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世間知らずな錬金術師  作者: 白井木蓮
王都帰還編

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5.旅の報告をします

 まずマルセールに着くところまでの話をしました。

 師匠も微笑みながら聞いてくれてます。

 ここまではおそらく師匠が思い描いていた通りの旅でしょうからね。

 私が四苦八苦してるところを想像して楽しんでくれているのでしょう。


「そしてマルセールに着いてのことなんですけど」


「うんうん。マルセールはどうだった? 小さな町だったでしょ?」


「はい。でも宿場町と言われてるだけあって活気がありました」


「そうね。あそこは昔からよそからのお客で持っている町だからね」


「はい。そして着いた日に宿泊した宿屋で大樹のダンジョンのビラをもらったんです」


「大樹のダンジョンがビラ? ビラなんてあるの?」


「はい。そのビラには地下一階がリニューアルされること、しかも薬草エリアが新設されるって書いてあったんです」


「へぇ~。薬草と聞いたら行くしかないわよね?」


「はい。次の日朝早くに町を出たんですけど思ったより遠かったです……」


「ふふっ。あなたの足なら一時間以上かかるでしょうからね」


 師匠はなんでも知ってますね。

 どこの町のこともこうやってずっと相槌を打ってくれてます。

 大樹のダンジョンにも行ったことがあるのでしょう。


「そして薬草と水を見たんですけど、これが今までに見たことのないくらい素晴らしいものだったんです」


「確かにあの薬草は凄いわよね。でも水もなの?」


 さすが師匠、あの薬草をご存じでしたか。


 …………あっ!


 そこの薬草箱に大量に入ってるのは間違いなく大樹のダンジョンの薬草です!

 私が見間違うはずありません!


「……もしかして業者さんに仕入れを頼んでます?」


「当たり前じゃない。だってコスパが抜群だし魔力も桁違いだしね」


「あ、水も見ますか? ……どうぞ」


「……なるほど。水もわずかに魔力を感じるわね」


 そういえば地下二階がリニューアルしたころにロイス君がマルセールの道具屋さんがどうとか業者さんがどうとか言ってました。

 業者さんは馴染みの錬金術師からダンジョン産の薬草を頼まれてるって言ってたような気がしますがまさか師匠のことだったなんて……。

 でもこの薬草を見たらみんな欲しがるに決まってますからね。


「それから一週間毎日マルセールからダンジョンに通いました。薬草と水を採ったらすぐに帰ってきてましたけど。でも次の月曜日から地下二階もリニューアルするって発表されてたんです。しかも毒消し草もあるっていうじゃないですか」


「そんな短期間でリニューアルを? ……魔力は大丈夫だったのかしら」


 えっ?

 小声でしたけど魔力って言いましたよね?

 師匠は人工ダンジョンの仕組みにも詳しいのでしょうか?


「せっかく来てくれた新しいお客さんを逃したくなかったって言ってましたね」


「ふ~ん。でもなんで急にリニューアルなんてしだしたのかしらね。……あっ、ごめん続けて」


「はい。大樹のダンジョンは日曜日がお休みなので、管理人さんも日曜日にマルセールまで買い物に来てたんです。そこでたまたまばったり会いまして……色々あって管理人さんを怒らせることになってしまいました」


「怒る? 管理人が怒ったの? あなたに?」


「はい……。私が人工ダンジョンとか薬草についてしつこく質問してしまったものですから……それにその日は地下二階のリニューアル作業もあったようで急いでたみたいですし」


「……理由はあったにしてもあなたのような女の子に怒るかしら。なんだか私の知ってる管理人とは別の人みたいな感じがするわね」


 ……あっ、さっきから話が合わない気がしたのはそのせいですか。


「管理人さんは二月の終わりに新しい方に代わりました」


「えっ!? 代わった!? なんで!? というかなんで代われるのよ!?」


 え……師匠、こわいです。

 そんな前のめりにならなくても……。


 でもさすが師匠です。

 管理人になれる条件が魔物使いってことも知ってるようです。


「前の管理人の方が亡くなったようですね。それからはお孫さんが引き継いでます」


「……亡くなった? …………嘘でしょ?」


 え…………。


 師匠の目から…………。


 まさかロイス君のお爺さんとお知り合いだったんですか?


「……急な心臓発作だったらしいです……お年も六十四歳だったみたいですし。……師匠? 大丈夫ですか?」


「……」


 こんな師匠を見るのは初めてです。

 そんなに親交のある方だったのでしょうか。


 テーブルに置いた腕に顔をうずめ、静かに泣いてる声だけがしばらく聞こえてました。


 ……私は席を外したほうが良さそうです。


「……いいのよここにいて。ごめんね……あなたには言ってなかったことがあるのよ」


「……」


「その亡くなった人……私のお父さんなのよ」


「えぇっ!?」


 お父さん!?

 師匠のお父さん!?


 師匠のお父さんが亡くなってたことを悲しむべきなんでしょうがなんだか色々ビックリです!


 そもそも師匠のお父さんがまだ生きてたなんて知りませんでした。

 お母さんが亡くなったことは聞いてましたがお父さんの話は一度もされたことありませんでしたからね。

 だから勝手にお母さんよりも前に亡くなってるものだと思ってました。


 そのお父さんが亡くなったことを今まで知らなかったことにもなんて言ったらいいかわかりません。

 九か月も前に亡くなってたことを私に知らされた師匠はどう思ってるのでしょうか……。


 しかもそれなら師匠はロイス君とララちゃんの叔母に当たるわけですよね?

 お二人からそんな話一度も聞いたことなかったんですけど……。

 師匠からも甥や姪がいるなんて聞いたことないですよ?


 ……待ってください。


 ということは師匠はお兄さんか弟さんも亡くされてるということですよね?

 年齢的に師匠のほうが上みたいですから弟さんですかね?

 確か……九年前でしたっけ?

 私はそのことすら知りませんでした。

 きっと師匠は私に気を遣わせないようにとなにも言わなかったんです。


 …………ダメです。

 私の目からも涙がとまりません。

 今こそ私が師匠を慰めないといけないのに。


 なんで泣いても泣いても涙は枯れないんでしょう。

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