3.湖で再会しました
「えっ!? じゃあダンジョンを出てきたってことですか!?」
「本当なんですか!? 理由を聞いてもいいですか!?」
「え……はい」
先ほど、私が湖を眺めているといきなり名前を呼ばれたんです。
声のしたほうを見るとそこにはティアリスさんパーティの方々がいました。
いつもの黒いローブとは違って白いローブを着てるのによく私だって気付きましたね。
今は湖近くのカフェでお茶してます。
彼女たちは昼食がまだだったらしく、いっしょにどうかと誘われたんです。
ここからは湖が一望でき、ずっとここにいたくなるような空間です。
私以外の四人は普通に昼食を食べています。
今日は月曜日なのでこのパーティもいつもならダンジョンに行ってるはずです。
なのにここにいるということは先日ロイス君が依頼した件にもう取りかかっているということでしょう。
そうですか、彼女たちもしばらくダンジョンから離れるんですね。
私と彼女たちは偶然にも同じ日に初めてダンジョンを訪れたんです。
同期みたいなものですよね、ふふっ。
「……という理由です」
「そうなんですね。今でも凄いのにさらに勉強するなんて……」
「僕たちも見習わないといけませんね。まずは依頼達成が最優先ですが」
「まだ一つも魔石とれてないけど……」
「ここのご飯高いね……」
なるほど、このマッシュ湖周辺に依頼リストの中の魔物がいるという情報を入手したみたいですね。
確かにあの中の二~三匹は出現情報があるみたいですからね。
「じゃあ今からパルドに行くんですか?」
「……はい、私はパルドで育ちましたので」
「えっ!? パルド出身なんですか!? いいなぁ~羨ましい~」
「……」
私の生い立ちについては話さないほうがいいですよね。
それにしてもティアリスさんにこんな話し方をされるとなんだか調子が狂います。
いつもロイス君と話してるときみたいに普通でいいのに。
「そうだ! カトレアさんもいっしょに手伝ってくれませんか!? 今日一日だけでもいいんで!」
「えっ!?」
「それいいですね! 初級攻撃魔法使えるって聞きましたよ!?」
「「おぉ! 助かります!」」
いやいや、私は戦闘タイプじゃないですよ。
中級レベルの魔物相手じゃとてもお役に立てそうにありません。
「戦わなくても大丈夫ですから! 誘導してほしいんです!」
「……」
なるほど、私の攻撃魔法をそう使いますか。
でもいいんでしょうか。
どちらかというと私は依頼人側ですしね……。
「色々お話もしたいですし、どうですか? 私たちも明日はパルドに行く予定ですので!」
「……わかりました」
「本当ですか!? やった!」
せっかくお誘いしていただいたのに断るわけにもいきませんもんね。
何事も経験が大事です。
となるとまず馬車をキャンセルしてこなければいけません。
宿はティアリスさんたちと同じ宿が空いてればいいですけど。
「チュリリ!」
「あっ、ピピちゃん、すみません……一日遅くなりますがどうしましょう?」
ピピちゃんのことをすっかり忘れてました。
予定では今日の夜に着くはずだったので、ピピちゃんも今日の夜にはダンジョンへ帰れると思っていたに違いありません。
それにロイス君たちも心配するはずです。
「ねぇカトレアさん、ピピちゃんにも手伝ってもらえませんか?」
「……ピピちゃん、いいですか?」
「チュリ!」
「……いいそうです」
「ホントですか!? やったわ! これで中級レベルだろうが楽勝ね!」
「そうですね! ここで取れる魔石は全部取っていきましょう」
「いいのかな……」
「まぁ買うのが許されてるくらいだしいいんじゃないか……」
ふふっ、ピピちゃんは頼られると嫌とは言えない性格ですからね。
それになんだか嬉しそうです。
「……ピピちゃん、一度夜にダンジョンに戻ってロイス君に一日遅れるって伝えてもらえますか?」
「チュリ!」
「……ありがとうございます」
本当にピピちゃんは賢いですね。
◇◇◇
「着いた~!」
「ここが王都パルドですか! さすがに大きいですね!」
「「腹減ったー!」」
十二時ちょうどに無事パルドに着きました。
昨日はピピちゃんの活躍もあり、思っていた以上にスムーズに魔物討伐が行えました。
なんだか私もパーティの一員になれたような気がして凄く新鮮でしたよ。
夜遅くまでティアリスさんと色々お話もしましたし。
内容は秘密です。
「じゃあカトレアさん、ここでお別れね」
「……はい、楽しかったです……必ず依頼達成してくださいね」
「もちろんよ! ……ねぇ、また会えるよね?」
「……大樹のダンジョンで会えるかどうかはわかりません」
「そう……でもパルドにはいるのよね? また会いに来るわ! でも大樹のダンジョンで会いたいね!」
「……そうですね。私も今より成長できたならまたいつかダンジョンに行きます」
「うん……わかった!」
やっぱり別れはつらいですね。
元々知り合いとはいえたった一日いっしょにいただけでもこんなにつらいなんて。
お兄さんたちなんて泣いてくれてるじゃないですか……。
ようやくティアリスさんも打ち解けてくれましたし。
……少しだけサービスしましょうか。
「最後にみなさんに一つお知らせがあります」
「え? ……なに?」
「これは私の独り言です。大樹のダンジョンですが……四月から中級者向け階層をオープンするみたいです」
「「「「えぇっ!?」」」」
やはり気付いていなかったんですね。
ティアリスさんとジョアンさんも依頼のことで頭がいっぱいいっぱいなようです。
「……独り言なので聞き流してください。ではみなさんもお忙しいでしょうからこのへんで。どうかお元気で」
私はその場を立ち去りました。
これ以上いるとどんどん別れがつらくなりそうだったんです。
「私たちの依頼は三月末までだよね!?」
「はい! ということはこの魔石が関係してると考えるのが自然です! もしくは依頼に関係なく僕たちを待っててくれてるだけかもしれませんけど!」
「うおぉぉぉ! 絶対三月中にはダンジョンに戻るぞ!」
「よっしゃぁ! やる気出てきた!」
「カトレアさ~ん! またねぇ~!」
ふふっ、頑張ってくださいね。




