3.水晶玉を見てみます
魔王が復活したとの仮説を立ててから数日、ようやく続報が入ってきました。
マルセールからだとただでさえ一日以上遅れがありますからね。
ここ王都パルドではダンジョンの件について全く話題になっていません。
最初こそ緊急に冒険者ギルドで会議を開いたものの、出現したダンジョンの規模が小さすぎたこと、十一歳の少女からの調査報告ということで情報の信憑性が低いためです。
しかもそれ以来ダンジョンが出現していないことで増々疑念を持たれています。
魔王という確証がない以上、師匠がなにか意見を言えるわけでもないですしね。
ただなにもせずにジッとしているのは嫌だったので師匠に頼んでマルセールの町長宛てに手紙を出してもらいました。
内容は最初のダンジョンで発見された水晶玉を譲ってほしいというものです。
調べることでなにかわかるかもしれませんからね。
ですが今日入ってきた続報はそれではありません。
また新たにダンジョンが発見されたらしいんです。
しかも同時に二つも、またマルセール周辺に。
できることならダンジョンの中が見てみたいです。
でも今はおとなしくロイス君たちの調査結果待ちをするとしましょう。
私と師匠は作業部屋で黙ってそれぞれの研究を続けています。
「師匠、マリンは錬金術専門学校に行く意味があるんでしょうか?」
「……人間形成の場と思えばいいんじゃない?」
すぐに答えてくれたということは師匠もそこまで研究に集中できてないということです。
「でもそのためだけに三年間も通うのはマリンにはツラいと思います。私もそうだったからわかるんですが、マリンもきっとここで早く師匠といっしょに働きたいと思ってるはずです」
「……」
せめてなにか錬金術で学べることがあればいいんですけど。
マリンは師匠と私を見て錬金を覚えていってるんですから今更学校で学ぶことはほとんどないんです。
それこそ人間形成の場と思うしかありませんね。
「ん? 店先からなにか聞こえない?」
「え? ……本当ですね。ちょっと見てきます」
やはり師匠は集中できてないようです。
いつもならこんな小さな音を気にはしないですから。
「……あっ! ピピちゃん!?」
店の入り口のドアをピピちゃんがくちばしで突いてた音だったようです!
「すぐ開けますからね!」
急いでドアを開けました。
するとピピちゃんは嬉しそうに胸に飛び込んできました。
「チュリ!」
「いらっしゃいピピちゃん。また遊びに来てくれたんですか?」
「チュリリ!」
「え? ……あっ! この袋は!? ……もしかしてピピちゃん?」
「チュリ!」
ピピちゃんは私が毎日作ってる袋を首に提げていました。
ロイス君に渡した袋ではありません。
ということはこの間送った手紙に同封したあの袋なのでしょう。
「師匠! ピピちゃんが袋を持ってきてくれました!」
「あらピピ、よく来たわね。ゆっくりしてって。食材を届けに来てくれたの?」
「違いますよ! マルセール町長宛てに送ったあの袋です! 早く中身を見てください!」
「えっ!? それを早く言いなさいよ!」
師匠は私から袋を奪い、すぐに中身を確認します。
「……あったわ! ん? 手紙も入ってるわね。先に見てていいわよ」
水晶玉を受け取りました。
……確かに大樹のダンジョンの水晶玉とそっくりですね。
もしかして操作できたりするのでしょうか?
少し魔力を込めてみましょう。
「……あっ!」
「なにっ!? どうしたのよ!?」
「……いえ、中が少し見えたような気がしたもので。気のせいのようです」
「そう。実は私あまり触ったことないのよね。それより追記の情報よ。昨日の午後にさらに二つダンジョンが出現したらしいわ。しかも場所が少しずつ王都に近付いてきてるらしいわよ」
つまり現在四つもダンジョンが出現してるということですか……。
「ピピちゃんが手紙を受け取ったのは数時間前ですか?」
「チュリ!」
「それなら昨日はダンジョン討伐が行われていないということになりますよね?」
「チュリリ!」
やはりそうみたいです。
すぐに討伐しなかった理由がおありなのでしょう。
「四つともロイス君が任されてるんですか?」
「チュリ!」
「そうですか。ということはなにか実験的なことを行ってるんですかね?」
「チュリ! チュリリ!」
「ふむふむ。討伐できないわけじゃないということですね?」
「チュリ!」
実際にその場にいられないことがこんなにもどかしいことだとは思ってもみませんでした。
でもピピちゃんが来てくれて良かったです。
「ねぇ……やっぱりあなた完全にピピと話が通じてるわよね……」
「疑問文を投げかけて表情を見ているだけです。返事の声だけでわかるときもありますが」
「そう……それよりまだ報告はあるわ。マルセール町長……長いからデイジーでいい? デイジーがロイスたちと会ったらしいわ。やっぱりロイスも最初のダンジョンを見て魔王だと推測したらしいの。それで昨日に出現した二つのダンジョンの内部を見て魔王だと確信したらしいわ。中を見たのはララたちらしいけど」
「チュリ!」
「ふむふむ。ピピちゃんも見てきたんですね?」
「チュリ!」
「あなた実は魔物使いなんじゃないの……」
「どうやら魔王で間違いないようですね。どうしますか?」
「ちょっと待って、手紙の続きを……ん? マルセールに冒険者ギルドを設置したいんだってさ。だからこの水晶玉で国を説得してほしい? そんなことどうやってやるのよ……」
この水晶玉で説得?
ただの水晶なのに?
町長さんはなにか方法があるとお考えなんですかね?
……とするとロイス君たちからなにかしら聞いて、師匠にならできると思ったわけですよね?
「ピピちゃん、ロイス君たちはこの水晶玉の中が見えてましたか?」
「チュリ~……チュリ! チュリリ!」
んん?
ロイス君たちは見えてない?
そしてなにか思い出したように……
「ドラシーさんですか?」
「チュリ!」
ロイス君やララちゃんに見えなくてドラシーさんには見える……。
ダンジョンコアだからダンジョンコアが見える……。
私がダンジョンコアの情報を直接いじってたときはこうやって……
「……あっ! 師匠! 見えます! はっきりとダンジョンが見えますよ!」
「本当なの!? やり方教えなさい!」
それから私は師匠にダンジョンコアの操作方法を教えました。
さすが師匠、五分ほどでコツをつかんだようです。
それにしても私が師匠になにかを教えるなんて初めてのことかもしれません。
「でもこれ触ってる本人しか見れないのよね? どうやって説明しようかしら……」
「少々お待ちを」
ここの情報を変更して……手を離すと……うん。
ドラシーさんに教わっていて良かったです。
「これで触れてなくても見えるはずです。ただし、ダンジョン内の他の場所を見たいときは師匠が直接触れて操作してください」
「……本当ね。あそこの水晶玉で見てる感じと同じだわ。あっ、じゃあすぐ行ってくるわね! ピピ! まだ時間ある? ならここで待ってて!」
師匠は水晶玉と手紙を持って出かけていきました。
どこに行くかは聞いていなかったですがおそらくお城に向かったんでしょう。
私はしばらくピピちゃんとまったりすることにします。




