表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/175

チャットログ

相変わらずタイトルやあらすじでうんうん唸っています。

何かいい感じのないかなぁ……?


 気まずい空気だった。


 それでも、その場で立ち尽くすのも何なので、カラオケセロリに移動した。


 部屋によってはクッションだらけやモニターが複数あるような部屋もあるが、選んだのはスタンダードに普通の部屋。

 もはやカラオケ屋というより、貸し部屋店といった感じだ。


 店員に案内され、事前にゲーム内で頼もうと話していたものを注文する。


 なお、ここまで一切の会話は無い。

 付かず離れずの微妙な距離でお互い妙にそわそわしている。


「……」

「……」


 いつも家にいるみたいな関係だと言えばそれまでだが、明らかに平折は緊張で身体が強張っていた。


 未だに義妹(平折)がフィーリアさんだという現実感が無い。


 口を開けば『このアバターのパンツ赤かよー! 薄緑の方が似合うんじゃね?』『太ももも良いけど、二の腕も出したほうがいいよな!』などと、下品というかおっさん臭い事を言う彼女(フィーリアさん)と平折の姿が重ならない。


 普段見る平折の姿と言えば、膝がすっぽり隠れる長いスカートの制服姿か、家でのジャージ姿。

 髪もひっつめ強引に纏め、お洒落とは無縁な女の子だ。


 それが今や、ゲームのキャラ(フィーリア)みたいに、見たこともない短いスカート丈で足をさらけ出している。

 部屋に入りカーディガンを脱ぐと、ノースリーブで白い肩もむき出しで、目にも眩しい。

 大胆で可愛らしくもあるけれど、服のセンスや本人の性格からか、清楚さも感じさせる。


 思わずドキリとしてしまう程の可愛らしさがあった。


「……ッ!」


 俺の視線に気付いたのか、慌ててカーディガンを膝の上にやり足を隠す。

 ぷるぷると身体を震わせ、涙目でこちらをねめつけてくる。


 そういう目で見たわけじゃなかったんだが。


 だけど、うん。


「あーその、似合ってる。可愛いんじゃないか?」

「~~っ!」


 思ったことを口に出してみた。

 ゲーム内でフィーリアさんと話(チャット)する感じのノリだった。


 実際かなり可愛いと思う。


 だけどこういう格好に慣れていないのか、背伸びしている感は否めない。

 しかしそこが初々しく、また普段とのギャップもあって新鮮に映り、胸がざわめいてしまう。


 ――普段から、その辺ちゃんとすればいいのに。

 お節介にもそんな事を思ってしまった。


 勿体ないな――そんな事を思いながら見つめるもしかし、平折は顔を真っ赤にして俯くだけだ。


 ……


 なんだかより一層、気まずくなってしまった。


 沈黙の空気が重々しく身体に圧し掛かり、息苦しくて溺れてしまいそうだ。



「お待たせいたしました~♪」



 そんな重い空気を切り裂き、明るい声が部屋に響いた。

 俺たちと違ってテンションが高い店員さんだ。


「クラーケンのイカ墨パスタと竜王ファブニールの瞳コロッケ、それに騎士の血の誓いは?」

「あ、俺です」

「では彼女さんの方が、錬金術師のお茶ポーションですね~♪」

「~~っ!」


 そう言って店員さんは微笑ましいものを見るかのよう配膳し、去っていった。


 ガチガチに緊張した年頃の男女2人――そう見えなくも無い。


「……」

「……」


 店員さん的には背中を後押ししたつもりなのだろうが、生憎と俺たちはそういう関係じゃない。

 先ほどとはまた違った空気になり、互いに変に意識してしまっているのもわかる。


 俺も平折も、ちらちらと相手を伺っている。


 ……なんだ、これは? 仮にも俺たちは兄妹だぞ?


「た、食べようか! 見た目は仰々しいけど、中身は美味しそうだし!」

「……」

「き、騎士の血の誓いはトマトジュースに炭酸で意外な味だな! 錬金術師のお茶ポーションはどんな感じ?」

「…………美味しい」

「そ、そっか! ははっ……」

「……」


 ……


 なんともいえない空気を振り払おうと、無理にテンションを上げて話しかけてみるも――ダメだ、空回りしている。


 カチャカチャと食器がぶつかる音だけが部屋に響く。


 苦い気持ちをコロッケと共に飲み込んでいった。




◇◇◇




『それじゃ、寄る所あるから!』


 と、別れたのが1時間前。


 結局あの後、平折とは一言も会話をすることはなかった。

 出来る限り無難な話題を振ったりしたが――ダメだった。

 場が持たなくてカラオケに手を出してみたが――一人で何度も唄うのは精神的にもきつかった。


 まさか平折がフィーリアさんだったなんて……


 くどいかもしれないが、未だに2人の姿が重ならない。

 雪と墨ほど性格が違う。


 なにより、これからどんな顔をすればいいのか?


