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2人の距離と、これからと

いつもよりちょっと文字数多いデス


 まさか、平折に待ち伏せされるとは思いも寄らなかった。


 不意打ちで思考はぐちゃぐちゃにされ、気恥ずかしさから思わず目を逸らしてしまう。


 一体どうして?


 今までの平折からは考えられない行動だ。


「……」

「……」


 平折は何かを言うわけじゃなく、俯き加減でチラチラとこちらの様子を伺っている。真っ赤になった耳も見える。


 まだ陽が高い住宅街に、平折と2人無言で佇む。


 胸の内は複雑だった。

 どう受け止めていいかわからなかった。

 ただ、平折に嫌われてはいないという事がわかり、胸の中に暖かなものが広がっていく。


 それが何故か、無性に気恥ずかしさに拍車をかけた。


「帰るぞ」

「ぅん」


 出てきたのはそんな言葉だった。

 自分でもどうかと思うような台詞だ。


 小さく頷く平折の姿に、どうしようもなく落ち着かない気分にさせられる。



 ……



 日中の暑さが和らぎ、夕方ともなれば秋の気配を感じる。


 そんな帰路を、平折は俺のほんの少し後ろを歩いていた。


 不思議な気分だった。

 背後に感じる気配に安心感にも似たものを感じてしまっている。



 そして、何故か――懐かしいと感じてしまった。



 昔、こういうことがあったのだろうか?


 ……わからない。


 だけど、悪くない気分だった。

 だからこそ、もどかしい気分だった。


 俺と平折の間の僅か数歩の距離が、何よりも遠いと感じてしまう。


 考えてもみれば、平折とは不思議な関係だ。


 引っ込み思案で、だけど真面目で大人しい。

 ちょっと抜けててポンコツで、ゲームではおっさん臭い悪友。

 そして、俺より3ヶ月(ほんの少し)だけ年下の女の子(義妹)


 この離れている距離が、今の平折との距離なのだろう。


 それが何だか無性に嫌なものに感じた。

 ともすれば胸を掻き毟りたくなるような感情が襲い、それを振り払おうとすると自然に足早になってしまう。

 そうなると、元の歩幅が違うのもあり平折と距離が開いてしまうが――


「~~っ」


 置いて行かれまいと、小走りになりつつ距離を詰めてくる。


 だけど、その距離は先ほどと同じ数歩の距離。


 ――今まで平折と接してきたときと同じ距離。


「……」

「……」


 何かが変わり始めた。

 だけどその距離はまだ変わっていない。


 家路を目指す道は無言のまま。


 何かを言いたかった。

 何を言っていいかわからなかった。


 もどかしいと思っているのは平折も一緒なのだろうか?


 背中から落ち着きの無い気配を感じ――そして、俺も落ち着いてなんかいなかった。

 滑稽だった。



 俺たちは、ただただ不器用だった。



 ――そして結局、何事もなく……何かを起こすこともなく家に着いてしまった。


 俺たちはあの頃から、何も変わってなんかいないのか……



「……ただいま」

「……ぃま」


 互いに無言のまま靴を脱ぐ。

 気まずい空気を感じていた。


 このままでいいのだろうか?


 そんな焦りだけが募っていく。


「平折……っ」

「……っ!」


 階段を上がろうとした平折は、ビクリと肩を震わせ足を止める。


「あ……いや……その……」

「……」


 無言の背中を直視できない。

 そもそも、気持ちが空回って声を掛けただけだ。

 話す内容なんて考えていない。


「……なんでもない」

「……ぅん」


 小さな返事の声だけを残し、平折は自分の部屋へと戻っていく。

 俺はただ、それを見守るだけしかできなかった。


 なんだか気が抜けてしまった。


 自分の不甲斐なさばかりが浮き彫りになった気がする。


 平折に遅れてのそのそと階段を上がる。


 その足取りは重く脱力したその姿は――まさしく腑抜け以外の何者でもなかった。



「はぁ~」



 そして制服のままベッドに寝転がれば、そんな自分を嘲笑うかの様なため息が出た。


 このままじゃいけない、なんとかしたい――その気持ちだけが募り、空回る。


 考えても答えは出ず、やがて意識が闇に飲み込まれ遠のいていく。


 あぁ、寝不足だったっけ――



 ………………


 ……



 夢を、見た。


 目の前には少しオシャレをした小さな少女――出合った頃の平折。

 隣には弥詠子さん(平折の母親)

