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*凛と平折と__ 後編

番外編ラストになります。

後書きにお知らせがあります。


 訝し気な顔をする昴と別れ、凜と平折はタワーマンションへと訪れていた。


「お邪魔します」

「遠慮なく上がって。あはは、ちょっと汚れているかもだけどね」


 凜の部屋は平折の目には以前と同じく雑多な、よく言えば生活感が溢れた様相である。

 前と違うところを挙げろと言われれば、キッチン周りがやたらと綺麗に片付いていることと、投げっぱなしだった衣服がソファーの上に綺麗に畳まれたり置かれたりしているところだろう。

 整頓されつつも雑多な場所がある……それはまるで、今の凜の心境を表しているかのようだった。


「紅茶でいい?」

「はい、なんでも大丈夫です」


 凜は普段使いのティーパックのものでなく、わざわざ茶葉を取り出し用意することにした。

 それは別に、平折が特別なお客様というわけではない。

 

(自分で言い出したものの、相談ってなんだろう……?)


 時間稼ぎ。要は自分が落ち着く時間が欲しかったのだ。

 凜は平折と2人っきりという状況に、若干の動揺を隠せないでいた。

 表面上は確かに今まで通りになってはいるのだが、完全に以前と同じと言うわけではない。いや、なれない。

 同じ人を好きになって、選ばれた者と選ばれなかった者という、明確な差が2人の間に出来てしまっているからだ。


 凜はチラリとリビングへと目をやれば、そこでは困った顔で所在なさげに辺りを見渡し、そわそわと落ち着かない様子の平折の姿があった。

 どうやらかなり緊張しているらしい。自分で言い出したのに、と思わなくもない。

 だけどそういったところが何だか平折らしくて――初めて変わりたいと言って来た時と同じだなと思ってしまい、なんだか笑いが零れてしまう。


「何緊張してるのよ、平折ちゃん」


 凜はそんなことを言いながら紅茶を並べていく。


「えぇっと、あれ以来凜さんと話すのが初めて言いますか、何を言って良いかわからないというか……あぅぅ……」

「あはは、確かに最近気まずい感じだったわよね。まぁしょうがないことだけど」

「……はぃ」

「……」

「……」


 そして沈黙が生まれた。

 部屋にはカチャカチャというカップが立てる音だけが響き、気まずさからのどを潤そうとすれば、自然と俯く自分の顔が紅茶に映る。

 自分の家だというのに、随分と座り心地が悪く感じてしまう。


「……凜さん、やっぱり綺麗ですよね」

「へ?」


 その時、ポツリと平折が呟いた。

 顔を挙げた凜は、困った顔で微笑む平折と目が合ってしまう。


「背も高くてスタイルも良くて、それだけじゃなくて紅茶を飲む姿も様になっていて……やっぱり憧れてしまいます」

「それは……躾も含めて親のおかげよ。感謝はするけどあたしのせいじゃない。それよりもあたしとしては平折ちゃんの在り方に憧れてるけどね」

「ふぇ?!」

「これ見て。両親と旅行へ行く時に選んでた服なんだけどね……」


 そう言って凜はソファーにあった服を取り出し広げていく。

 同世代の子が好みそうなカジュアルなものから、上流階級でも通用しそうな綺麗系モード系、さらには女の子らしさを前面に押し出した可愛らしい系のものと節操がないと言えるほど種類が豊富であり、無秩序ともいえるラインナップだった。

