平折と南條さん①
「あんだか、不思議な感じですね」
「……そうだな」
目の前のちんまい少年――サンクはそんなことを言いながら、怒ったり、笑ったり、手を振ったり、しゃがみ込んだりと、様々なエモートを繰り返していた。
ゲームの機能を確認しているのだろうか? 体験版と違って、出来る事は増えるという話だが。
「とりあえず、フレンド登録しようか?」
「フレンド?」
「ゲーム内のお気に入りメンバーの登録だ」
「?」
よくわかっていない風な南條さんに、百聞は一見に如かずだろうとこちらから申請を飛ばした。
南條さんの画面の前には、【はい いいえ】の確認メッセージが届いているはずだ。
……
だというのに、こちら側の申請中のシステムメッセージが消えない。
一体どうしたのだろうか?
『ねぇ! これって【はい】のとこを押せばいいの?!』
――っ?!
突然のスマホの音に、ビックリしてしまった。
何故こちらの方に……?
『そうだ。これでゲーム内で遠くにいたとしても、フレンド欄からメッセージを送ることが出来る』
『なるほどね、体験版では出来なかった機能だわ。……ふふっ、フレンドになるのに許可が必要って変なの』
『……そうだな』
『申請なら今まで散々断ってきたんだけどね……はい、これでいいのかな?』
先日の非常階段の事を思い出した。
告白もある意味、申請なのだろう。
――答えにくいな……
目の前にいるサンクは、ペコリと頭を下げていた。
「よろしく、お願いしまs」
「あぁ、よろしく」
たどたどしい文章だった。
スマホでのメッセージは流暢だというのに、キーボードでの入力となると慣れていないのだろうか?
しかしそれが、いかにも初心者だということが強く印象付けられる。
普段の優等生然とした姿を知っているだけに、何やら新鮮だった。
「クライス君! ……その人が?」
「ひ……フィーさん」
そうこうしている内に、平折がこちらに戻ってきた。
きょとんとした表情で、じろじろとサンクを嘗め回すかのように見ている。
長年付き合ってきた感覚で、『はぇ~』『ほぉ~』といった意外そうな反応をしているのが分かる。
――俺だって、こんな地味で黒い少年が来るとは思わなかったしな。
「フィーさん、紹介するよ。こいつはサンク……まぁ右も左もわからない初心者だ。それからサンク、このケモ耳っ子がフィーリアさん。魔法系の事に関して色々知っている。そっち方面で気になる事があったらフィーさんに聞くといい」
「よろしくね、サンク君!」
「よろしく、お願いします」
俺の紹介で、互いに挨拶する2人。
ただぺこりと頭を下げるだけのサンクに対し、手を振ったり広げたりくるくる回ったり明るく大げさに歓迎を表現するフィーリアさん。
対照的な2人だった。
学校での2人を知っているだけに、むず痒いような、何とも言えない不思議な気分になった。
自分勝手な希望だが、ゲームでも2人が仲良くなれば良いと思う。
そして、いつかリアルでも――
「(――っ)」
何故だろう?
それはとてもいいことのハズだ。2人にとって、仲が深まるきっかけになるかもしれないのだ。
だというのに、胸の奥に何か棘の様なものが刺さった感じがしてしまった。
まるでお前は――――というような、厭な疼きを感じてしまう。
――馬鹿馬鹿しい。
そんな痛みを誤魔化すかのように、胸に手を当て画面へと意識を戻した。
目の前ではフィーリアさんがサンクに向けて、初心者向けのショートカットや便利なアイテムの話などを教えてあげている。
どうやら南條さんは、平折ともフレンド登録を交わしたようだった。
和気あいあいとしている姿をみて、ホッと胸に添えたままだった腕をなでおろす。
他にも平折は、手持ちのお洒落アバターに着替えまくっては南條さんに見せびらかしていた。
そのラインナップは可愛らしいものから綺麗なもの、変わり種まで様々な種類がある。
よくもまぁ、揃えたものだと思う。
南條さんも女の子だ。そういったおしゃれなものに興味があるのか、食い入るように見ていた。
そして、ある衣装にひときわ強く反応していた。
「! それ!」
「あ、これ可愛いでしょー、もらうのに苦労したんだから!」
それは鳥の羽をあしらった純白のワンピースの衣装だった。細部は金糸の刺繍が施されており、キャラのけもみみにも金のイヤリングがきらりと光っている。
件のからあげでもらえる、コラボアバターだった。
そういえば、からあげだけ弁当のせいで、南條さんと知り合ったんだっけか……
「かわいい!」
「まだ貰う事ができるよ」
「! ほんと?!」
「か、からあげ一杯食べないとだけどね。あはは……」
心なしか、南條さんがそわそわしているような気がした。
色々と平折にアバターの入手方法とかを聞いている。
……まさか、ね?
ともかく、サンクとフィーリアさんが仲良さそうにしていてよかった。
学校でも仲良さそうにしているんだ。だから――
「そうだ! クライス君、サンク君、せっかくだしパーティ組んでダンジョンに行こうよ!」
「! 行って、みたいです!」
「……そうだな」
だというのに、はしゃぐ2人を見て胸が軋んでしまっていた。
俺は――