 そして大きな荷物がたくさん。


 どうやらうちへ引越してきた時の夢のようだ。


 当時の俺は、平折にどう接していいかわからずにいた。

 思えば話しかけるときも『んっ』とか『おまえ』位しか言わなかった気がする。

 それが、どうして平折と名前を呼ぶようになったんだっけ……


 お互い難しい年頃だったと思う。


 それでも、最初は互いになんとかしようとしていたとは思う。


 だけどリビングに居ても平折は本を読んでばかり、俺はゲームばかりをしていたと思う。


 何を話して良いかわからなくて、もどかしくて――


『んっ』

『……え?』

『んっ!』

『わ、私?』


 ――そうだ、ぶっきらぼうにゲーム機を……



 ………………


 ……



 ――コンコン



 どうやら眠っていたらしい。

 窓は赤く染まり始めているところをみるに、寝てたのは精々小一時間というところか。


 ――コンコン


 何かの音がしているようだ。

 この音に起こされたけど……一体これはなんだ?

 寝起きの頭は上手く働かない。


 ――コンコン


 あー、扉の方から聞こえ――


「あ、あの!!」

「うぉっ?!」


 平折の声だった。

 聞いた事の無い位の、大きな声だった。


 思わずビックリして、ドタバタがっしゃん、ベッドからずり落ちる。


「だ、大丈夫?」

「いてて……あぁ、大じょう……ぶ……」


 驚きながらも扉を開けると、そこには予想外の平折の姿があった。


「……平折?」

「~~~~っ!」


 いつもと違って、髪を下ろした姿だった。

 濡れ羽色の艶のある髪はよく梳かされて、癖毛なのか先の方だけ緩く巻いてるのも可愛らしい。

 服もハイウェストで絞った桜色のワンピース。家の中だからか上着は脱いで、ノースリーブから見える肩が眩しい。普段穿かない短い丈のスカート部分は、不安なのか手でもじもじと押さえていた。

 そして、よく見れば薄っすらと化粧もしている。



 あの日、フィーリアさんとして出会った平折の姿、そのものだった。



 頬を紅潮させ恥ずかしそうにするがしかし、その瞳はどこまでも硬い意志の強さを感じさせた。


 ――勝負服。


 何かを変える為の戦いに赴く姿は、そんな言葉を思い起こさせる。

 その気迫に思わずたじろいでしまう。


「すぅ――ふぅ~~」


 大きく一つ深呼吸、そして「よし!」と小さく拳を胸で握り、気合を入れて俺と向き合う。

 釣られて自ずとこちらの背筋も伸びてしまう。


 一体何を言おうと――


「げ、ゲーム!」

「……え?」

「わ、私とゲーム、しませんか?!」

「え……あ、あぁ」


 一世一代の大勝負を仕掛けようとする姿からは、思わぬ言葉を頂いてしまった。


 だけど、本気だったのだろう。どこまでも真剣だったのだろう。


 目の前の平折は耳まで真っ赤に染め上げて、目尻には涙を浮かべぷるぷる肩を震わせていた。



 ――そこまで気合を入れてまで言う事か?



 思わず、口元が緩んでしまうのがわかる。

 思えば可笑しな台詞だ、

 ああ、でも。それでこそ――


「ま、待ってますから!」

「……わかった」


 それだけ言って逃げるように自分の部屋に戻るもしかし、「ぴゃあっ!」と慌てすぎて扉にぶつかる平折の姿が見えた。


 ――ははっ。


 なんだか、色々悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。


 どたばたがっしゃんと、隣の部屋から聞こえる騒がしい音を聞きながらPCを立ち上げる。


 クライアントを立ち上げ、パスワードを打ち込む時間ももどかしかった。


『遅い!』

「すぐに立ち上げたぞ! あと寝てたし!」

『1時間は待ってたのに……! あと、ずっとインしっぱなしにしとけばスグだよ!』

「無茶言うなよ!」


 ログインして早々、軽口の叩き合い。

 そこには、今朝からの剣呑な空気はどこにも無かった。


 ははっ。


 そうだな、謝っておかないと――


「まーその、なんだ。今日は、あー、なんか変でごめん……」

『ん、いいよ。私もその、うん、わかってるから! 男の子の日だったんだよね?』

「は? なんだそれ?」

『またまた~。そういう時はゲームだよゲーム、むらむらした気分をゲームで発散だよ!』

「おい待て、何か勘違いしてる!」

「ふひひ、言い訳はいいですよ~だ」


 ――何か色々台無しだった。

 しかし現実で何かあっても、ゲームなら忌憚無く言葉を交わし、ちょっとしたことも元通り。


 それがなんだか、俺たちらしいとも思ってしまった。


 あと、うん。

 平折なりに気遣っているのはわかる……いや、わかるけどさ……そのおっさん臭いのは素なのか?! どっち?!


