昴と平折と①
お久しぶりです。
書籍発売を記念して、番外編を更新します。
「ただいまーっと……あれ?」
家には帰ってくれば、誰もいなかった。
平折は凛に相談があると言って出て行ったきり、まだ戻ってきていないようだ。
そしてリビングを覗けば、書置きお金が置いてある。食事代だろう。
「……弥詠子さんは親父のところか」
あの一件が終わってから、やたらと両親の仲が良い。見ているこっちが赤面するくらいだ。
はぁ、とばかりに何とも言えない色々な思いと共に、ため息が零れてしまう。
康寅の言うことはもっともだった。
焦っている。
そう、確かに俺は焦りのようなものがあった。嫉妬にも似ていると言ってもいい。
平折はいつだって、一足飛びに先に進んでいってしまうことがある。
置いて行かれるんじゃないか、見えないところに飛んで行ってしまうんじゃないか……そんな不安があることも否めない。
「平折……」
誰も居ないリビングに向かって、ぼそりと名前を呼んでみる。
だけど――ただそれだけで平折への思いがあふれてきて、そして今度は呆れた笑いが零れた。
なんてことはない。
あの日、とっくに俺にはなくてはならない存在と自覚し、兄妹の一線を越えて平折を抱いて覚悟を決めた日。それからというものの、ふとした切っ掛けで感情があふれてしまう。
好きという感情が上手くコントロールできない。
最近学校で平折に近寄る男子に、そしてなんてことない風に接する平折に妬いてしまうのはそれだった。
「っと、いけね……康寅に言われたばかりだっつーの!」
パシパシと両手で頬を叩く。
どうやら普段から、自分で思っている以上に態度にも出ていたらしい。
平折と付き合いだしたことは両親に言っていない。
いずれ避けては通れないだろう。
問題は山積みだった。
「……困ったな」
目下の問題と言えば、しばらく平折と2人きりということだろう。
今まで平折とこうして2人きりになることはあった。だが以前と今では状況が大きく違う。
明確に誰よりも好きだと、しかも恋人となった女の子と2人きりで1つ屋根の下過ごすのだ。しかも既に一線を越えている。手を出しても問題が無いというのが大問題だった。
理性を手放せば際限なく平折に溺れてしまうだろう。それが怖い。
「っと、夕飯も問題だな」
色々と誤魔化すように頭を振って冷蔵庫に向かう。
中身を確認してみるものの、それほど料理は得意というわけでないので作れるものは限られる。
「……これなら、カレーは出来るな」
幸いにして材料は残っていた。
色々あれど、平折と一緒に食べたいというのも確かで、そんな自分が滑稽で。そしてふと、以前も同じようにカレーを作った時のことを思い出し、くつくつと喉を鳴らす。
きっと、あのころから平折と一緒に居たいという気持ちは変わっていないのだろう。
「確か、辛いのは苦手だったっけ」
残っているルーは中辛。
さて、平折でも大丈夫な辛さにするためには、とスマホで『カレー 甘くなる具材 方法』と打ち込み検索するのだった。
いよいよ明後日25日、発売日が近付いてきました。
最初の1週間が勝負だと言われております。重要です。
続刊して、WEBだと描ききれなかった部分も色々描きたいです!
是非応援、よろしくお願いします!
また、現在連載中の「転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件」、こちらも書籍共々応援よろしくお願いしますね!
次回は明日のお昼更新です。