チャットログ
相変わらずタイトルやあらすじでうんうん唸っています。
何かいい感じのないかなぁ……?
気まずい空気だった。
それでも、その場で立ち尽くすのも何なので、カラオケセロリに移動した。
部屋によってはクッションだらけやモニターが複数あるような部屋もあるが、選んだのはスタンダードに普通の部屋。
もはやカラオケ屋というより、貸し部屋店といった感じだ。
店員に案内され、事前にゲーム内で頼もうと話していたものを注文する。
なお、ここまで一切の会話は無い。
付かず離れずの微妙な距離でお互い妙にそわそわしている。
「……」
「……」
いつも家にいるみたいな関係だと言えばそれまでだが、明らかに平折は緊張で身体が強張っていた。
未だに義妹がフィーリアさんだという現実感が無い。
口を開けば『このアバターのパンツ赤かよー! 薄緑の方が似合うんじゃね?』『太ももも良いけど、二の腕も出したほうがいいよな!』などと、下品というかおっさん臭い事を言う彼女と平折の姿が重ならない。
普段見る平折の姿と言えば、膝がすっぽり隠れる長いスカートの制服姿か、家でのジャージ姿。
髪もひっつめ強引に纏め、お洒落とは無縁な女の子だ。
それが今や、ゲームのキャラみたいに、見たこともない短いスカート丈で足をさらけ出している。
部屋に入りカーディガンを脱ぐと、ノースリーブで白い肩もむき出しで、目にも眩しい。
大胆で可愛らしくもあるけれど、服のセンスや本人の性格からか、清楚さも感じさせる。
思わずドキリとしてしまう程の可愛らしさがあった。
「……ッ!」
俺の視線に気付いたのか、慌ててカーディガンを膝の上にやり足を隠す。
ぷるぷると身体を震わせ、涙目でこちらをねめつけてくる。
そういう目で見たわけじゃなかったんだが。
だけど、うん。
「あーその、似合ってる。可愛いんじゃないか?」
「~~っ!」
思ったことを口に出してみた。
ゲーム内でフィーリアさんと話する感じのノリだった。
実際かなり可愛いと思う。
だけどこういう格好に慣れていないのか、背伸びしている感は否めない。
しかしそこが初々しく、また普段とのギャップもあって新鮮に映り、胸がざわめいてしまう。
――普段から、その辺ちゃんとすればいいのに。
お節介にもそんな事を思ってしまった。
勿体ないな――そんな事を思いながら見つめるもしかし、平折は顔を真っ赤にして俯くだけだ。
……
なんだかより一層、気まずくなってしまった。
沈黙の空気が重々しく身体に圧し掛かり、息苦しくて溺れてしまいそうだ。
「お待たせいたしました~♪」
そんな重い空気を切り裂き、明るい声が部屋に響いた。
俺たちと違ってテンションが高い店員さんだ。
「クラーケンのイカ墨パスタと竜王ファブニールの瞳コロッケ、それに騎士の血の誓いは?」
「あ、俺です」
「では彼女さんの方が、錬金術師のお茶ポーションですね~♪」
「~~っ!」
そう言って店員さんは微笑ましいものを見るかのよう配膳し、去っていった。
ガチガチに緊張した年頃の男女2人――そう見えなくも無い。
「……」
「……」
店員さん的には背中を後押ししたつもりなのだろうが、生憎と俺たちはそういう関係じゃない。
先ほどとはまた違った空気になり、互いに変に意識してしまっているのもわかる。
俺も平折も、ちらちらと相手を伺っている。
……なんだ、これは? 仮にも俺たちは兄妹だぞ?
「た、食べようか! 見た目は仰々しいけど、中身は美味しそうだし!」
「……」
「き、騎士の血の誓いはトマトジュースに炭酸で意外な味だな! 錬金術師のお茶ポーションはどんな感じ?」
「…………美味しい」
「そ、そっか! ははっ……」
「……」
……
なんともいえない空気を振り払おうと、無理にテンションを上げて話しかけてみるも――ダメだ、空回りしている。
カチャカチャと食器がぶつかる音だけが部屋に響く。
苦い気持ちをコロッケと共に飲み込んでいった。
◇◇◇
『それじゃ、寄る所あるから!』
と、別れたのが1時間前。
結局あの後、平折とは一言も会話をすることはなかった。
出来る限り無難な話題を振ったりしたが――ダメだった。
場が持たなくてカラオケに手を出してみたが――一人で何度も唄うのは精神的にもきつかった。
まさか平折がフィーリアさんだったなんて……
くどいかもしれないが、未だに2人の姿が重ならない。
雪と墨ほど性格が違う。
なにより、これからどんな顔をすればいいのか?
