*凛と平折と__ 中編
番外編連続更新2回目、中編になります。
「何やってんだか」
駅まで続く通学路の道に、凛の呆れた声が響く。
「……すまん、凛」
「あ、あはは……」
それにバツの悪そうな昴の声と、困った顔で乾いた笑いをこぼす平折が応える。
このやり取りも、気付けば定番化しつつもあった。
今や男女問わず平折は人気者だ。
写真集の件で皆に手伝ってもらったこともあり、気さくに話しかけてもらえる土壌も出来上がっている。
変わったと言えば平折が積極的に皆に話すようになったことと、昴がさりげなくなのだが、平折から男子を引き離そうとするところだろうか?
(まったく……)
以前からも昴はそういう行動を取っているところがあった。
凛はその時の平折が、父親の件で男性自体を苦手としていたことも知っている。凛自身もさりげなくフォローしたりもしていた。
それに平折はモデルとしてのデリケートな時期でもあって、表面上昴の行動を不審がる人はいない。
しかし平折の変化もあって、それが昴の嫉妬やヤキモチから来るものへと変わってしまったものだと勘繰る人がいるのも事実だ。
それくらい、平折に対する昴の行動は、余裕がないもののように見えた。
(……なんだかなぁ)
凛としては複雑な心境だった。自分と平折、昴が選んだのは親友のほうである。
だというのに今の昴は、平折がどこかに行ってしまいやしないかと、必死になっている様にも見えてしまう。
それだけかつての想い人の心が親友に注がれているのかと思うと、わかっているはずなのに胸に切ない痛みが走る。
「凜さん……?」
「うぅん、なんでもない」
凜は心の疼きを誤魔化すように、あえて大きな声で呆れた風なため息を吐いた。
「昴、あんた平折ちゃんが誰かに取られると思って焦り過ぎよ」
「なっ!」
「ふぇっ?!」
平折と昴から驚きの声が上がる。
その顔は図星を差されたのか羞恥で真っ赤に染まっており、2人は互いに目を逸らし合い、またも凜は嘆息する。
凜は「あぁ、もう!」とばかりにガシガシと頭をかき混ぜ、据わった瞳で2人に向きなおる。
「ほら、何かあるなら相談に乗るから。昴も平折ちゃんもそんなだと、あたしの方がまいっちゃう。だって――」
――だって、あんた達が上手くいってくれないと、フラれたあたしが惨めじゃない……
そんな嫌味の1つでも言いたかったけれど、目端に覗く2人の瞳には、まるで迷子のような戸惑いと困惑の色を見つけてしまい、胸の痛みと共に、グッと飲み込んだ。
代わりに困った顔で、もう1つ確かに息づいている本音を告げる。
「――だってあたし達さ、友達でしょ?」
凜の口元は自然と笑っていた。言ってスッキリしたという気持ちもある。それは再確認であると共に、明確な宣言でもあった。
たとえ自分の望みとは違う結果であったとしても、凜にとっては昴も平折も掛け替えのない親友だ。
正直なところ、未だ踏ん切りが付かず心もキツイところがある。
しかし一方で、2人を応援したいというのも、凛の偽らざる気持ちでもあった。
だから凜は、精一杯の笑顔を作って2人に微笑む。
「凜……」
凜の言葉を受けた昴は、観念したとばかりにため息を吐き、そっぽを向いたままポツリポツリと話し出す。
「俺もその、らしくないなとは思う。だけど勝手にそう動いてしまうというか、その、どうしていいか――」
「――凜さん」
そこへ平折が割って入って言葉を遮る。
今までの平折では考えられない強引さだった。
「平折?」
「平折ちゃん?」
凜も昴もそのらしくないとも言える平折の行動に面食らい、戸惑いまごつき目を見合わせる。
平折の目は真剣そのものだった。
困惑する凜であったが、その覚悟すら感じさせる眼差しを――そう、凜が平折を親友と認めたものと同じ目で見つめられると、何も言えなくなってしまう。
だが心当たりが何もない凜は、一体どうしたことかと昴に目線で尋ねるが、肩をすくめて苦笑を返されるのみ。どうやら昴も同じく心当たりがないようで、ますます戸惑いを深めてしまう。
しかし一転、平折は表情を緩ませると、そこへ大輪の花を咲かせて声を紡ぐ。
「私、凜さんに相談したいことがあります」
凜はそれに、ただただ頷くだけだった。