわ」
「え……マリンと行き違い? …………もしかして……」
「私たちが行くところなんてそこしかないじゃない」
「師匠……」
それはつまりそういうことですよね!?
こんなに嬉しいことがあっていいのでしょうか。
私の願いが全部叶いそうです。
今まで暮らしてきた王都には申し訳ないですが心残りは全くありません。
「あ、でもこれからもクロワッサンとチーズ蒸しパンは常に作っておきなさいよ? 毎日は食べないとしてもあると安心感が全然違うんだから。それにあなたが作るパンは世界で一番美味しいんだからね」
「……はい、わかりました」
私もたまになら食べてもいいかもしれません。
どうせなら冒険者のみなさんにも食べていただきましょうか。
……私、今パン作り以上に得意な錬金がいっぱいありますよね?
たった一年でここまで変われるなんて。
でもこれからもあえて得意錬金はと聞かれたらパン作りですと言い続けましょう。
謙遜してるくらいが一番カッコよさそうですから。
これにて完結となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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続きというわけではありませんがその後が気になると思われた方は『俺の天職はダンジョン管理人らしい』をお読みください。