たっぷり帰路を回り道をして考えてみるものの、全然考えが纏まらない。
「ただいま」
返ってくる返事は無い。
これはいつもの事だ。
平折は……靴があるな。当然、先に帰ってたか。
とにかく疲れた。
平折と顔を合わせたくないということもあり、自分の部屋へ直行する。
入ってすぐ目に飛び込んで来たのは、付けっ放しのモニター。
あぁ、ログアウトせずに飛び出したんだっけ。
ん? あれ?
「遅い!」
俺が部屋に入ると同時に、チャット欄に書き込まれた。
画面の前にはフィーリアさんがぷんすかと、怒ったエモートを繰り返している。
「悪ぃ、寄り道してた」
「どこ寄ってたのさ?」
「適当に……そのへん遠回り?」
「え、それだけ? ただの道草? うわちゃぁ~暇人だ」
「うっせ!」
いつも通りの会話だった。
なんだか拍子抜けする。
だから余計に、平折とフィーリアさんが同一人物だと思えなくて混乱してしまう。
「平折……だよな?」
「それがどうしたかね、あー、その、昴君……」
……
フィーリアさんに本名を教えた事は無い。
やはり彼女は平折で間違いないようだ。
「いやー、イカ墨って初めて食べたけど、バターみたいにコクがあってビックリだったよ! 味はぺペロンチーノに似てておもったよりあっさりな感じ?」
「あ、あぁそうなんだ」
「コロッケはどうだったの? 竜王の瞳を模したってあるけどクオリティはイマイチだったよねー。味はどうだった?」
「カニクリーム……まぁおいしかったよ」
「そうそう、錬金術師のお茶ポーションだけどさ、あれは普通にジャスミンティーで――」
どこまでも、いつも通りの会話だった。
これからゲームでどう接すればいいのか悩んでいたのが馬鹿らしくなる位、今まで通りだった。
モニター上のチャット欄では、フィーリアさんが捲くし立てるかのように今日の感想を言っている。
いや、なんていうか。
隣の部屋にいるんだから、直接話した方が早いんじゃないか?
なんだか無性に胸がもやもやした。
昼間あれだけどきまぎしつつ、気を揉んでいたというのもある。
だから気付けば立ち上がって、平折の部屋の前に来てしまっていた。
……ガラにもなく、らしくない事をしているという自覚はある。
きっと俺はまだ混乱しているのだろう。
「平折?」
「~~~~ッ?!」
コンコンとノックと共に声を掛けると、ドタバタガッシャン、ひっくり返るような音がした。
一体何が……?
ガチャリと開いたドアからは、恨めしそうな顔で見上げる平折の姿。
少し涙目だ。おでこも少し赤い。心なしか頬が少し膨らんでいる。
服はまだ着替えていない。家でオシャレをしている義妹の姿が新鮮だった。
ちょっと……その、うん……可愛いな……
「あの、だな……こういうことは直接話してもいい――」
「――――~~~~ッ!!」
最後まで言い終わることなく、ぽすぽすと無言でクッションを押し付けるように叩いてきた。
いつものように、耳を真っ赤にしている。
「――すまん」
これ以上、機嫌を損ねるのは得策じゃないか。
……はぁ、やれやれ。
結局こっちではいつも通りと――
「……………………今日はぁりがと」
「――ッ?!」
蚊の鳴くようなか細い声だけど、確かに聞こえた。
恥ずかしかったのか、声より大きい音を立ててドアが閉まる。
聞き間違いじゃないよな?
半分疑心暗鬼で部屋に戻る。
『また行こうね』
――フィーリアはログアウトしました
モニターにはそんなログが残されていた。
「……なんだよ」
ただのチャットのログだというのに、やたらと胸が騒めいてしまう。
「~~~~♪」
隣の部屋からは、こないだと同じく機嫌が良さそうな鼻歌が聞こえてくる。
きっと。
俺たちの何かが変わる予感がした。
これで序章終わりですっ。
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