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世間知らずな錬金術師  作者: 白井木蓮
旅立ち編
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1.旅に出ます

「カトレア、あなたはもっと世界を見てきなさい」


「えっ……」


 いきなりそんなことを言われて戸惑ってます……。


 珍しく師匠の部屋に呼び出されたんです。

 でもいつも通り錬金の仕事の話かなと思ってました。

 それがいったいどういうことなんでしょう……。


「……私はクビということでしょうか?」


「えっ!? 違う違う! なに言ってるのよ! 怒るわよ!」


 なんで師匠が怒るのでしょうか……。

 でもクビじゃなさそうなので安心しました。


「では理由をお聞かせくれませんか?」


「それはあなた自身で見つけてほしいのよ。今のままだとあなたは器用貧乏な錬金オタクになるわ。もちろんそれは悪いことじゃないわよ? でもあなたの場合、小さいころからずっと錬金だけをしてきたでしょ? もっと世界は広いんだということを知ってほしいの。あなたももう十七歳なんだから錬金以外のことにも興味を持ったほうがいいのよ」


 ……私には師匠の言ってることが全然わかりません。

 錬金術の勉強や仕事が嫌だと思ったことなど一度もありませんし。


 むしろ私は師匠には感謝しかありません。

 四歳のときに両親を亡くして行き場のなかった私を育ててくれたんですから。

 なに不自由のない暮らしで学校も行かせてもらいました。

 しかも錬金術まで仕込んでくれたんです。


 だからこれからもずっとここにいようと思ってました。

 私が師匠にできる恩返しといったら錬金のお手伝いしかありませんから。


「……ここにいたらダメなんでしょうか?」


「あなたの帰ってくる家はこれからもずっとここにあるわよ。でももし他に自分の居場所を見つけたときにはそっちがいるべき場所になるかもしれない」


 師匠は私にここから出て行けと言ってるんでしょうか……。

 私はこれからもずっとここにいたいのに。


「……私が邪魔ですか?」


「バカっ! そうじゃないって言ってるでしょ! 私はあなたをここに縛り付けておきたくないの! これがあなたのためなのよ!」


 そう言って師匠は抱きしめてくれました。


 師匠は本気で私のことを心配してくれてるようです。

 確かに私は世界のことを知らなすぎるのかもしれません。

 勉強だけはたくさんしてきたので知識には自信はあります。

 でも師匠が言いたいのはそういうことではないのでしょう。


 ……そうですか。

 知識や錬金術よりも大切なことが私には欠けているのですね。


「……わかりました。明日旅に出ようと思います」


「え……そんなに急になの……大丈夫? 錬金釜は持っていかないとダメよ? パンの材料は多めに持っていくのよ? 着替えも忘れずにね? お金も使い切れないくらい持っていきなさいよ? それとあなたは年齢よりも見た目が幼く見えるから色々と気をつけなさい。念のためフードはずっと被っておくこと!」


 心配しすぎです……。

 私だってもう十七歳なんですからね。

 幼く見えるというのは私の背が低いからでしょうか……。


「でもどのくらい旅をすればいいのでしょうか?」


「まずは一か月を目標に頑張りなさい。寂しくなったら一週間でもいいから」


 一週間って……。

 それはただの旅行だと思います。

 旅に出るからには一か月を目指したいです。


 ルートはどうしましょうか。

 なにかあったときのために師匠にもお伝えしておいたほうがいいですよね。


「師匠、旅のルートなんですが……」


「あなた自身で決めなさい。私には言わなくていいから。でも一つだけ条件を付けます。それはここから西の宿場町マルセールを経由すること。西に向かって途中の村や町に一泊ずつして帰ってくるだけでも一週間にはなるわ。北ルートや南ルートだともっとかかるわね」


 宿場町マルセールを経由が条件ですか。

 それはつまりこの大陸を最低でも半周するということですよね。

 ここから西に行って帰ってくるだけじゃ面白くありません。

 どうせなら南ルートに行ってみようと思います。

 北は昔に行ったことありますし。


「もし一か月で帰ってこなくても探さないでください」


「えっ!? それはダメよ! なにかあったかと思うじゃない!」


「師匠……矛盾してませんか……」


「え……そうよね。不安だけどあなたが帰ってくることを信じて待つわ。でも約束して。あなたの家はここなんだからこのまま音信不通なんてのはやめてよね」


「……わかりました。でももし一週間で帰ってきても怒らないでくださいね……」


「怒らないわよ。存分に楽しんできなさい。その代わり帰ってきたら山ほど仕事があること忘れないでね」


 師匠は微笑んでくれました。

 おかげで少し不安が和らぎました。

 山ほど仕事があるのはいつものことですからね。


「お姉ちゃん! 本当に旅に出ちゃうの!?」


 部屋を出るとマリンが抱きついてきました。

 盗み聞きなんて悪い子です。


「ちょっと旅行に行ってくるだけです。すぐ帰ってきますから」


「本当!? 一週間で帰ってくる!?」


「……もう少し長いかもしれません。私がいなくても朝起きないとダメですよ?」


「無理だよ! だからすぐ帰ってきて!」


 ふふっ、可愛いですね。

 マリンに会えないのは寂しいですが仕方ありません。


「お土産いっぱい持って帰ってきますから待っててください」


「絶対だよ!? 一週間でお土産いっぱいだからね!?」


 マリンは寂しがり屋さんですね。


「師匠のこと頼みましたよ」


「うん! 私が朝起こすから安心して!」


 ふふっ、二人とも寝坊してるのが目に浮かびます。


 翌朝、師匠とマリンの二人に見送られて私の初めての一人旅が始まりました。

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