 でも……だからこそ……あー、もう!


『ほら、亀狩りに行こう、亀!』

「早速かよ」

『今日こそは出したいし、1体だけじゃなくて何体も一気にいこう!』

「おい、ちょっ、トレインしまくって――まじかー!!」


 平折はいつもよりハイテンションだった。

 まったく……人の事は言えないが、平折も大概不器用だ。


 モニターでは阿鼻叫喚な乱戦が広がっている。


『これ、かえって効率悪くなるね……』

「当たり前だ!」

『中々ドロップしないからって、焦ってもいい事ないね』

「……あぁ、そうだな」


 ゲームでさえ、焦っても良いことがない。


 現実なら尚更だ。


「フィーさん、いや平折」

『んぅ?』

「これからも、よろしくな」

『……うん!』


 なら、俺たちは俺たちの速度で、出来ることをやっていこう。


 とにかく、今はゲームをしよう。


 ……あれ、ちょっとまてよ?


「それより数学の追試はいいのか?」

『ぎゃー! 今はそれは言わないで!』



◇◇◇



 寝落ちするまでゲームをするのはいかがなものかと思う。


 あの後、何かを忘れるかのようにゲームに没頭してしまった。


「ふぁあぁぁ~~いてて……」


 おかげで変な姿勢で寝てしまって首が痛い。


 まったく、我ながら馬鹿だと思う。



「……平折」

「……ぁ」



 部屋を出たら、昨日と同じく平折と出会ってしまった。


 昨日と違って平折の髪はボサボサ跳ねており、服も着替えていないのか桜色のワンピースのままだ。

 ……ちょっとスカートの裾が皺になってるな。


 とはいえ、俺も人の事を言えないような格好になっているはずだ。

 互いに寝落ちするまでゲームをしていたのは知っている。

 だからお互い、なんだか妙に可笑しくなって自然と笑いがこぼれてきた。



「「おはよう」」



 朝の廊下に声が重なる。


 ――そして笑い声も重なっていった。


これにて一章終わりです。

ここまで読んでくださった皆様、今後も昴と平折の物語を見守っていってくれると嬉しいです。

ブクマや評価、感想やレビューはとても書くモチベーションになります。

感想はにゃーんだけで結構ですので、是非お気軽に!


それらをおねだりする文をのっけておきますね。


↓  ↓  ↓  ↓  ↓



『とても恐ろしい 集団心理がある……』


ブクマ!! ブクマはまだかーー!!!

なぜ付かないー!!! 一体どうなってるんだーー!!!

評価も付かない!! 遅すぎるぞォォーーーー!!!

早く……感想でもいい、つけてくれ……オレの小説が……


『なぜなら!!!もうお分かりだろう!!!』

『誰も……なろうに登録していないのである!!!』


早く!! ブクマしてくれーー!! 評価に感想、レビューをー!! 誰かーー!!


『誰も!! ポイントを付ける人がいないのである!!』


おかしい……これは何かがおかしいぞ……

「えっ??」

なろうの評価システムは大変に優秀で、本来は更新から5分以内に反応できるように設定されている。

「え?? そんなに早く?」

うむ。更新通知から1分以内には、もう読者は読みに来ていると言われる。

そしてその更新から 4分以内には読了できるよう、作者というものは、そこまで考えて!更新されているのだ!!

なのに、いまだに感想やレビューの赤文字が見られないとは……これは、絶対におかしい……

何かが、あったに……違いない……

「一体 何が・・・」


『そう、もうお分かりだろう……』

『誰も!! なろうに登録していないのである!!!』


なろうは誰でも無料で登録することができ、作者や小説を応援することができます。

ブクマはこの画面の上の方から、感想やレビュー評価はこのイラストの下からすることができます。

ポイントが付くことによって、他の人にもアピールすることができるシステムになっているので、もし面白いと思って頂ければブクマや評価、レビューをお願いします。

感想はいつも、書く上での励みになっています……っ!


次回もよろしくお願いしますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] にゃーん ここまで読めました!
[良い点] にゃーーん(可愛い) [気になる点] にゃん(主人公がヒロインのこと気にしすぎ。ヒロインが思ったより、はっきり話すのが遅い気がする…) [一言] にゃんにゃんにゃん。もう結末は見ちゃいまし…
[気になる点] 「まーその、なんだ。今日は、あー、なんか変でごめん……」 『ん、いいよ。私もその、うん、わかってるから! 男の子の日だったんだよね?』 「は? なんだそれ?」 『またまた~。そういう時…
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