 これらを前に、今度は凜が困った顔を作る。


「こういうの見てさ、平折ちゃんが好きそうなものとか似合いそうなものとか分かるんだけど、自分の好みってなるとわからなかった……何も無かったんだ……」


 ――今まで周囲や相手に合わせてきただけだからね、と自虐的に笑う。


 それは凜が容姿や能力に恵まれ、周囲からの期待に応え続けてきた弊害でもあった。

 無自覚に弱音が愚痴となって口から飛び出す。


「あたしさ、きっとそういった自分が希薄で……だから昴も――」

「――そんなことないもん!」


 しかしすぐさま平折が否定の声を上げ打消し、それだけでなく凜に抱き付いてきた。

 さすがの凜もいきなりのことに度肝を抜かれ、目を丸くしてしまう。


「凜さんは中学の時、孤立していた私に手を差し伸べてくれました」

「それは打算で……」

「凜さんは、私が変われるお手伝いをしてくれました」

「それは半分は興味本位よ……」

「凜さんは私がイジメられていた時、助けてくれました」

「それ、は……平折ちゃんじゃなくて、周囲が気に入らなくて……」

「凜さんは、お似合いだって私が間違ったことを言った時、ふざけるなって本気でぶつかってきてくれました」

「そ、それ……は……」


 平折の声は酷く優し気で、それでいてどこまでも真っ直ぐだった。

 懐かしむ色と共に深い感謝も含まれており、心からの言葉と言うのも伝わってくる。

 それは心をむき出しにして全力でぶつかり合った凜と平折だからこそ、わかるものでもあった。

 これほどの仲だというのに、何か変な遠慮をしていることに、違和感すら感じてしまう。それを理解させられてしまう。


(あぁ、そうだ)


 いつだって結局、最初の一歩を踏み出すのはこの親友だった。

 その一歩を踏み出すのが、如何に困難で勇気がいるかと言うのも、今ならよくわかる。


(平折ちゃんはすごい……そして悔しい……)


 凜の中にあった弱気が溶けだすと共に、他の物へと変質していく。

 自分が変わる。

 だからこそ凜はこの親友の前で、俯いたままではいられないという想いが募っていく。


「ね、平折ちゃん。お父さんたちと行った北陸旅行、楽しかったよ」

「はい」

「こっちでは想像できない積雪量で作られた雪の回廊とか、氷見漁港で食べた宝石みたいな白エビ、立山連峰とか遠めでも笑っちゃうくらい大きくて凄くてびっくりして……平折ちゃんや昴と一緒に見られたらなぁって思っちゃった」

「私も……私も一緒に見てみたいです」


 そう言って凜と平折は身を離し、そして至近距離で視線を絡ませて笑顔を零す。

 少しだけ、晴れやかな気持ちになっていた。


「あたしね、平折ちゃんが好き。でもね、悪いけど、やっぱり異性のあれやこれを抜きにしても、昴が好き。ごめん……」

「謝まらなくてもいいです。きっと私が……いえ、そう言って真正面からぶつかってきてくれる凜さんが、私も大好きです」

「……今はまだちょっと無理だけど、いつか皆で一緒に旅行とか行きたいな」

「そう、ですね……」

「だからさ、あたし頑張る。このままの自分はイヤだ。堂々と胸を張って平折ちゃんや昴の隣に居たい」

「凜、さん……くすっ」

「あはっ」


 そして凜と平折は顔を見合わせ笑い合う。

 そこには最近感じていたわだかまりとか遠慮といったものはどこかへ吹き飛んでおり、彼女たちの間にしっかりと結ばれた絆が感じ取れた。


(また平折ちゃんに教えられたなぁ)


 ひとしきり笑い終えた後、不意に平折が真剣な表情になる。何かを言いにくそうにもごもごと口を動かし、歯切れが悪そうに言葉を紡ぐ。


「その、相談のことなんですが……」

「へ?」

「昴さんとのことですけど……いいでしょうか?」

「え、あ、うん、どんとこい!」


 凜はいきなりのことにひどく驚く。

 てっきり平折が自分の部屋に来たのは、励ます為の方便だと思っていたこともあり、一瞬変な声を出してしまっていた。

 そう言えば、と思い出す。昴の調子がおかしいのも確かだった。何かしら問題があるのかもしれない。

 その相談だと言われれば、身構え胸を押さえつつも、凜も襟を正して正座になり、平折へと向き直る。


「大切にはされているとは思うんです。そこを疑ってはいません。幸せ、といえるかもしれません。でも……」

「でも……?」


 平折は、心底困っているという顔で顔を真っ赤に染め上げながら、衝撃的な言葉を言い放つ。


「昴さん、全然私に手を出してこないんです」

「…………………………へ?」


 それは凜にとって唐突かつ予想外過ぎる言葉でもあった。


「私はその、チビでぺったんだし、この年頃の男の子はそういうことをしたがるというのに全然で……やっぱり女子としての魅力が足りていないのでしょうか……?」

「いやいやいやいや、ちょっと待って?!」

「ご、ごめんなさい……ですけど私、他に相談できる人がいなくって……」

「ひ、平折ちゃんは可愛いから! ていうか、写真集とかすごく数字叩き出してるでしょ?!」

「そ、それはそうなんですけど……」


 凜は動揺してしまっていた。

 しかし目の前の平折の瞳はいたく真剣で、惚気や冗談ではないということが分かってしまい、ますます凜の心を揺さぶってしまう。

 落ち着けとばかりに深呼吸した凜は平折と向き直り瞳を覗く。その目は不安に揺れており、様々なことを抜きにして、力になりたいと思うが、如何せん男性との交際経験のない凜にとっては未知の世界の話であり、何と答えていいかわからない。