 たっぷり帰路を回り道をして考えてみるものの、全然考えが纏まらない。


「ただいま」


 返ってくる返事は無い。

 これはいつもの事だ。


 平折は……靴があるな。当然、先に帰ってたか。


 とにかく疲れた。

 平折と顔を合わせたくないということもあり、自分の部屋へ直行する。


 入ってすぐ目に飛び込んで来たのは、付けっ放しのモニター。

 あぁ、ログアウトせずに飛び出したんだっけ。


 ん? あれ? 


「遅い!」


 俺が部屋に入ると同時に、チャット欄に書き込まれた。

 画面の前にはフィーリアさんがぷんすかと、怒ったエモートを繰り返している。


「悪ぃ、寄り道してた」

「どこ寄ってたのさ?」

「適当に……そのへん遠回り?」

「え、それだけ? ただの道草? うわちゃぁ~暇人だ」

「うっせ!」


 いつも通りの会話だった。

 なんだか拍子抜けする。


 だから余計に、平折とフィーリアさんが同一人物だと思えなくて混乱してしまう。


「平折……だよな?」

「それがどうしたかね、あー、その、昴君……」


 ……


 フィーリアさんに本名を教えた事は無い。

 やはり彼女は平折で間違いないようだ。


「いやー、イカ墨って初めて食べたけど、バターみたいにコクがあってビックリだったよ! 味はぺペロンチーノに似てておもったよりあっさりな感じ?」

「あ、あぁそうなんだ」

「コロッケはどうだったの? 竜王の瞳を模したってあるけどクオリティはイマイチだったよねー。味はどうだった?」

「カニクリーム……まぁおいしかったよ」

「そうそう、錬金術師のお茶ポーションだけどさ、あれは普通にジャスミンティーで――」


 どこまでも、いつも通りの会話だった。

 これからゲームでどう接すればいいのか悩んでいたのが馬鹿らしくなる位、今まで通りだった。


 モニター上のチャット欄では、フィーリアさん(義妹)が捲くし立てるかのように今日の感想を言っている。


 いや、なんていうか。


 隣の部屋にいるんだから、直接話した方が早いんじゃないか?


 なんだか無性に胸がもやもやした。


 昼間あれだけどきまぎしつつ、気を揉んでいたというのもある。


 だから気付けば立ち上がって、平折の部屋の前に来てしまっていた。


 ……ガラにもなく、らしくない事をしているという自覚はある。

 きっと俺はまだ混乱しているのだろう。


「平折?」

「~~~~ッ?!」


 コンコンとノックと共に声を掛けると、ドタバタガッシャン、ひっくり返るような音がした。


 一体何が……?


 ガチャリと開いたドアからは、恨めしそうな顔で見上げる平折の姿。

 少し涙目だ。おでこも少し赤い。心なしか頬が少し膨らんでいる。

 服はまだ着替えていない。家でオシャレをしている義妹(平折)の姿が新鮮だった。


 ちょっと……その、うん……可愛いな……


「あの、だな……こういうことは直接話してもいい――」

「――――~~~~ッ!!」


 最後まで言い終わることなく、ぽすぽすと無言でクッションを押し付けるように(はた)いてきた。

 いつものように、耳を真っ赤にしている。


「――すまん」


 これ以上、機嫌を損ねるのは得策じゃないか。


 ……はぁ、やれやれ。

 結局こっち()ではいつも通りと――


「……………………今日はぁりがと」

「――ッ?!」


 蚊の鳴くようなか細い声だけど、確かに聞こえた。


 恥ずかしかったのか、声より大きい音を立ててドアが閉まる。

 聞き間違いじゃないよな?


 半分疑心暗鬼で部屋に戻る。




『また行こうね』

――フィーリアはログアウトしました




 モニターにはそんなログが残されていた。


「……なんだよ」


 ただのチャットのログだというのに、やたらと胸が騒めいてしまう。



「~~~~♪」



 (平折)の部屋からは、こないだと同じく機嫌が良さそうな鼻歌が聞こえてくる。


 きっと。


 俺たちの何かが変わる予感がした。


これで序章終わりですっ。

もし面白い~、続き読もっ! て思って頂けたら、ブクマしてくれると嬉しいです。

ブクマは画面の右上の方から行う事が出来ます。

アプリじゃできないので注意ですっ!


感想はにゃーんの一言があれば、作者が喜びます!


応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] にゃーん [一言] にゃーんにゃーん
[一言] にゃーん 本屋でなんとなく買ったラノベから来ました!なんか…こう…うまくいえないけどすごく好きな雰囲気の作品です!ハマりました!他の作品の連載も頑張ってくださいm(_ _)m
[良い点] にゃーーーん [一言] こっから最後まで突き進むぜ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