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世間知らずな錬金術師  作者: 白井木蓮
王都帰還編

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14.ずっと弟子でもいいじゃないですか

 師匠から魔法付与の錬金について教えてもらえることになりました。

 でもその前に最低限の知識は勉強してきなさいと言われたんです。


 それから二日に一回は図書館に通ってます。

 鉱石や魔石、魔法に関する本などを数十冊読み漁りました。

 でも装備品に魔法を付与するような錬金について書かれている本は一冊もありませんでした。


 もちろん自分でも何度も試してみましたよ。

 安い装備品を武器屋でいくつか買ってきて実験台にしてるんです。

 魔石や鉱石はダンジョンから持ってきたものがありますし。

 私は初級攻撃魔法だけは使えますから魔法付与の最低条件は満たしてるはずです。


 でも一向に上手くいきません。

 惜しいところまではいってるような気もするんですが気のせいなのでしょうね。

 どうやらここから先は師匠に頼るしかないようです。


「師匠、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」


「……」


 錬金中やなにか考え事をしているときの師匠は話しかけても反応してくれません。

 でも声は聞こえてるのでおとなしく待つしかないんです。


 最近師匠は薬草と毒消し草を使って研究をしているようです。

 それに大樹のダンジョンから持ち帰ってきた水も使用しています。

 おそらく最上級の回復薬を作ろうとしているのでしょう。

 それこそどんな状態異常でも治すことができるようなもののはずです。


「……」


 師匠が大量に薬草や毒消し草を仕入れてるのはこの研究のためなんでしょう。

 研究というものは費用がかかるんです。

 なにかの犠牲なしに成功するものなんてありません。

 ダンジョン産の薬草さんたちには申し訳ないですけど……。

 成功すればなにもかもが報われるんです。


「……だめだぁ~」


 ダメだったようです。


「師匠、なに研究されてるんですか?」


「う~ん、世界樹の恵みってやつなんだけど聞いたことある?」


 やはりそうだったようです。

 世界樹の恵み……飲むと体力と魔力、そして全ての状態異常をも回復すると言われているあの最上級のポーションです。


「はい。あの家の地下の本にそういった記述がありました」


「そっかぁ、あなたも読んだのね。なら世界樹と呼ばれる木に検討はついてるわよね?」


「はい。あの大樹そのものだと思います」


「うん、正解。大昔にはそう呼ばれてたみたいね。それがダンジョンができたのと同時に大樹って呼ばれるようになったらしいの」


「そうだったんですか。世界樹のままだと別の意味で人が集まるかもしれないってことですかね?」


「だろうね。葉っぱをむしり採ろうとする人もいるかもしれないしね」


 それだけ世界樹の葉の効果が凄いということなのでしょうか?


「師匠は本物の葉で試したことないんですか?」


「うん。あの木はね、葉を落とさないの。それに採ろうとするのはダンジョンコアが許してくれないしね。子供のころに一度こっそり木に登って採ろうとしたんだけど、気付いたら家の前にいたのよ」


「……強制転移させられたってことですか?」


「うん。凄く怒ってた……」


 ダンジョンコア……ドラシーさんも怒るんですね……。

 森全体のマナにも関わってくることなのかもしれません。


 それよりどうしましょうか。

 実は私、おそらく世界樹の恵みに近いものを一本だけ持ってるんです。

 師匠にはお話するべきですよね?

 なにか研究のお役に立てるかもしれませんし。

 ドラシーさん、ごめんなさい。


「師匠、これを見ていただけますか」


「ん? …………これって……まさか!?」


「世界樹の恵みかどうかはわかりませんが凄い効力を持ったものに間違いはありません」


 以前、私が寝込んだときに私自身で効果は実証済みです。

 これはまた同じようなことがあったときの場合の保険として持っておくようにと言われて渡されました。


「これよ……まさしく世界樹の恵みだわ。凄い魔力……魔力というよりマナね……」


 これがそうでしたか。

 でもこれを薬草や毒消し草で作れるとは思えません。

 それに近いものなら作れるかもしれませんが……。


「……師匠、さすがに大樹のダンジョン産の薬草といえど無理なのでは?」


「そうなのかなぁ……というかあなた、もしかしてダンジョンコアにもらったの?」


「はい。私が無理したときのためにもう一本持っておきなさいって」


「私には見せてくれただけだったのに。でももう一本ってことは一本は飲んだってことよね? そんなに無茶したの? ……まぁいいわ。私の研究が成功かどうかを確かめられる人物がこんな近くにいるんだもの。ふふっ」