 だけど凜には1つだけ、経験則からこれはと言えることがあった。それは先程の平折が示してくれたことでもあった。


「……んんっ! 一度さ、大胆に迫ったりとか行動してみてさ、行きつくところまで行けばいいのよ。そうやって一線超えて最初のハードルさえクリアしちゃえば、あとはもう昴だって健全な男子だし? お猿さんになるというか……」

「凜さん、その……」

「だから、まずは最初の……平折ちゃん?」


 恥ずかしながらも早口で名案とばかりに語った凜であったが、どうやら平折の反応は芳しくないようだった。

 そして申し訳ないと言った表情で重い口を開く。


「…………その、()ました」

「……………………え?」

「私からお願いして、その、あの時は実感が無くて凜さんに負けたくなくてその……」

「え? え? え?」

「でもそれっきりなんです。一度も求められてないんです……」

「ええぇぇええぇええぇ~~っ?!」


 今度こそ、凛の限界を超えるのだった。

 へ、へぇそうなんだズルいなぁ、付き合ってるんだから別におかしくはないよね? やっぱり痛かったりするのかな? そんな様々な想いが駆け巡る。目を回してしまう。


「平折ちゃん!」

「は、はいっ」

「ど、どどどどどんな感じだった?!」

「り、凜さん!?」


 今度は凜がぐぐいと平折の肩を掴んで迫る番だった。

 嫉妬、動揺、戸惑い――様々な感情が駆け巡りひしめき合う中、それらを色々な要因で飲み下して競り勝ったのは、好奇心だった。


「そ、その、あたしも興味があるというか、後学と言うか……ね、良いでしょ? 本音を言い合った仲なんだしさ!」

「え、いやその……とにかくギュッとしてくれるのが包まれてるようで安心するといいますか……」


 いろんな感情がない交ぜになった凜は、色んなものを吹っ切るために色々と質問を矢継ぎ早に放っていく。

 その結果、平折はその剣幕に圧されてしまい、昴との唯一のひめゴトを洗いざらい話す事となる。


 ……


 そして小一時間後、二人肩を寄せ合って、お互い真っ赤な顔のまま少々過激な下着や衣装をネットで購入する姿があった。


第1回集英社web小説大賞、金賞受賞しました。

集英社ダッシュエックス文庫から書籍化します。


あ、はい。突然のことで何のことかわからないでしょう? わたしもわかりません。これ、完結してるんですよ?! あわわわわわにゃーん!!


それはさておき。書籍化はゴールではありません。新たなスタートです。


エタだけはすまいと、完結までに走り抜けたときに、描きたいけど書けなかったエピソードとかも多々あります。書いてるうちに、序盤でもっと伏線として書いた方が良いなと思ったエピソードとかも。

春日真白の早期参戦や、昴や凜、平折の誕生日のこととかがそれですね。

書籍の方ではwebを読んだ方にも新鮮な気持ちで読めるものを仕上げたいと思います。


そしれこれらもすべて、今まで応援してくださった読者の皆様のお陰です。

特に皆様の感想にはどれだけ支えられたか。


何が言いたいかと言いますと。


感想、お祝いの言葉は「にゃーん」だけでもいいから鳴いてね!! にゃーん!!


  ∧,,∧

 (,,・∀・) にゃーん!!

~(_u,uノ



あ、めぇめぇ でも こーん でもいいよ!


それからご祝儀にと☆☆☆☆☆を★★★★★に塗りつぶしてもいいんだからね!!


あ、詳細は今夜投稿の活動報告で色々語ります。よかったら作者お気に入りに入れて下さいね!


にゃーん!!!!


あ、あと連載中の『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件~あれ、俺の前でだけ昔のノリって、いや、ちょっと!~』もよろしくお願いしますね!

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― 新着の感想 ―
[一言] にゃーん
[一言] にゃーん!!
[良い点] 昨日に引き続き一気読みさせていただきました。 脳が疲れて意識がにゃーんってなってます。 途中から気付いたのですが、この作品は読者ににゃーんと言わせるためだけに書きましたね?えぇ、まるっと…
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