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同志・南條さん


「……ごちそうさま」

「平折? まだ半分も食べてないじゃない」


 ごめんなさい、食欲が……と言って、自分の部屋へと戻っていく。


 その日、平折は夕食に殆ど手を付けていなかった。

 ただでさえ食が細いというのに、心配になってしまう。

 弥詠子(義母)さんも、オロオロとするほどだ。


 やはり、頬の件が尾を引いているのだろうか?


「昴君、平折に何かあったのかしら?」

「……それは」


 母親として気になるのは当然の事だった。


 だが俺は、言い淀んでしまった。


 あの件に関しては平折は何も無いと言っている。

 そして状況証拠はあるが、実際の所は憶測でしかない。


「……」

「……」


 弥詠子さんとの間に沈黙が流れる。


 それは俺への問い掛けだった。

 言い淀んでしまった事から、何かを察したのかもしれない。


 問題はあるかもしれないが、まだ今は何も言えない。


 ――それに何かあれば俺が守れば良い。


 だから、大丈夫だと思いを込めて頷いた。


「……そぅ」

「……あぁ」


 弥詠子さんは小さく呟き、目を細めた。

 どうやら、とりあえずは俺に任せてくれる信頼を寄せてくれる様だ。


 その微笑みは、どこか平折に似ていた。



◇◇◇



『~~~~♪』


 部屋に戻ると同時に、スマホが鳴りだした。


「ん……げっ!!」


 相手は南條さんだった。

 よくよく画面を見てみれば、数分おきの着信と鬼の様な数のメッセージが届いていた。


「すまん! 今気付――」

『どういう事かしら?』


 俺の言い訳を遮って、地獄の底から響いてくるような声が聞こえてきた。

 一瞬南條だよな? と疑ってしまう程の、聞いたことのない声だった。

 もしこの声だけを聴かせたら、誰も南條さんだとわからないんじゃないか?


 それ程の怒気を孕んだ声だった。


「最寄り駅で降りたとき、吉田平折を見かけたんだ。そしたら右頬が赤くなっているのに気付いて」

『見間違いとか勘違いでなく?』

「あぁ、間違いない。南條、誰がやったとかは……」

『わからないわね。正直やらかしそうな子の心当たりが多過ぎて……でも理由ならわかるわ』

「理由?」

『簡単に言えば――出る杭は打たれる、よ』


 なるほどな、と思った。


 今までの平折と言えば、地味で目立たない存在だった。

 それがあれよあれよと噂の人だ。


 特に最近は、南條さんが平折にべったりしていると言える状況だった。

 おそらく、女子間でのカーストじみたものの変化から、そういう事に至ったというのは想像に難くない。


 ――気に食わないと思う人が出てくるのは当然か。


 だが……


「平手打ちだなんて、余程のことがないとされないと思うのだが……」

『確かにそうね……そこまでされる理由があったのか、それとも突発的に理由もなくやられたのか……それによってこちらの出方も変わってくるわ』


「……」

『……』


 答えの出ない問題に、俺達は無言になってしまった。

 スマホ越しに、互いのどうしたものかと思案する息遣いが聞こえてくる。


 何とも言えない沈黙だった。

 共に平折の問題を考える、同士だと感じられる沈黙だった。

 だから、決して嫌な感じは全然しなかった。


『とりあえずこの問題は置いておきましょう。今考えても答えは出ないし……歯痒いけれど……』

「そう、だな……」

『アンタは…………』

「……南條?」

『いえ、今はいいわ。それでもう一つの方なんだけど……』

「あぁ」


 もう一つの方、それは俺が後で送った俺の相談だろう。


 正直、南條さんに聞くような事ではないかもしれない。

 俺は男で平折は女の子だ。色々と条件も違う。


 ただ、俺自身が変わろうとするための意思表明として、同志とも言える彼女に聞いてもらいたいという想いがあった。


『また一体どうしてなのさ?』

「学校でも南條達と普通に話せるようになりたいなと思ってさ」

『はぁっ?!』

「――っ!!」


 スマホからは耳がキーンとしてしまう程の大声が発せられた。思わず耳から離してしまう。

 そこまで驚かれるとは思っておらず、こっちもビックリしてしまう。

 そして、少し弱気が顔を出してしまった。


「俺じゃ顔の素材からして無理か?」

『え、いや、その……倉井はそんな悪くないと思う、けど……』

「思ったんだが、最近の吉田平折と南條はセットのようにいつも一緒だ。誰から見ても……俺から見てもレベルの高い2人だと思う。そこに割って入ってもおかしくない様になりたいのだが……」

『え、いや、その、倉井の頑張り次第だと思う』

「本当か?!」

『え、えぇ』


 やはり、学校では南條さんが目を光らせているとはいえ、心配だ。

 今の平折は南條さんと並ぶほどの美少女だ。

 そんな彼女達に話しかけるとなると、最低限見劣りしない程度にはなりたい。


 ちょっと自信はなかったが……南條さんのお墨付きがあるなら希望が持てる。


 見た目に関してはこれで良いとして、他にも色々と考えないとな。


 さて、それより今は――


「よし、今日もゲームするか」

『このタイミングでそれ?!』

「? あれ、変な流れだったか?」

『……はぁ、別にぃ』


 今度は大きなため息が聞こえてきた。


 自分の事も何とかしないといけないが、平折のいつもの日常も大切だ。

 きっと今日も先にインして待っているに違いない。


 通話を終えたスマホには、メッセージが届いているのに気付いた。


『今日こそは亀の素材が欲しいです。サンクさんもそのエリアに行けるようになりましたし』


 そうだ、今は学校であった嫌な事があったことを忘れるくらい、ゲームをしよう。


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