 私、これからたくさん飲まされるということですか……。


「それより師匠、魔法付与についてなんですが」


「あぁ、そうだったわね。基本的な知識は叩き込んだのよね?」


「はい。実際に錬金もしてるんですが上手くいかなくて……」


「見てみましょう。やってみなさい」


 師匠の目の前で私が考えた錬金をやってみます。


 まず魔石を釜に入れ、両手は錬金釜の横に手を当て、中の魔石に私の魔力を集中させます。

 こうすることで魔石は不安定な状態になるんです。


 そして右手を釜から外し、釜の口から中に向けて右手で火魔法を放ちます。

 最初は左手だけでその魔法を制御し、その後両手で制御します。

 ですが魔石と私が放った魔法とを融合させることができないまま魔法が消えてしまうんです。


「なるほど。手を離したところから制御が全くできてないわね。それに魔法も未熟。でも理論的には悪くないわ。魔法を直接ぶっ放すのは面白いわね。魔石はなにを使ってるの?」


「ベビードラゴンです」


「ふ~ん。なら初級の火魔法程度なら問題なさそうね。だとするとやはりあなたの力不足か方法が違ってるかね」


「師匠が知ってるやり方はどういうものなんでしょうか?」


「知ってるといっても見てただけなんだけどね。途中まではあなたと同じよ。でも両手は離さずにそのまま魔法を両手から釜全体に伝導させ中の鉱石に収束させていくの」


「え……そんなことしたら釜が外側から壊れてしまわないのですか?」


「えぇ、普通の釜ならね。だから錬金釜自体が特殊な物質じゃないと無理だわ。その点、あなたのやり方なら錬金釜に拘る必要はなさそうだから可能性はあるわね」


 そんな錬金釜が存在しているのでしょうか……。

 ただの魔力じゃなく攻撃魔法に耐えられるだけの物質ですか。


 でも私の理論でも悪くないみたいです。

 というかロイス君が言ってたことをそのまんまやってるだけなんですけどね……。

 ただロイス君は一人より二人でやればいいんじゃないかと言ってました。


 隠してる気分だったので正直に師匠に伝えましょう。

 結局またロイス君のアイデアじゃないかと言われそうです……。


「……そう。ロイスが考えたのね。錬金する人と魔法を放つ人の二人に分けてやるわけか。なるほど」


 ガッカリさせてしまったのかもしれません……。


「師匠は錬金をどこで見られたんですか? 私も実際にこの目で見てみたいです」


「……私が見た錬金術師はもうこの世にいない。もう一人可能性があった錬金術師も同じく……。つまり今魔法付与ができる錬金術師は世界に誰もいないはずよ」


「え……誰もですか……」


「えぇ。使ってた錬金釜も私が見ている目の前で粉々に砕け散ったわ。耐久度にも限界があるみたいね」


「そんな……」


 それじゃ手掛かりはこれ以上ないということじゃないですか……。


 ……いえ、まだ師匠がいます。

 師匠と私ならできるはずです。


 これを習得してみんなが喜んでくれる顔が見てみたいんです。

 絶対にやってみせます。

これにて「王都帰還編」は終了となります。


※ 次章に入る前に『俺の天職はダンジョン管理人らしい』の第百二十八話まで読んでいただきますと次章をより楽しんでもらえると思います。


もちろんこのまま次章を読まれても楽しんでいただけるように考慮はしてるつもりですので気にならない方はこのまま次章へお進みください。

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